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その35

その35

ひさかたのカナの町である。わずか1週間されど1週間、この1週間で色々あり過ぎた。さほどの昔しの事でもあるまいに、なぜか懐かしさを感じさせるカナの町である。

ギルドのドアの前で、大きく深呼吸をして、両掌でほほをパンパン叩いて気合を入れる。

「カズ、何やってんの?」

アズミから呆れたような声を掛けられるが、引き籠り気質の俺としては、ここは勝負どころなのだ。ギルマスのアルマダにはいつも鼻面をひっつかまれて、良いように振り回されている。せめて今回こそはこちらが上から目線で言うべきことを言って、貸しを返してもらう。

「まっ、頑張って。」

アズミからは生暖かい目で、声援と言うか、少々呆れ気味の声を掛けられながら、意を決してドアを開ける。

”カランコロン”

はっし! とにらみつける視線の先には・・・当然ギルマスなど居るわけはない・・・。

「あら、カズ、お久しぶり! どうしたの怖い顔をして?」

当然のことながら受付にいるのは、このギルド唯一の受付嬢であるビビアンさんである。美人さんである。もうこの時点でカズは負けを予感した・・・様な気分になる。

「アッ、その、ええと、ごめんなさい。睨んじゃったりして、ええと、いつもギルマスには良いように振り回されるので、今日は借りを返してもらおうかと思って。」

「ふふふ、めずらしくキリッとした顔をしていたと思ったら、すぐ元に戻るんだから。カズはそんなゴニョゴニョしないで、もうちょっとハッタリを利かせるぐらいの方が良いわよ。」

「ビビアンさん、最近は少しカズに優しくなったんじゃない?」

「まあね、ダカンをやっつけたのでちょっと見直したわね。」

「はは、ローダーとかに口先でごちゃごちゃ言いまくられてて、ビビアンさんが苦戦してるって、わたし、初めて見たわ。」

「もうその話は無し! 女の子を口説く程度でたたき出すわけにもいかないし、中途半端な連中が一番困るのよ。」

ビビアンのような普段きりっとしたクールビューティーが、ふわっと微笑むと、まるで花がほころぶようで、極端に女性に耐性のないカズのハートは、恥ずかしげもなくうずくのである。

女性に強いツワモノならば、ここで一気に距離を詰めるのだろうが、調子に乗るといきなり地獄に突き落とされそうで、なれなれしくもできず、高根の花と下の方から怖気づいて奉ってしまうカズであった。

”しかし、始め蔑んだ目で見られ、あとで見直されたのはリタやセージも同じなのに、なぜかあのメンバーに見直されても嬉しいとは思わない。”

カズがリタとセージに持つ印象は”チャラい!”である。あの二人 自身もチャラいが、あの二人は男も同じようにチャラいものだと思っていふしが有る。

多少の強い弱いの違いや相性の違いが有っても一皮むけば男なんて皆同じ、使えるか、使えないか、それだけの違い、そんな風に思っているような印象が有る。まっ、まるきり間違っている訳ではないが、”それだけじゃないんだー”とのたうち回って駄々をこねたがるのが男と言うものである。

まあ、あえて言うなれば男のロマンとも言うべきなのかもしれない。

言葉にするといかにもで、かっこよく聞こえるけど、実はあまりマトモナもんじゃない。だいたい、俺なんかはお宅の仲間と思われているが、じつのところ、俺にはオタクのロマンなど毛筋も理解できない。

一言で男のロマンだなんて言っても、人それぞれで他人のロマンなど、わかる訳がないのだ。

例えば、俺がこの世界を形作る数式や、定数の美しさを口走ってしまったら、お宅はもちろん一般人もドン引きすだろう。・・・だろうじゃなくて絶対に引くし、それも汚物でも見るかのようにあからさまに顔をしかめるに決まっている。・・・・ふん、どうせドン引きされるのだから、毒食らわば皿までで、この際、思い切って言ってしまうが、”全人類は、この世の持つ数式の美しさ、この宇宙の持つ定数の微妙さに、感動し、涙すべきなのだ。”

どうだ、思い切り引いただろう。絶対に引いただろう。しかし、あえて言うが、これは真実だ。

この世界は存在すること自体が神秘で有り、奇跡である。

日常的なレベルの感覚で言えば、この世界は絶対に存在しえない、有ってはならない世界なのだ。

数学的な精密さでのみ、絶対に無いとは言い切れない・・・とのみ、表現できるような、それほど存在しうる確率の低い、あり得ない奇跡なのだ。

そして、この宇宙を存在可能にする、精緻にしてダイナミックな運動と、繊細華麗な奇跡ををシンボライズするのが、この宇宙を現す数式であり、定数なのだ。

ここまで語れば世の人たちも私の言葉を理解し、感動を共有してくれそうな気もするが、でもしかし、決してそうはならない。むしろ熱く語れば語るほどドン引きされてしまうのが世の常と言うものである。

