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第七章(2)

 稔は駅に着くと、遠目に見つけた和夫の姿に呆れた。いつでも元気な和夫のご機嫌が、面倒くさいくらいよさそうに見える。

 良いことがあったのだろうと想像は付き、どれだけ良いことだったのかを考えてみる。思い浮かんだのは和夫の隣で笑う香夜子で、あの子は単純だからと可笑しくなり、自分が出した答えは正解な気がした。

 電車登校の高校生はみんな同じ駅を使うため、毎朝嫌でも中学の友達に山ほど出会う。

 駅の入り口の脇で、ご機嫌な和夫が出くわした友達に揶揄われている。その姿を面白く見つめながら近寄っていくと、「和夫が和夫のくせにボロを出さない」と稔は苦情を言われた。

「和夫は間抜けだから恥ずかしくて彼女出来たって言えないんだよね」

 和夫がぎょっとして、そして顔を紅くした。その場にいた数人の友達はにやにやと悪戯な表情を浮かべ、予想は正解で間違いないと稔は満足した。

「どんな子どんな子ー?」

「和夫が告白したの?」

「てか、この和夫が自分から告白?!」

 みんながわんやわんやと興味のままに問いただしはじめた相手は和夫ではなく稔だった。聞く相手を間違っているだろうと言わんばかりの笑みを浮かべた稔が和夫を見遣って言った。

「和夫、僕も知りたいな」

 じっと全員の視線が和夫を捕まえて、逃げるに逃げられないとわかった和夫が只管に狼狽える。どうしてご機嫌なくせにみなまで言わないのか疑問に思うから、みんな余計に気になる。

 何も言わずにみんなが教えろと目で訴えてくる。せがむ視線に囲まれた和夫はなんとなく悔しくて言いたくない。無言の押し問答で異様な雰囲気を放つ彼らに「おはよう」と挨拶しようとした誰かが呆れたように声をかけた。

「……遅刻、するよ?」

 輪の中でひとり冷静に面白可笑しく成り行きを見ていた稔が問い返した。

「もうそんな時間?」

「うん、だって、ほら」

 指を差されたロータリーの真ん中にある時計を見ると、確かに時間が怪しい。後で愉しもうと諦めた稔が他を放って歩き出すと、流石に全員が慌てて改札に向かいだした。

「何があったの?」

「和夫に彼女が出来たんだよね」

「マジで! 和夫のくせに」

 目の前で行われたこの遣り取りに、和夫は文句が言いたくなった。常々みんな自分の扱いがひどいと思う。



 半分はホームが別々で、同じ方向同士で話しながら電車に揺られる。漸く認めた和夫に誰かが言った。

「で、和夫が告白したの?」

 和夫がぐうと言葉を詰まらせる。

「そうなの?」

 もしかしたら次の駅で香夜子が乗って来るかもしれないと思いながら、稔まで和夫にそう尋ねた。

 同じ沿線の香夜子は時々電車が一緒になる。和夫と稔が二人だけで居る時だけ香夜子は声をかけてくる。みんなと居る時は香夜子が緊張するだろうから絶対に和夫が声をかけない。和夫が声をかけないから稔も電車を降りるまで声をかけないようにしている。

「どっちが付き合おうって言ったの? キノちゃん乗ってくる前に教えてよ、和夫」

 香夜子が乗ってくることを前提に言った稔へ、和夫は恨めしそうな視線を投げた。

「乗って来る前にって、今日同じ電車かわからないじゃん」

「同じ電車の時もあると」

 誰かがメモでも取るかのように言った。

「キノちゃんて言うんだー」

 稔の悪戯にみんなの好奇心がさらに膨らんだ。

 ドアの付近に立っているから、香夜子が同じ車両に乗ってきたらお互いすぐわかるなと二人が思っていたら、香夜子の最寄駅に電車が止まった。

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