その21
その21
食事が終わって一休みすると、魔物の駆除に出かける。やることは昨日とほぼ同じ、ただ、ダークベアとかは二人ならば倒せそうで、仲間を呼んでも集まって来た時にはほぼ終わっていることが多いので、無理をしないで倒せそうな時は仲間を呼ばなくても良い事になった。あと、今回は最初から4グループに別れて、ビートとネルトスのグループとカイルとラムダのグループ、ダンは一人で、カズとアズミのグループに分かれ行動する事になった。
今日は基本、アズミと二人だけだ。ノルマ以上の魔物を狩れば、収入が得られるというし、今日は魔物を数打ち取ることを目指すことにした。
「なあ、アズミ、アズミとの連携もとれるようにしたいし、今日は魔物が1匹の時、二人掛かりで戦ってみないか。」
「そうね、今日は数をこなしていきたいから、その方が良いかもしれないわね。」
と、言う事で、最初に出会ったオーガに二人は左右から同時に切りかかったのだが、それはオーガにとってはとても可哀そうな出来事であった。
カズもアズミもガンガンに身体強化で踏み込みのスピードを上げ、オーガが二人同時の超速の踏み込みに、一瞬戸惑った時にはすでに両手の肘から先がなくなって、
「ゴア・ア・ア・・・」
オーガは事態を把握できずに、無くなってしまった両手を見つめながら、悲しげに戸惑うような声を上げる事しかできない。
いつもだとカズは籠手のあと足を切って、オーガを横倒しにしてから首を狙うのだが、すでに戦意をなくして呆然としているオーガの足を切るのは、いかにもなぶり殺しが過ぎるようで、身体強化を使ったジャンプ一番、刀をオーガの首筋に走らせてとどめを刺した。これは、昔は大敵だったオーガに対するせめてもの心配りであった。
”昔は良かった。初めてオーガと出会ったときは、刀だけでは対処のしようもなく、ただ逃げ回るしかなかった。初めてオーガを刀1本で倒した時、その達成感で何度もガッツポーズを繰り返して、夜は嬉しさのあまり寝付けなかった。・・・・強くなるのは嬉しい事だが、高く掲げたはず、大目標だったはずのオーガがただのやられキャラになってしまうのはちょっと寂しいものが有る。まッ、スタンピードを避けるためには弱い者いじめも仕方がない。”
「アズミ、やっぱりオーガには1対1で戦おうか。」
「・・・・1対1でも2対1でも大して変わらないと思うけど…。」
「う~ん、そうだ、アズミ、あれをやろう、あれ。」
「あれって?」
「修身流の四つに切り結んでから抜くやつ。」
剣術の練習の時には、”影抜き”や”巻き打ち返し”の他に、四つに切り結んでからの抜きもやっていたが、対オーガの実戦では、体格が違いすぎるのでやらなかった技である。しかし、最近では急速に身体強化の技が進み、そろそろ試してみてもよさそうである。
もしもの時はアズミに介入してもらう事にして、さっそく実行することになった。これならば、一方的な弱い者いじめみたいにはならない。たぶん。
そうと決まれば、ビッグボアやオークなどはサクサク倒して、オーガを探す。まあ、こういう時に限ってオーガが出てこなくて、ダークベアがつがいで出てきたりするが、今日はアズミと二人きりである。他に誰も見ていない。
ラノベにはお決まりの名言が幾つか有るが、いわく、「バレなきゃあ良いのですよ、バレなきゃあ。」
要するにアズミ以外の人が居なければ、魔術は使い放題である。
2匹同時に相手をするのはつらいので、1匹には時間稼ぎのけん制のつもりで放ったバレットは、ロックオンをかけて目を狙ったせいで、眼球を貫き、さらに奥の脳みそまで破壊して絶命させてしまった。
これならアズミと二人で、ダークベアの10匹ぐらいは相手にできそうである。しかし、あまり楽ちんの手抜きが過ぎると、将来苦労する事になるので、残りの1匹はまじめたっぷり手数をかけて倒すことになった。
