その34
その34
アジトの洞窟の前で、カズは座禅の真似をしている。本人はごくまじめに座禅を組んで、良い感じに頭の中を空っぽにしていたつもりだったが、気が付いたらしっかり眠っていた。
脳波を強制的にα波に変える装置を作るか、だいぶ迷いはしたのだが、必要以上に頭の中をいじくりまわすのは抵抗が有って、α波を検出したら小川のせせらぎが聞こえるようにしたのだが、小川のせせらぎはいつの間にか消えていて、カズ自身はいつの間にか眠っていた。やはりそう簡単に事が運ぶはずがない。
以前、どこかの禅僧が弟子に向かって、
「無念無想と言うのは猫と同じだ。」
と話していたと聞いた事が有る。
「可愛がるつもりで、無理やり捕まえると、逃げて行ってしまうが、何も求めずにただ座っていれば、向こうから近寄ってきて、膝の上で丸くなってゴロゴロ喉を鳴らして懐いてくれるものだ。」
と、言っていた。本で読んだから書いて有ったと言うべきなのかな。
目からウロコの思いでやってみたが、ゴロゴロ喉を鳴らして懐いてきたのは・・・いや、盛大に膝の上で運動会をやっていたのは雑念ばかりだった。
まあ、世の中と言うものは得てしてこう言うものである。出来る人にとっては当たり前にできる事が、出来ない者にとってはとてつもなく難しい。
今日は雑念ではなくてやって来たのは睡魔であったが、恒例の体力強化と、リタに見せてもらった、ファイアーボール対策で疲れてしまったので、”まあ、そう言う事もあるさ。気長に行こう。”今日の所はそう言う事に成った。
アズミがこの世界の魔法はおかしいと言っていたが、先日リタに見せてもらったファイアーボールのアズミ的見解は”わからない”だそうで、
「何だそりゃー!」
つい大きな声を出してしまったが、
「仕方がないでしょ、この世界の魔法ってちょっと変なのよ。」
「へん? どういう事? 」
「まず、飛んでいくとき、火の玉になってるけど、燃えている必要は全然ない。効果としてはほぼ爆発の威力だけ。
で、その爆発だけど、魔法を使った後で、私が知っている爆薬の残滓がない。ひょっとしたら爆薬を使って無いかも。とりあえず地球には該当しそうな爆薬は無かった。」
「爆薬を使ってないかもって?」
「爆薬を使わなくても爆発なんて幾らでも起こせるわ。ガソリンだって、小麦粉だって爆発するし、水だって密封した缶に閉じ込めて加熱していけば、ほとんど爆発状態で缶を破裂させる事が出来るわ。」
「確かに水でも爆発は起こせるが、でもそれは密封した容器がないとできないんだろう?」
「容器、と言うか、殻は有ったわ。魔力を接着剤と言うか、鎖と言うか、魔力で空気分子つなぎ合せて殻にしていた。」
「へ~、魔力でそんな事が出来るんだ~。」
「盲点だったわ。これを使えば、水でも空気でも固めて刃が作れるから、話に聞いていたウィンドーカッターとかウォーターカッターとか成り立ちそうね。
で、魔力で作った殻の中を超高圧の状態にして、一瞬で殻を砕いて爆発状態には持って行くのはわかったけど、どうやって超高圧のガスを作るのかまでは魔力の殻の中の事なので見えなかった、と言うわけ。」
アズミに言わせると、魔力で作った殻の内部も判らなかったが、もう一つ判らないのがなぜそういう作りになっているかである。
爆発させるだけなら爆弾で良いはず、訳が判らない事の極めつけはポーションである。ポーション自体は魔法ではないが、作成には魔力がかかわっているらしく、前世地球の薬ならば、傷には傷薬とか熱が高すぎれば熱さましとか、病原菌によるものならばその病原菌に対応した薬になるはずだが、ほとんどポーション一本で、それもほとんど瞬間的な即効性を持っている。
「リタがファイアーボールを”そう言う物”って言ったでしょ。ポーションもそんな感じ。」
何と言うか、こういうのは科学的な認識から外れているし、それでなお魔法として成り立つのが、アズミには理解できないと言う事らしい。
しかし、とりあえずリタのファイアーボールはどんなものかわかったので、念のため対処法を用意する事に成った。
別にリタと事を構える気はないよ。ただ、たちの悪い魔法使いとか、居ないとも限らないので対処法を考えるだけで。
「リタのファイアーボールは魔力の殻を一気に爆散させることで、威力を出しています。殻のない状態で爆発させてもそれほどの威力は有りません。
ですから、爆発する前に水で包んで爆発のクッションにして、刀で殻を壊してしまえば、爆発の威力はほとんど死んでしまいます。」
「ふんふん、以前カイル相手に生活魔法の水をぶつけながら切りつけた、あれをやれば良いわけか。」
「そう言う事。」
と、言う訳でアズミにファイアーボールのピッチングマシーンをやってもらって、練習してみた。
しかし、問題はリタ以上に強力なファイアーボールの場合、これでは対処できそうもない事である。
「そう言うのは、氷とか岩で壁を作って、防ぐしかないわね。」
「飛んでくる火の玉を見た瞬間に防壁を張るとなると、やっぱりバングルのお世話になるしかないか。」
「氷ならともかく、岩で作った防壁となると、色々な元素や化合物が混じっているので、バングルでも一瞬で作るのは難しいかも。いっそ、防壁はあらかじめ作っておいて、空間魔法で転移させた方が、いいと思う。」
「なるほど、それならいくら厚くして、頑丈な防壁にしても呼び寄せられそう。」
などと言う事をしゃべりつつ、体力強化やファイヤーボール対策をやっていたので、終わってから瞑想を始める事にはすっかり疲れてしまって、座禅もどきでつい寝てしまったのは仕方のない事だと言う事にしておこう。
本当、仕方ないよね。
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