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1:始まりは突然に


「それで知ってるか?」


「一体何をだよ」


 俺、菅橋晴希(かんばしはるき)は学校の帰り道、いつものように帰っていると一緒に帰っている釘川涼(くぎがわりょう)が藪から棒に話しかけてきた。

 いきなり知っているかどうかを聞かれたってわかるわけがない。

 まぁ、いつも通り涼が好きな噂話を聞かされるのだろうけど。


「だから、言ってるじゃん。片腕の怪物のことだよ」


「お前言ってないからな。唐突にその話始めたからな?」


「いやいや、今学校で有名じゃん。流行ってるんだよ?」


「関係あるか」


 涼は「はいはい」と言いながら少し白けた顔をする。

 なんで俺が悪いみたいになってるんだ?

 あと、そういう怪談話的なやつって流行るっていうのか?それに有名って言われても全然聞いたことがない。

 涼はいつもどこからともなくそういった話を持ってくるから慣れてはいるが。


「それで、なんなんだ?その片腕の怪物って」


 俺が尋ねると涼は面白みを取り戻したように一気に顔を明るくする。


「なんか、夜の学校の周辺に出てくるんだって!左腕がめちゃくちゃデカくて、なんならちょっと引きずってるレベルなんだって!」


 涼は饒舌に喋り続ける。


「腕以外は普通の人と似たような感じなんだけど、腕はもはや形状もおかしいらしい。それでここ一週間で目撃例が増えてるらしいんだよ!」


 涼はワクワクしながら話している横で俺は一度ため息をついた。

 ほんとに涼はオカルトの話が好きだな。涼が話題を出すとかなりの割合で、怪談、都市伝説などのオカルトの話か噂話になる。

 一体どこでそんな話を拾ってきているのやら。

 ここ一週間の話か。特になんの変わりのない一週間だったけどな。何か変なことでもあったっけ?


「それでその怪物は何してるんだ?」


「それは知らない。なんか徘徊してるんだって」


 涼は変わらぬ調子で答える。

 学校の周りなんかを徘徊してどうするんだ?この学校の地縛霊とかで学校から離れられないとかか?それだとしたら最近そんな話なんて聞かないしなんで今更発見なんてされる?


「それで、さ」


 涼は進めていた足を止めてこっちを目を輝かせて見つめてくる。

 嫌な予感がする。


「それで、なんだよ」


「わかってるくせにー」


 ニヤニヤした表情をして俺の腕の肘で軽く触ってくる。


「・・・・・・行かないからな?」


「えー!なんでさ、行こうぜ⁉︎」


 涼はわざとらしく落胆したような仕草を見せる。

 やっぱり。なぜだか知らないけど涼は自分で体験しないと気が済まないらしい。

 これまで色んなことしてきたらしいからその話が本当だった場合たぶんかなり憑いてたりするかもしれない。

 それにしても今回俺を誘ってきたのは珍しい。

 これまで涼はオカルトの話の場合大体一人でやっているのに。なんなら話す前にやってきたということも多いレベルなのに。


「流石に夜に学校の近くはまずいぞ」


「大丈夫だって。俺今までに学校に何回か入ったことあるけどバレてないから」


 こいつ今衝撃の告白したぞ。

 そうだよな、今まで話してきた中で学校の怪談話も何個かあったもんな。夜での話ばっかりだったし、そりゃ忍び込むことも経験済みだよな。

 そうじゃなくて、俺まで巻き込むのはやめてほしい。今までバレなくても今回は違う可能性だってあるんだから。

 今回は周辺だからといって近くに教師が通りかかれば怒られるだろう。


「それじゃ、今回は自重してくれ」


「今日の二十二時校門前集合な。じゃあ!」


「ちょっと!」


 涼は走って曲がり道を曲がっていった。ここがいつも別れる場所だから涼は急いで帰ったことになる。

 俺が断る前に帰って逃げやがった。

 どうしよう。普通にスルーしようかな。

 あいつ、本気で実行する気なのか?話を聞いてる感じだとほんとにやりそうだけど。

 とりあえず帰ろう。追いかけるのはめんどくさいし。

 俺は帰路について道を歩き始める。



 だいぶ家まで近づいてきた。

 学校から家までは歩いて約二十分。割と近い。だからあの学校を選んだんだけど。

 歩いて道を曲がると一人の少女が見えた。青いショートヘアーの少女はなにやら辺りをきょろきょろしている。


「どうかしました?」


 少女に近づいて話しかける。少女は凄い勢いで振り向いてきた。

 今初めて顔がはっきり見えたがかなり美人だ。歳は同じぐらいに見える。


「はい?私になんの用でしょう?」


 左手の人差し指を頬に当てて不思議そうな顔で少女は尋ねてくる。

 いや、俺が訊いているんだけど。


「なんか、キョロキョロしてたのでどうかしたのかなって?」


「あー、道が分からなくてですね」


 少女は少し照れながら話す。

 なんだ、ちょっと迷子になってただけなのか。初めて来たところなのかな?