だが、改めて考えてみると、このダークベアってやつはコスパが悪い。討伐料としてはオークの2倍の値が付くが、オークは1撃で倒せるのに、ダークベアは足1本潰すのに3回ほど切り込む必要がある。両足で6回である。さらに手の1本ぐらいは潰しておかないと、安心して首は狙えないので、合計9回。あと首に1撃すれば一応致命傷にはなるが、サクッと倒すにはもうひと手間欲しい所である。と、言うようなどうしようも無い事を考えるのはもっとヒマな時に回して、かなり手間をかけつつダークベアを倒すと、今はオーガを探すのである。
それで、こういう時に限ってなかなか出てこないオーガを、やっと見つけると、喜び勇んで対決したのだが、やはり、物事は思ったようには進まないのがセオリーである。
普段はアズミと練習を積んでいて、アズミも身体強化をかけているのでオーガクラスのパワーを出せるのだが、何しろ体格が違いすぎる。オーガは体高3m、その剣はさらに高く、見上げるような上空から押しつぶすように襲い掛かってくる。
修身流の受けは相手が人間ならば、どんなマッチョな攻撃でも片手で受けることができる。さらに魔力で刀と体を強化すれば、理屈では、たとえオーガといえども十分受けることはできるはずなのだが、やはり理屈どうりに現実は動かない。
オーガの勢いに押されて、受けの動きが微妙に狂ている。爆発的な衝撃に足が地面にめり込みそうになりながら、何とかこらえて左左と回り込んで、2撃、3撃、と受け続けるが、抜きのタイミングがつかめない。やっと5合切りあって、タイミングをつかみ抜きを放つ。
オーガにとっては押し潰そうとした相手の剣が、不意に消えてしまって、勢い余って前につんのめる。カズはそこを狙って飛び上がり、オーガの首筋に刀を走らせる。
流石に空中に飛び上がっての斬撃ではオーガの首を両断することはできず、半分ほど切り裂いただけだったが、それでも致命傷には十分と、つい油断して気を抜いてしまったのは最悪だった。
着地と同時にオーガ、忌の際の最後の斬撃が襲い掛かってくる。地面を転がって何とか避けようとするが間に合わない。これまでかと思ったとき、アズミが飛び込んで、オーガの手の1本を切り飛ばしてくれたので、何とか剣筋がそれて切られずに済んだ。
「カズ!!もオ!!」
「・・・ごめん・・・」
はあ~、やっちまったなのだ。
油断してしまったのが最大の敗因とは言え、やたらに飛び上がるのは止めよう。空中や着地の瞬間は体の自由が利きにくい。
倒れこんできたオーガの死体の下敷きになって、危うくオーガの血で溺れそうになって、うんうん言いながらアズミに引きずり出されて、一応は一息ついたが、上着ズボンはともかく、パンツまでオーガの血でビショビショになってしまった。
近くに川でもあれば全身洗い流したいところだが、近場にはそれもなく、たまたま収納に放り込んであった予備の上着を着替えるが、全身血まみれなのに上着だけ変えても血だらけなのには変わりがない。オーガの血が変に乾いたり乾かなかったりで、ズブズブ、ゴワゴワ、ヌルヌルで気持ちが悪いことこの上ない。
何とか気持ちを切り替えると、魔物狩りの続行である、のつもりが、やはり血糊が生乾きになるとベタベタのゴワゴワ、動きにくい。
いっそのこと誰も見ていない事を良い事にアジトまで転移しようとか、大岩を探してくぼみを作って、魔法で水たまりでも作るかとか言い始めたころ、小川を見つけて全身丸洗い、やっと一息つくことができた。
1つネジが狂うと、流れは一気に変わる。それを元に戻すのはいかに大変な事か、実に身にしみて感じてしまったカズであった。
結局その日、カズとアズミはダークベア2匹、オーガ3匹、オーク5匹、ビッグボア3匹を倒して基地にしている納屋に戻った。ビッグボアが依頼にカウントされるかどうか、ちょっと曖昧であるが、カズとアズミの分だけで依頼はクリアーできるので、”蒼天の銀翼”が倒した、ダークベア3匹、オーガ13匹、オーク15匹と明日討伐する魔物はカナの町に戻って常駐依頼の魔石として処理することになる。
「おい、カズ、ちょっといいか?」
納屋のそばの即席の竈の前で夕飯の支度をしようとしていたら、カイルから声が掛かった。
