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その39

その39

走るような速度で木々の間をすり抜けていく。

この村に来るまで練習していた身体強化のたまものである。

ベア系、少なくともウルフ系。毛皮が欲しい。

イノシシに似たボアだと、ちょっと毛皮が残念そう。

だが、こういう時に限って、オーク、オーガどころかゴブリンばかりが団体で出てくる。

出会った以上は放っておくわけにもいかず、かなり嫌々気分で切り捨てていく。

昔はこうでは無かった。

たとえゴブリンと言えど、命を奪った以上、多少なりとも思い入れは有った。

少々傲慢になっているのかもしれない。

ゴブリンを切り捨てて、刀に付いた血の汚れが鬱陶しくなる。

いくらなんでもこれでは死んでいったゴブリンが浮かばれない。

人間と魔物、お互い相いれない仲である。

殺し合うのはお互いさま、命を奪う事にためらいはないが、命を失い、もはや脅威とならなくなった魔物には、それなりに敬意を払うべきではなかろうか。

とは言え、ゴブリンに対して心から哀悼の意を表す気には、どうしてもなれない。

口先だけの偽善の哀悼である。

「許せゴブリン。」

とは言っても、口先だけの哀悼でもそれなりの効果があるのか、それ以後ゴブリンの姿が見えなくなった。

しかし、残念ながらその後も出てくるのは毛皮付きでなく、オーガであった。

最近ではすっかりやられキャラになってしまったオーガだが、尊敬すべきいにしえの宿敵である。

いや、今だって戦い方一つでは単なるやられキャラでなく立派な練習相手にもなる。

体格や筋力だけで言えば、俺たちとゴブリンよりももっと差がある。魔力で身体強化をバリバリに掛けても、抜き技なしで五分にわたり合うのは、かなり根性が必要なのだ。

それに抜き技を使うと言っても、相手の剣を受ける前に抜くか、相手の剣を受けてから、それもどの程度の力まで受けるか、ついでに受けた力を利用して抜くとか、色々バリエーションが有るので、とてもいい練習相手なのである。

身体強化のスピードで何とか上回り、ついでに抜き技に弱いという大きな弱点で、やられキャラに成り下がっているオーガであるが、一対一で抜き技なしに戦うと、今でも立派なライバル、決して下に見ていい相手ではないのである。

しかし、今日は毛皮である。

オーガと遊んでいる訳にはいかない。

「アズミ、二人がかりで行くぞ!」

今日は遊んであげられない、瞬殺コースどっぷりで、心から可哀そうと思える。

顔だけはいかつい鬼の顔をしているが、可愛そうな可愛そうなオーガちゃんなのである。

オーガにして見れば、自分のへそのあたりまでしかないチビな人間のガキンチョが二匹うろちょろしているだけ、そんな認識である。

「ウガア~!!」

「ゴゴゴア~!!」

人間の子供など、威圧を込めた咆哮を浴びせれば、オシッコなどチビって、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまうはずであった。

本日は気分が良いので、威圧付きの咆哮も二発も浴びせた。

”どうだ!参ったか!” と、思った瞬間、ガキンチョ共は左右からスッと懐に飛び込んでくる。

目論見が外れて、はっと思った瞬間、右手と左足が切り飛ばされて、地面がいきなり競り上がってくる。

自分が倒れていく自覚がないまま、迫ってくる地面を何とかしようと思った時には、首に刀を当てられて、体は地面に、魂は空高く吸い込まれて意識はなくなってしまっていた。

まことに可愛そうなオーガちゃんであった。

オークとオーガ、なかなか毛皮に巡り合えないまま、20匹弱を狩って、そこまでしてやっと念願のダークベアに巡り合えた。

「サンド!」

ダークベアが威嚇で立ち上がると、すかさずアズミの魔法が飛ぶ。

超音波とエアーバブルを地中から噴き出して、空気による底なし沼状態を作る魔法である。空気でなく、水でやれば地震の時の液状化で知っている人もいるだろうが、空気でも出来るし、あとに水が残らないので始末が良いのが売りである。

「サンド!」

バランスを崩したベアがたまらず前肢を着いたので、カズは念を入れて右前足にサンド魔法を飛ばす。

「サンド!」

カズは成り行きで、と言うか、つい勢いで、もう一つ前肢も地面に埋めるが、これ、何か意味があるのだろうか?

「バブル!」

アズミが無酸素空気の塊りを飛ばす。無酸素などと言うともっともらしいが、単に純粋な窒素ガスの塊りである。

「バブル!」

カズも念のため、と言うか経験値を上げるために無酸素バブルを飛ばす。

経験値などと言うとゲームのようだが、もちろん通常はそんな概念はない。

たんにやってみただけ、正確には蛇足ともいう。

「ブロー。」

無酸素の空気がたまっていると、こちらにも影響が出るとまずいので、ブローで吹き払う。

ダークベアは予定通り、理論通りに一瞬でクタッとなったけど、一応警戒しながら首の頸動脈を切ってとどめを刺す。

で、ここで問題発覚、前肢、後肢、4本の足のうち3本がしっかり地面に埋まってしまって、地面から取り出せない。

「まったく、余計な事ばかりするから。」

アズミの冷たい視線が突き刺さる。

でも、確かに余計な事だったかもしれないが、とにかく経験するのは大切だろ。

問題点も判るし。

ダークベア、丸ごとどうこうするのは無理なので、とにかく埋まってしまった足を切り離すしかない。

ダークベア、切り離すのは30センチほども有ろうかと言うゴ太いあんよである。

鉄砲切りの異名を持つ”高橋長信”、刀身のひずみを分子レベルでけしてあるし、さらに魔力をまとわせている以上、ダークベアの足ぐらい両断できるはず。

立ち位置を決め、呼吸を整え、魔力を練って、まずはイメトレ、足を両断するイメージをしっかり練り上げ、何度も刃筋を確認し、集中力を高めていく。

「ハッ!」

カズが慎重に形を決めているのをよそに、アズミはあっさりとダークベアの足を切り飛ばす。

”そんなに簡単に切れるなら、『余計な事を!』などと言うな。”

憤懣やるかたないカズであった。

結局、今日の毛皮はダークベアを3匹、フォレストウルフを10匹ほど捕まえた。

それと、上空に転移させて、落下させ重力で押し潰す魔法、あれはダメでした。

効果はあるのですが、森の中で使ったので、落ちてくる時に枝をバリバリへし折る音や、墜落した時の衝撃音がすごくて、火魔法などとは別の意味でド派手な魔法になってしまいました。

おまけに、魔物をどうやって仕留めたかのアリバイ作りも難しそう。

外傷がないのは後付けで傷をつければいいが、解体した時の内臓の損傷はごまかしがきかない。

それに反して、思ったより使えそうなのが、無酸素の空気の魔法、スタンピードの時に、魔物の群れを適当に間引くのに使えそう。

例えば、スタンピードなどで戦っている時に、戦っているより少し群れの後ろの方で、10匹のうち2~3匹が訳もなく倒れたとしても、誰も文句は言わないし、理由を詮索する暇もないだろう。

自分の戦果と主張できないのは残念だが、差し迫ったときにはそんな事を言っている暇はない。

と、言う訳で、今日の毛皮はダークベア3匹、フォレストウルフ10匹。

その他大勢はオークとオーガで25ぐらい、ちなみにゴブリンは数に入れていません。

                          *


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