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第五章(1)
ふと吸い込んだ空気で世界が変わる。
そんなこと知ったら誰かに伝えたくなった。
あのねと言ったら笑ってくれた。そうして誰かがまた笑顔を咲かせる。
ガラスの向こうから差す陽の光に目を瞑ったけれど、懸命に少しずつ目を開いていった。
空は思ったよりも高くて、太陽は思ったよりも近くにあるのに眩しすぎなかった。ただ穏やかに水面を照らす。
温かいねと微笑んだら涙が伝った。
温かいんだよと教えられたら涙が溢れた。
空を見上げる為に使った勇気、揺れる水面の一滴が心を強くしてくれる。見上げてばかりいても仕方ないかなと手を広げてみたら、美しい波紋が広がった。
ふわふわときらきらと輝いていた。
そうして広がる毎日が、ひとりの、みんなの幸せに変わっていく。
いつかグラスを傾けて語らう時、伝えてみた。
あの時、あの瞬間、あの言葉とあの手が背中を押してくれたから、きっとその一歩を踏み出せたのだと。
カラフェの中で揺られながら、そんないつかの夢を見る。