「どこ行きたいんですか?」


「天ノ山高校に行きたいんですけど」


 天ノ山高校は俺が通っている学校だ。学校で見たことない人だし、一体なんの用なんだろう。

 いや、そもそも通ってたら道を間違えないか。今は二学期に入って九月。俺と同じ二年や三年はもちろん流石に一年もそろそろ慣れてきただろうし。

 たぶん別の学校の人だろう。もしかしたら転校生だったりするかもしれないけど。


「それなら、そこの道を右に曲がってずっとまっすぐ行けば着きますよ」


「それはありがとうございます!こんな親切な人に会えるなんて私は運がいいですね!」


 尋ねれば大抵の人は知っていれば答えてくれると思うけど。美人だとそうもいかないのか?

 役に立てたみたいで何よりだけども。

 少女はまっすぐ道を歩いて行く。

 うん?


「ちょっと待ったー!」


 俺は少女を走って追いかけた。さっき曲がってと言った角を通り過ぎて。


「どうかしました?」


 少女は振り返ると何気ない顔で尋ねる。


「どうかしました?じゃなくて!俺、さっきそこを曲がって言いましたよね⁉︎なんで真っ直ぐ行くんです?」


「・・・・・・あー、すみません。そうでしたね。失礼しました」


 少女は納得したような顔をするとまた歩みを進めた。

 さっきと同じスピードで進んで道を右に曲がる。

 ・・・・・・うん?


「ちょっと待ってー!」


 またもや少女を追いかける。


「今度はなんですか?」


 少女はまた何気ない顔で振り向いてくる。

 なんですか?じゃないんだよ。


「なんでこっちに来たんですか?」


「え、右に曲がるって言ってませんでした?」


 言ったよ。言ったけどさ。通り越して反対から見たんだから今度は左でしょ⁉︎これはもはや方向音痴って言っていいのか?それ以前の問題じゃない?

 なにこれ、俺が悪いの?俺の説明不足だっていうの?


「わかりました。この道、ひたすら真っ直ぐ行ってもらったら着きますんで。学校が見えるまで曲がらないでください」


「わかりました!」


 少女は大きく首を縦に振る。

 これ、俺案内した方がいいのかな?まだ不安しかないんだけど。


「そういえばなんだけど」


「なんでしょう?」


「なんで高校に行きたいの?」


「それはですね・・・・・・」


 少女は少し言葉をもったいぶる。

 この溜めは一体何?言っていいのかどうか分からないなら言わなくていいんだけど。


「そっか、それじゃあ」


「ああ、ちょっと待ってください」


 俺が帰ろうと足を進めようとすると少女は焦ったように引き留めた。


「ここまで親切にしてくれたんですから、それぐらいは答えますよ」


 少女は自信があるのかのように胸を張る。

 ならさっきのはなんだったんだよ。そう言うのなら聞くけど。


「なんか、そこに行って人を頼れって言われて。あとは調査です」


「一体誰から、なんで?調査って何を?」


「それはあなたにはお答えできないです」


 答えられないのかい。誰を頼るのかも聞きたかったけど、これもたぶん聞かないだろうからいいや。

 言い方からして頼る人は学校の関係者だし、学校の何かを調査するんだよな。調査ってアンケートでもやるのか?


「それじゃあ、私は行きます」


「ああ、真っ直ぐだからな」


 俺は歩き出そうとしている少女に念を押す。

 案内しても良かったが、なぜか今はすぐに帰りたい気分だ。


「それではまた縁があったら」


「じゃあな。真っ直ぐだからな」


「わかってますって」


 少女は軽く手を振って歩いて行く。

 これだけ言っておけば大丈夫だろう。さて、帰ろう。今日の夕食は何を使ったものかな。

4/4 22:30 2話と共に少し内容を変更しました。

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