「はい、と言うか、これから夕飯の支度をしようと思っていたんですが…。」
「ま、それは後で良いから。暗くなる前に、この前のダークベアに無属性魔法使ったってやつ、見せてくれないか?」
「飯の支度があとで良いなら見せますよ。」
「皆ちょっと気にしてたみたいだから声をかけてくる。」
村の外の原っぱみたいな所にぞろぞろと移動する。
「で、どうするんですか? 魔力を爆食いするんで、1、2回しかできませんけど。」
「どうするって? 」
「ようするに、俺一人でやって見せれば良いのか? 相手がいるのか? 相手がいるなら火を使うのは問題ありそうなので、水で代用しますが・・・。」
「おう、じゃ、俺が言い出しっぺだから俺が相手になるわ。」
カイルが適当な木の枝をつかんで距離を取る。
カズもその辺の木の枝を木刀代わりにして相対する。上段の構えから
「行きます!」
と、声をかけ、気合とともにカイルに打ち掛かる。
「ウォ! オ、オ・・・。」
カイルは斬撃と同時に吹き付けられた水で視界を奪われ、慌てて下がろうとして足をよろめかせて、刀を胸に突き付けられる。
「ワッと、これはヤバイ、これ、反則だろう。こんな目と鼻の先から水を吹きかけられたら、それだけで避けられんぞ。」
「どうですか? 魔物で試した限りでは効果が有りそうでしたが、対人戦でも使えると思いますか?」
「これはとんでもない技だと思うが、ダン、どう思う?」
カイルがダンに話を振る。
「本チャンは火を使うんだろ? 相手なしで良いから火でやる奴を見せてくれないか? 」
ダンの要望にカズはもう1度木刀代わりの木の枝を振りかぶって、今度は火炎を放って斬撃を見せる。
「おお、これは確かにとんでもないな。初見でいきなりやられたら、かわせる奴はそう居ないぞ。まあ、A級ならわからんが・・・。」
「ダンでも無理か?」
「確実に来るとわかっていれば、何とかなるかな・・・、五分五分かもしれんが。う~ん、これ、誰にでもできるのか? いや、誰にでもは無理か。」
「俺なんかじゃ無理だ。無属性でこれだけの火を出すには、相当集中して、呪文も唱えて、時間もかけてじゃ、相手を目の前にして、剣を振るどころじゃなくなる。」
「ラムダ、俺たちの中じゃお前が一番魔力が強いだろ。お前ならどうだ?」
「いや、カズのような真似はできないな。もっと時間がかかるし、魔力を集めるあいだ隙だらけになってしまう。・・・そうだな、初見なら、少し離れたところから、魔力を集めながら近づいて行って、切り込むと同時にぶっぱなす。これなら出来るかも。何も知らない相手ならけっこう効果が有りそうだ。」
「しかし、カズ、ここ最近ずいぶん強くなったじゃないか。」
「はい、有難うございます。ダンさんにそう言っていただけると・・・」
「あまり褒めない方が良いわよ。まだ時々やらかすし、今日もオーガ相手に大チョンボやったし。」
「おい、アズミ、それは言わない約束・・・。」
「あら、そんな約束なんてしてないわよ~だ。」
「へえ~、何だ、カズはなんかチョンボしたのか? 昨日見た限りではオーガ相手に問題なく戦っていたのに。」
「技の幅を広げるのに、オーガの剣撃を四つに切り結んで受ける練習をしていたのよ。」
「エッ! オーガと四つに切り結んだのか?!」
「カズの奴、微妙にうまくいかなくて、何回もやり直して、まあそれは良いんだけど、最後に決まって致命傷を与えたのは良いんだけど、そこで油断してしまって、オーガの最後の一太刀で危うく殺されるところだったのよね。」
「あー、それ初心者によくある奴だ。魔物によっては心臓を貫かれても最後のひと足掻きする奴がいるから。」
「私が応援に入って、何とかなったけど、倒れてきたオーガの下敷きになって、オーガの血でパンツまでビチョビチョ、お〇ん〇んまで血だらけになってた。」
「おい、アズミ、女の子がおち〇ち〇だなんて、それ、見ちゃったのか?」
「小さい頃は時たま見てたからね、最近はご無沙汰だけど。」
「おい、なんかアズミって、キャラおかしくね? なんか、見てくれと違いすぎて戸惑うんだけど。」
