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第三章(3)

 男女別の移動教室へ仲の好い数人で向かいながら、寛太は亜樹也に「亜樹ちゃん、ちょっと」と言って立ち止まると、みんなが先へ行ってしまうのを待った。

 一体なんだろうと思いながら、亜樹也は寛太と共に渡り廊下の片隅に寄った。寛太がきょろきょろと辺りを伺い、わざわざ人気がないことを確認している。みんなから離れて、しかもそこまでするということは、余程の内緒話があるのだろう。

「何かあった?」

 亜樹也は少し心配になってきた。向かいに立つ寛太がなんだかいつもと違う。悩みがある、という顔ではない。ただ心配そうに自分を見ている。

 寛太は亜樹也を引き留めたものの、どんな言葉で切り出せばいいのか迷ってしまった。亜樹也があまりにも心配そうな顔をしているからだ。心配しているのは自分の方だと思い、真剣な面持ちで亜樹也に尋ねた。

「亜樹ちゃんさ、キノちゃんのことこのままでいいの?」

 いつになく真面目な声色で寛太が言うから、亜樹也は柄にもなく戸惑ってしまった。そうして寛太の話が全く見えない。香夜子と自分の間に放っておいたら困る案件などあっただろうか。きっと寛太は何かを勘違いしているのだと亜樹也は決めた。しかし寛太は一体何と何を勘違いしているのだろうか。亜樹也にはよくわからない。

「このまま?」

 自分の周りのこのままじゃ不味いことも見渡してみたけれど、やっぱり特に見当たらない。

「キノちゃんと仲の好い先輩のこと」

 どうして寛太はそんなことを突然言ってきたのか。量りかねた亜樹也は取り敢えずあのふたりのことを思い浮かべた。

 時間がかかりそうだなと思う、あの二人は。このままで良いかどうかと聞かれると、あの二人に限っては時間の流れる儘が良いように見える。このままで居たそうにも見えた。焦ったい気もするけれど微笑ましくて、級長会の度にほっこりとする。

 と、亜樹也は首を傾げた。

「あれ? 知ってたんだ、アリ先輩のこと」

 初めての級長会の翌日、「どうだった?」と聞かれた亜樹也は思わず和夫の珍行動を思い出して、「変な先輩がいた」という感想だけしか言わなかった。

 亜樹也の疑問は最もかもしれないけれど、それよりも寛太は亜樹也がどう思っているのかを知りたい。だから、もう一回、ゆっくりと問いかけた。

「……いいの? このままで」

 そうしてよくよく考えてみて、やっとどういうわけか亜樹也は辿り着いた。やっぱり寛太は勘違いをしている。それは亜樹也にとって意外な勘違いだった。

「あのさ、寛太。なにか勘違いしてない?」

「は?」

「僕、別にキノちゃんのことそういう好きじゃないんだけど?」

 亜樹也の香夜子に対する好きは、なずなの香夜子に対する好きと同じ。まさか寛太にそんな誤解をされているとは思ってもみなかった。

「早とちりだったー!」

 叫ぶようにそう声を上げた寛太は恥ずかしくて、しゃがみこんで頭を抱えた。

 亜樹也が香夜子を見つめる目はいつも穏やかに嬉しそうにまあるくて、だから完全にそういう好きと勘違いしていた。とんだ見当違いだった。とにかく恥ずかしい。

 と、亜樹也がしゃがんで寛太の耳元で呟いた。

「ねえ、寛太こそどうなの?」

 息を飲んだ寛太はこんなことを聞き返されるなど思ってもみなかった。しかし「なんで?」と聞き返さない程度の自覚なら持っていたから、胸が締め付けられた。亜樹也の観察力には恐れ入った。

 聞かれたくなかった、誰にも。答えを探したら、そういうことだと認めてしまわなきゃいけない気がする。自分自身で時々感じる香夜子に対する感覚はまだ曖昧だから、自分で放っておけば悩まなくて済むはずだ。

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