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第六章(4)

 昼休みに学食で弁当を広げたら、いつものように和夫と稔が香夜子たちのところへ遣って来た。

 休み時間のことを思い出した亜樹也が、いつものように構わず吹き出した。

「だからさー、俺を見るなり笑うのやめろって。ひどい」

 和夫がそう文句を言うと稔まで笑い転げている。釣られて寛太まで笑いだし、和夫はばつが悪くてなずなに助けを求めた。

「なっちゃんはわかってくれるよね!」

 もちろんとばかりになずながこくこくと頷いたのは、ちょうどおかずを頬張っていたからだ。

 香夜子がみんなの様子を見つめながらぽつりと言った。

「先輩が居てくれて良かった」

 和夫がきょとんとした。それから、テーブルの下で無意識に香夜子が自分の制服を握ったのに気付いた和夫は香夜子に向けて優しく微笑んだ。まるでふたりだけの世界を作り出してしまったが、二人はすぐには気付かなかった。

 休み時間のことだろうなと検討を付けたみんなの、来てくれて良かったと言うところじゃないかと言わんばかりの視線に気付くと香夜子はたじろいだ。来てくれて良かったと本人も言おうとしていたはずだった。

 和夫は目が合ってしまった稔に何気無く投げかけた。

「なあ、稔」

「うん、和夫は間抜けだね」

 さらりと間髪入れずに稔からそんな返事が返ってくる。言われるとわかっていた和夫は自分の間抜けさが楽しくなってはにかんだ。その隣でくすりと笑った香夜子が肩を竦める。

 今の香夜子の反応が次の一歩に進むための気持ちが整った証拠のように和夫以外の目に映った。照れくささと嬉しさでいっぱいの和夫は気付かない。

 和夫は香夜子の気持ちに気付いているのかどちらなのだろうか。亜樹也は気になりはじめた。稔は知っていそうだと見遣ると、悪戯な瞳と目が合う。楽しそうということはそういうことなのだろうと亜樹也は納得した。

「ねえそういえば、提出しちゃったあの作文て戻ってくるのかなあ?」

 弁当を平らげた後でなずなが言った。香夜子のあの作文、和夫たちにもに聴かせてあげたい。

「作文?」

 和夫と稔が首を傾げた。

「キノちゃんの様子がおかしかった原因です」

 寛太が教えると和夫は合点がいった。

「もしかして前に出て発表するやつ?」

「あー、おれたちも一年の時にあった気がする」

 稔と和夫がまちまちに遡った記憶を口にした。

「それで香夜ちゃん困った顔してたのかー」

 あの時、困り顔の理由を香夜子に聞きそびれた。和夫は少し心配していたけれど、きっと上手く乗り越えられたんだなと思った。

「キノちゃん素敵でしたよー。ね? キノちゃん!」

「なずなさ……本人にその同意を求めるのはなんだか変だろ」

 寛太がぼやくと、なずなが頰を膨らませて言った。

「だってとっても素敵だったんだもん!」

「先輩たちにも聴かせてあげたい! ね? キノちゃん!」

 亜樹也までそんな言い方をしたから、和夫と稔は俄然興味を惹かれ、香夜子はなんと返事をしたらいいのか困り果てた。

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