「まあ、それはともかく、本当にカズがオーガと四つに切り結んだのか? ”銀翼”の中でもそんな事できるのはダンとラムダぐらいだろ。」
「カズ、最近、身体強化とかオーガと切り結ぶとか、色々やってるみたいなんだが、一体何がやりたいんだ? 相手をしてやるから、ちょっとやって見せてみろ。」
「ええ、ダンさんが相手ですか、ちょっと緊張しますが、よろしくお願いします。この前の時はグチャグチャだったので、今回こそチョットは良い所を見せられると嬉しいです。」
ダンとカズが広い方に離れていくと、ビートがアズミに近づいてくる。
「おい、あずみ、お前たちの剣の腕が、最近めちゃくちゃ上がってるんだが、どういう事なんだ?」
「ん~、魔力で身体強化がはまったのね。私たちの使ってる剣ってちょっと変わってるでしょ、”刀”って言うんだけど。」
「ほ~、”かたな”か、ちょっと変わった形だよな。」
「それでね、爺さまが若いころどこかから持ち込んで来たんだけど、使い方もね、この辺のじゃないみたい。」
「へえ~、剣の使い方とは違うのか。」
「多分ね、でね、刀の使い方にもいろいろ流派が有って、爺さまは二つぐらいの流派の技を混ぜこぜで使ってたの。」
「はあ。」
「一つは力わざ、もう一つは真逆の抜き技主体の柔、力技の方は朝に三千、夕に八千とか言って、大声で奇声を上げながらただひたすら木刀を叩き付ける。」
「おい、その、三千の八千のって奴をやってたのか?」
「まさか~、とてもじゃ無いけど出来ないわよ。って、それが十分できないって所が私たちの弱点だったのよね。」
「良く判んないな。」
「私たちって体格的に力技って無理でしょ、だから真逆の柔の技に頼る事になるんだけど、それだって、十分身体ができてないと、抜き技も生きてこないのよ。」
「まあ、何となくだけど、そうだよな。」
「うん、何となくだけどそうなの。で、今までは体格のせいもあって、鍛えてもなかなか効果が出なかったけど、魔力も使って体を強化するようになって、やっと効果が出てきたってわけ。」
「ほ~ほ~、身体強化で身体ができたから柔? 抜き技? が生きて強くなったとこう言う事?」
「ほ~ほ~、理解が早いね、そう言う事。前から多少はやっていたんだけどね、ダンさんに聞いてから本格的に強化は始めたの。」
「と、言う事は”抜き技”って何? って事だよな。それが効率的に使えて強くなったって事は。」
「そうなんだけどね、口で言ってもわかり難いんだよね。実際に見ても判らないけど。ほら、始まるから見て、見ても判らないと思うけど。」
「何じゃそりゃ、見る意味ねえだろ。」
まっ、色々おっしゃりたい事はあるだろうが、かと言って、何もしなければ始まらないのである。
ダンは自分の大剣に見合ったような木剣を探すにに、少し時間がかかって、今カズと相対したところである。
ダンは木剣を上段に、カズは木刀を八相に構え、身体強化を強めながら、互いに間合いを詰めていく。
「ター!!。」
「ドアー!!」
互いに全力で打ち込んだ木剣が、ガキンと四つに切り結んだと見えた瞬間、スルッとカズの刀がダンの剣を潜り抜け、思わずたたらを踏んだダンの首筋にカズの刀が添えられた。
「ウォ、嘘だろー、ダンが負けたのか?」
「いや、あれは四つに切り結ぶのがお約束で、ああなるのが剣術の型だから。」
アズミがなのかんの言っていたが、どう見ても結構ヤバイことが起きたように見える。
「おい、ダン、何がどうなったんだ。ひょっとして負けたのか?」
カイルもたまらず声をかける。
「いやー、参った参った。一瞬ヤバいとは思ったんだが、力ずくで受けられると、つい力で押し返してしまって、その瞬間にやられた。」
「一体どうなったんだ?」
「いや、やられた俺も判らん。アズミ、一体どうなったんだ? 」
「股関節を使った抜きなんだけど、言葉で説明するのは難しいのよね。」
「おい、さっきは見ても判らないって言ってたよな。」
ビートがまぜっかえす。
「やっても判らないわよ。って、言うだけは言うけど。」
