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第二章(2)

「キノちゃん、ご機嫌だねー!」

 書記となってしまった級長会議から数日経ったある日、なずなが嬉しそうに香夜子に言った。

 すると香夜子はくすぐったそうにはにかんだ。

 亜樹也となずな、寛太のおかげで、香夜子はその後すんなりとクラスに馴染み始められた。

 それでも、やっぱり自分からクラスメイトに話しかけるのはまだ勇気が要る。みんなが話しかけてくれるのは嬉しいけれど、気を遣わせてしまっていたらどうしようとも思う。

 そんなことを思っていたら、授業の合間に亜樹也が言った。

「キノちゃん、必要な気遣いと要らない気遣いがあるんだよ?」

「要らない気遣い?」

「うん。肩に力入ってる」

 くすくすとそう指摘した亜樹也に香夜子は驚いた。

「キノちゃんはわかりやすいよねー」

 そのなずなの弁に、香夜子は不思議に思い首を傾げた。

 肩に力が入ってしまうのは本当だ。それを気遣いと称されたことがまず驚きだった。これは自分の臆病さから来るものだと思っていた。わかりやすい、周りからはそんな風に見えることも驚きだった。

 寛太はその様子を眺めながら思った。たぶんみんな気付いてる。

 この数日で香夜子の苦手なものに気付いているのはきっと自分たちだけではない。和気藹々としたクラスメイトたちを見ていればわかった。香夜子を戸惑いから逃してあげるように、少しずつ隙間を埋めていくように見える。

 そう考えると自分やなずなは随分と唐突だったなと呆れたくなるけれど、香夜子はすんなりと自分たちのことを受け入れてくれた。だからきっとこれはこれで良かったのだ。

「キノちゃんは初めの一歩が勇気いるんだよね!」

 出会って数日、まるで香夜子のことならなんでも知っていると言わんばかりのなずなの物言いに、寛太と亜樹也は苦笑したものの、朗らかな目を向けた。

「お前、ほんとキノちゃん大好きだよな」

 寛太がそう言うと、なずなはとても嬉しそうだ。

 変わり者のなずなに気に入られてしまった香夜子を哀れに思いながらも寛太は知っている。

 なずなは変わり者だけれど、他人の良いところを見付けることが得意だ。得意過ぎて驚くことも度々ある。

 臆病なのは決して悪いことではないと寛太は思う。なずなと亜樹也も同じことを思っていた。

 性格的にあっけらかんと受け止めるだけで、自分たちにだってそんなことはたくさんある。だから新学期一日目の自分にひどく驚いたのだった。

「あのさー、お前らあんまりキノちゃんに無理押し付けるなよー?」

 寛太が何気なくそう言ったら、亜樹也となずながたじろいだ横で、香夜子が自然と心地好い微笑みを浮かべた。

「みんな、上手な気遣い屋さん。嬉しい。ありがとう」

 嬉しくって嬉しいと、呼吸をするように伝えられたけれど、本当は少し羨ましくもある。三人みたいに振る舞えたら、目に映る毎日はもっと明るいかもしれない。

 誰かに助けてもらわないと一歩踏み出せない自分が、無性に窮屈だと香夜子は思いはじめていた。

 「自然体で素敵だね」と続けた香夜子へ寛太が当たり前のように言った。

「キノちゃんのそれも自然体じゃん」

 なずなと亜樹也は思わず反省してしまった。確かにこれが香夜子であって、肩の力を抜きなよと言う方が間違いかもしれない。

「キノちゃん、遂に今日学級会だね」

 亜樹也の悪戯な目を浮かべた言葉に、香夜子の表情が一瞬で固まる。

 香夜子の自然体、それがこれ。そう思うと亜樹也は可笑しくて、笑いが込み上げようとしてしまう。結局笑ってしまっても、ここ数日でもう今更だから香夜子も気にしない。そうして、それどころではないこともみんなわかっている。それが香夜子らしさであって、香夜子本人もそれを今知ったばかりだ。

「大丈夫、大丈夫ー。自己紹介もちゃんと上手く乗り切っちゃったじゃん」

 なずなはそう言うけれど、用意していた言葉を一所懸命に話した香夜子には手惑った感覚しか残っていなかった。

 しかし、ひとつだけ、香夜子は自分じゃわからないことがあった。勇気を出す邪魔をするものがただの緊張なのかいつもの不安なのかよくわからない。どちらもかもしれないし、どちらかだけかもしれない。

 授業が始まる直前に、亜樹也が「安心していいと思うよ」と言った。

 どういう意味かわからなくて、香夜子は首を傾げた。

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