”は~、仕方がないのだよ、世の中と言うものはそう言う物なのだ。”

それでも、それでもだ。世の中の女性の幾人かはこの思いを理解してくれる・・・理解はしないまでも、むげにあざ笑ったりしないで、ほんの少しとは言え後押ししてくれるような人が居るかもしれない。

そう思ってしまうのが、多分男の情けない所であり、甘さなのだろう。

階段を下りる足音が聞こえたので、ふっと顔を上げるとギルマスが下りてきた。

不意を突かれた気分で、何と声を掛けるか迷った瞬間、ギルマスの先制攻撃が始まる。

「おう、来たか、待ってた。ちょっと頼みたい事が有る。」

「えっ、あの・・・」

上から目線で言いたい事を言うつもりが、逆に主導権は完全にギルマスに握られてしまった。

「ああ、リタとセージの事は有難うな。世話になったな。それから唐辛子とノーザンピークの推薦状は用意してあるんで、もう1度ムルガの村に行ってくれ。」

「あ、ドラゴンブレス、いや、トウガラシは・・・」

何とか先手を取り返そうとあがくが、しょせん引き籠りの悲しさ、とっさの言葉が出てこない。

「アッ、それな、取り合えず10㎏、足りないだろうから後から行くやつに追加で20㎏持って行ってもらう。今、商業ギルドに掛け合っているが、さすがに一遍には難しい。それから、ムルガのダマスにもスタンピードの推薦は出してもらう事に成っているから向こうに行ったらよろしく言っといてくれ。」

「はあ、どうも有難うございます。でも、二か所から推薦って…。」

本当は上から目線で偉そうに唐辛子を請求するつもりだったのだ。こんな所でお礼の言葉は言いたくはないが、推薦状を頼んでくれたなら、残念ながら一応お礼は言わざるを得ない。

「いや、気休め、と言うか念のためと言うか、むかし、根性が悪くて嫌われた奴が、雑用だけやらされて、当然パッとした働きは出来ないからCに成れなかった事が有ったんだ。まあ、心配は無かろうが、カズは何と言うか、顔がちょっと残念な方なんで、まあ、念のためだな。」

「ギルマス!! 残念な顔とか、酷すぎます!」

顔のせいか? 俺の顔のせいで推薦状が二通いるのか? そんなの有りか? ちょっと酷すぎだろう。

「おう、ま、ま、ま、ちょっと言い過ぎた。悪かった。しかし、カズは絡まれやすい顔と言うか、見下されやすい顔をしているのは事実で、その辺はしっかり意識しておいた方が良いぞ。」

なんだよこれ・・・、ぜんぜんお詫びになってないじゃん。まあ、ほんとうのことだけど・・・。真実と言うものは往々にして残酷なものである。

「まっ、それは置いといて、」

人の顔みたいに、大切な事を勝手に置いとくな!!

「ようするに、ムルガにもう一度行ってくれ。魔物の出方がイレギュラーで、調査に一週間かかったせいで、帰ってしまった冒険者がかなりいたらしい。

で、もう一度集まってほしいとダマスから連絡が有った。ついでに言って置くと、カズ、活躍したらしいな。お前が名指しされるとは思わなかったぞ。と、言う事だ。せっかくだから頑張ってきてくれ。」

「はあ、はい・・・。」

「お返事はキリッと、お顔もキリッと、カズ! ちょっと残念なお顔になってるわよ。」

「ビビアンさんまで残念な顔とか言う・・・。」

「あら、カズの場合、言われるだけまだましなのよ。本当に残念な人には声はかけないわ。」

「何だかな~、虐められてるのに有難く思わなくちゃいけないのかな~。」

「そうそう、カズの事はちょっとは見直してるんだから、お礼を言ってくれてもいいわよ。」

「はあ、クソッ、何と言うか、まあ、有難うございます。」

ギルマス、良い人だよ。提案されたことに不満もないし・・・、でも、まあ何と言うか、どうしてこう毎回良いように振り回されるのだろう。

何とも割り切れない気分でギルドを後にするカズではあった。

                             *

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 @  ストックがなくなってしまいました。のんびり書く方なので、これから先更新が遅くなりますが、ご了承ください。

読んでくださった方有難うございます。

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