その6
「和雄様、お早うございます。訓練のお時間です。」
まっ、何ですな、考えてみれば、朝の挨拶なんて毎朝同じで良いのですな、俺だって
「レディー、おはよう~。」
としか言わないし。ボキャブラリーが貧困とかの件は考えないことにしよう。など思いつつ顔を上げたら腰に手を当ててドヤ顔でレディーが立っていた。
「私、徹夜で頑張りました!」
とか言って、全身鎧を見せてくれたけど、コンピューターに睡眠は必要ないよね?突っ込むとうるさそうなので言わないでおくけど。”うん、平和が一番。”
見せてくれた鎧は、私の身体を使って、動きだけではなく、力の入れ方、適度な緊張感の保持、周囲の目配りまで再現できるそうで、これがダメ男君改造の目玉になるらしい。説明を聞いてみるとこれなら何とかなりそうと思えてくる。
前世、中学生のころ何をトチ狂ったか野球部に入ったことがある。
部員勧誘の甘い口車に乗せられて、上手くいけば根暗のダメ男を返上し、てモテモテまでは行かなくても、ちょいモテぐらいは行けるかもしれない…まあ、下心丸出しでおのれの不向きも考えず飛び込んでしまった私が悪い。そこで思い知ってしまったのは、結局才能の無いものには無理だと言う事だった。
「力入りすぎでガチガチだ!」「肩の力を抜け!」
と言われて力を抜いたら、
「ボケっとするな!やる気あんのか!」
と怒鳴られた。運動音痴な俺にとっては真面目にやろうとする程力が入って、かえってドツボにはまってしまう。で、先ほどのように怒鳴られる羽目になる。
運動というやつは頭でああやってこうやってと考えた所でできるものではない。体で覚えなければならない。
才能のある奴は、たぶん体を動かすだけで体が覚えてくれるのだと思うが、運動音痴の俺には当然そんな真似はできない。
で、俺は考えた。体で覚えなければならないからと言って、頭を使わないのではダメなのだ。要はいかに体に覚えてもらうか、それを頭で考える。
まあ、考えるだけではだめで、五感をフルに使って、”おまえ、このくらいなら出来るよな。”とか”ほらこうすれば何とかなるんじゃないの?”とか、この手あの手で自分が出来そうなことを工夫して、イメトレフル活用で体をその気にさせていく。
要するに身の丈に合った練習方法を身体と一緒に考えていくわけだが、それでもそれなりに効果ありで50%程度。
しかし、たまに大当たりする事もあって、そうなると色々工夫しながら練習するのが楽しくなる。一番の収穫は上達よりも楽しんで練習できたりする事かもしれない。
だがだが、仲良しクラブの同好会みたいな所ならともかく、大会を目指すようなチームにはこれではレベルアップのスピードが遅すぎるのですよ。
3年生になると進学とか就職準備で、フルに活動できるのは2年まで、1年生の後半までに目途が立たないとやっても無駄になりそうなので、その時点で退部することにした。
だいたい熱血指導を気取ってただひたすら怒鳴り散らすだけの監督なんて、俺とそりが合うわけがない。と、言うか安月給の中学教諭に個人個人その人に合ったトレーニングを要求すること自体が間違いというべき、やはり、才能の無い人間には不向きなのだ。
ま、いろいろ言いたい事を言ってしまった訳だが、レディーが私の身体を使って、手本を見せてくれるわけで、身体能力的に私が出来ることは確定しているわけで、あとは焦らずモチベーションさえ維持していけば必ずできる。
ところで、一番問題なのは基礎体力の強化で、ずるをするならマッチョマンの身体データーを持ってきて肉体改造をするとか、遺伝子をいじって身体能力を高めるとかできそうであるが、さすがにそこまでやるともはや自分ではなくなりそうである。
まあ、引きこもりの陰キャらになぜ執着するのか自分でも疑問を感じるわけであるが、取りあえず老化を止めてあるので時間だけは無限にある。
問題はモチベーションの維持だけなのだから我慢しよう。
レディーにチアガールの格好で応援してもらおうかな?パンツちらちらさせたらもっとやる気が出るかもしれない。などと考えてしまったことは内緒である。
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