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第三章(6)

 なずなの寄り道に、寛太は亜樹也を巻き込んだ。面白そうだからいいよと快く巻き込まれた亜樹也は大抵楽天的だ。

 寛太が亜樹也を巻き込んだのには理由があった。なずなに聞かれたくないことを言われそうで嫌だった。しかし寛太が聞かれたくなかったことを言ったのは亜樹也で、完全な誤算だった。

「寛太さ、なんだか午後から変だよね」

「ねえアリ先輩って、キノちゃんのこと大好きだよね?」

 期せず同時に言われた亜樹也となずなの脈略がないようであってしまうその二言に寛太はどう答えようか悩み込んだ。切実に言われたくなかった。誰かに言われてしまったら考えなくてはいけなくなる。

「……おまえら、一気になんなの」

 思わずそう零した寛太に亜樹也となずなが顔を見合わせた。二人は言葉の通りを言いたかったまでで、それ以上深いところまで考えていなかった。そしてたまたま同時になってしまっただけだ。

「ごめん」

 丸わかってしまったなずなが謝ると、亜樹也も同じように「ごめん」と言った。

 寛太を悩ませようというつもりはなかったのに悩ませてしまったことを申し訳なく思って謝ったものの、言ってしまったものはもう覆せない。

「アイスか肉まん」

 そう言った寛太になずながため息を吐いた。

「現金!」

 そう非難したものの、知っている。これは答えがちゃんと出るまで付き合ってあげなきゃいけないやつだ。

「美味しいたこ焼き屋さんあるよ」

 寛太が何を求めているか気付いた亜樹也が言った。

「俺、アイスか肉まんがいいって言ったよね?」

「たこ焼き、おすすめ。あと、そこのジュースでっかいんだ」

 にこにことそう言った亜樹也を見遣った寛太が言った。

「……たこ焼きにする」

 答えを出せって言われちゃったなと思いながら、寛太は先日のことを思い浮かべた。

 このままが良いのかと聞いた寛太に亜樹也が同じ問いを返したとき、寛太は亜樹也にこのままが良いと言っていた。このままで良いと思っている、今だって。

 昼休み、香夜子と和夫の幸せそうな雰囲気に感じたことは幾らかの羨望。しかしその中には幾つもの複雑なものが含まれていたから、寛太は形にしたくなかった。

 好いなと思ったら動揺していた。隠したつもりがまるで隠れていなかったと思うと、自分が切なくて、誰にも言われたくなかった。言われてしまったら、どうしてを見つけなければならなくなる。

 曖昧な気持ちを具体的にしてしまうことは怖い。けれど、曖昧にゆらゆら揺れていつか息継ぎが難しくなって溺れそうになっても困る。

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