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イスカディ王国とエウスカ辺境伯物語

転生したら断罪される悪役令嬢の婚約者だったので阻止しようとしたが全ては徒労だった

作者: 海庵

「フラウディア・エウスカ。さきほどマイ・ミリアルドが貴女を訴えた事は事実か?」


 王城で行われている舞踏会の最中、俺の婚約者フラウディアを詰問する王太子殿下の声が響いた。


 ダメ…… だったのか……


 俺は茫然とそれを見ているしか出来ない。こうなるのは前世に妹に読まされた恋愛小説で知っていた。だから、阻止しようと自分に出来る事を必死に考えて色々した。この国、イスカディ王国は俺の前世とは違い階級社会だ。貴族の中でもそうだ。俺、オットー・サイモンはサイモン伯爵家の跡取り息子だが、それでも婚約者のフラウディア・エウスカのエウスカ辺境伯家とは天と地の違いがある。エウスカ辺境伯家は建国の英雄であり、王国最強の剣にして王国最強の盾と称せられる一族なのだ。それからすれば我がサイモン伯爵家など吹けば飛ぶ新興貴族でしかない。

 そんなエウスカ辺境伯家の息女を俺が婚約者として迎える事になったのはエウスカ辺境伯家の要望だ。既に確固たる権威と権力を持つエウスカ辺境伯家は婚姻によって更に家勢が伸びる事を好まず、有力貴族や新興でも勢力を伸ばしている貴族との婚姻は嫌うところがあった。だから、伯爵という地位は持ちながらもどこの派閥に属するでもなく、困窮しているわけではないが体裁を整えるのが精々という我が家が婚姻相手に選ばれたのだ。

 そのような関係だったので婚約者と言えども、どうしても強く出る事は出来なかった。しかし、それでもフラウ、フラウディアは俺の言う事に耳を傾けてくれたし、フラウの父、エウスカ辺境伯も俺の言う事を笑ったりせずに取り上げてくれた。全ては上手くいっているのだと俺は思っていた。


 …… もしかたら、もしかしたら、そう思い込んで、現実から目を逸らしていたのかも知れない。いくつもの後悔が頭を巡る。


「…… 殿下。そのお言葉の意味を理解なされていて?」

「無論だ。エウスカ辺境伯が、イスカディ王国最強の剣にして最強の盾と知っていて問うている」

「そう、ですか……」


 正に王太子に相応しい威風堂々とした殿下に対して、フラウはいつもの瓶底眼鏡を掛けたまま、どこを見ているのかわかりにくい。この容姿も一部の、主にマイ・ミリアルドを持ち上げる人間たちには軽んぜられるのだろう。


「セーラ、眼鏡を」

「はい、お嬢様」


 フラウがお付きの侍女、セーラに命じるとセーラはフラウが普段着けている物とは別の眼鏡をフラウに渡した。


「はぁ…… 父からお前は素の眼つきが悪い上に、夜に本を読みすぎて目を悪くして余計に眼つきが悪くなったと散々に言われて眼つきを隠せる眼鏡にしていたのですが、さすがに如何なエウスカ辺境伯家の娘であってもこの眼鏡では殺さない自信はないですからね」


 フラウは普段の瓶底眼鏡をセーラに渡すと、新しい眼鏡を掛けてゆっくりと顔を上げた。

 その視線を受けた者たちは凍り付いていた。

 そして、その視線、フラウの視線がマイ・ミリアルドを捉えた。


「ひっ!」


 マイの口から怯えた声が漏れ、表情が恐怖に引き攣る。その表情は一部に信奉者を生みこの事態を引き起こした女には思えないほど歪んでいた。


「え、衛兵っ! あ、あの悪魔を取り押さえるのです! 場合によっては…… かまいませんっ!」


 これが、人を誑かしてきた聖女のように崇められた女なのか。


「殿下。彼女はこう言っおられますが?」


 嗤うフラウの表情はまるで獲物を見つけた悪鬼のようだ。


「くっくっく、エウスカ辺境伯令嬢自ら稽古をつけてくれるらしいぞ。誰か行かぬのか?」

「いや、殿下…… 我々は人間なので、その、えー、なんと言いますか、ご気分を害されたエウスカ辺境伯家の方に向かっていくのはちょっと……」


 もう、何がどうなっているのか分からない。衛兵は酷い事を言っているし、殿下は笑っている。


「ああああああああああ!」

「きえええええええええ!」


 突如として奇声が上がった。マイ・ミリアルド伯爵令嬢に心酔していた、ロドヴィコ・モロ子爵子息とベンハム・ジョンストン男爵子息の二人が儀礼用の剣を抜き、フラウに斬りかかったのだ。


「フラウ!」

「セーラ」

「はい」

「邪魔です」

「おぐぅ……」


 俺も儀礼用の刃を潰してある剣を抜刀してフラウを庇おうとしたところ、セーラから儀礼にも、重いドレスを着ている女性が休憩にも使う杖を受け取ったフラウの容赦の無い一撃でカーペットに沈んだ。


「はああああ、たった二人ですか。できればもっと炙り出して仕留めたかったのですが……」

「おごぉ……」

「ごふ……」


 ロドヴィコとベンハムの二人もあっさりとフラウの杖に剣を巻き取られて面倒臭いとばかりに五、六発徹底的に殴られて半殺しにされた。


「いやぁ、今の貴女と、エウスカ辺境伯の数々を知って、二人『も』いたのが驚きですよ」

「下らない。暇じゃないんですよ。後は王家がやってくれるんでしょうね。こっちは婚約者をこんな目に合わされたんですよ」

「いやいや、婚約者を沈めたのは貴女でしょう!これだからエウスカ辺境伯家の人間は…… 自分のした事に責任は持ってください」

「エウスカ辺境伯家の女でも好きな婚約者の前では可愛い女でいたいんですよ!」

「貴女に可愛げってありましたか?」

「は? オットー! オットー! このアホ王子に私の可愛さを教えてあげてください!」

「ちょ、ぐぅ、ぐぇ!」


 ただでさえ意識が怪しい所にフラウが俺の襟元を掴んでガクガク振るのでさらに意識が怪しくなる。


「いや、それ、オットー死ぬよ!」

「私の婿が死ぬもんですか!」

「愛じゃどうにもならない事もあるんだよ!」


 王太子殿下…… その通りです……

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