「あの~、そろそろ飯の支度しないか、暗くなってきたし。話だけなら飯を食いながらでもできるし。」
取り合えず対決はうまくいったので、カズの心配はもっぱら飯の事である。いや、カズが食い意地が張っているとか、そう言う事ではない。飯の当番がカズで、与えられた自分の仕事に熱心なだけである。
少し遅めに支度が始まったので、全員で用意をして、食事をしながら焚火など囲んで、話すことと言えば、先ほどのダンとカズの練習の事である。
要するにアズミの独演会である。事、お喋りに関しては女の子に勝てる男子は、まずいない。ましてや、いくら試合の当事者とは言え、根暗の陰キャのカズがかなうわけもない。
「まず、”抜き”って何? って事よね。
一番わかり易そうなのは飛び込むときよね。
普通身体を前に進めようとするときは、足を後ろにけって、体を前に押し出すでしょ。」
「当たり前、と言うかそれ以外に方法が有るのか?」
「うん、前に出した足の膝の力をカクンと抜いてやるの。そうすると体が前に倒れそうになるの。」
「ほう、ほう、」
「体が前に倒れそうになると、人間は反射神経で、後ろ足を前に出して体を支えようとするの。」
「なるほど。」
「そうすると、結果として前に進んだことになるの。」
「まあ、なぜそんな事をするのかは判らんが、そうなりそうだな。で、それで何かいい事が有るのか?」
「仕掛ける前に、筋肉の緊張がないから、気配をつかみにくいとか、なれるとスピードが速いとか、言われてるけど、今はそれは気にしないで良いわよ。とにかく”抜き”ってこう言う物っていうイメージをつかんでもらえれば。」
「リョ~カイ。」
「で、さっきのカズの技だけど、ダンさんの剣をすり抜けるように見えるけど、潜らせてるのね。ほんの少しだけダンさんの剣の切っ先の方にずらしながら潜らせる。
そんな事が出来るのはダンさんの体勢を崩しながらやってるから。」
「そんな風には見えなかったがな。だいたい四つに切り結んだ状態で、カズがダンの体勢を崩すなんてあり得ないだろ。逆ならわかるが。」
「ダンさんとカズが切り結んでる時、ダンさんは力の方向を全く変えなかったとして、その状態で、もし、カズが立つ位置を少し横にずらしたら・・・
カズはダンさんの剣を横から押す事になる。ダンさんの力ははカズの居ない方向に逃げていく。相手の体勢を崩すことも、刀をくぐらせることも自在になるわ。」
「だが、実際にはカズは横に移動していなかったし、そんな事をすればすぐにダンも対応するだろ。」
「そう、カズは横に移動していない。でも、それと同じ効果を出している。それが”抜き”。」
「はあ~、まるで意味わからん。ところで、ダン、もう1度やったら勝てるか? 」
ラムダがダンに話を振ると、
「相手がカズならばな、多分、要は相手の間合いに入らなけりゃいい。俺の剣はカズの剣より間合いが広いから、カズの間合いの外から攻撃すれば何とかなる、多分。ただ、カズも最近スピードが上がってるんで、結構苦しいと思うぞ。」
「おい、それじゃお前みたいに長大な剣を使ってない俺はどうすればいいんじゃ? 」
カイルが唸ると、
「そりゃあ、自分で考える事だろ。まっ、最悪ミラーだな、”抜き”とかを教わって同じ技をぶっつけ合えばチャンスは有るだろ。だいたい何が何だか判らないんだから、まともな解決法など分かる訳がない。」
「はあ~、カズもアズミも駆け出しの初心者だとばっかり思ってたんだがな~、こんな曲者だとは思いもしなかったわ。まっ、顔も悪い分根性も悪いか。
あっ、アズミは別な。」
ネルトスが変に愚痴るが、カズは自分の顔が悪いとは思っていない。ちょっと残念な顔をしているだけだとは思うが。
「まあねー、敵対する人に解りずらいのは良いけど、教えても良い人にも解りずらいのよね~。もし、練習する気が有るなら、十文字に切り結んで、相手の体勢を崩す練習をするといいわよ。」
「おー、このお嬢ちゃん、なんかまた判らないことを言い始めたぞ。」
「しょうがないでしょ、もともと話してわからない事を何とか話そうとしてるんだから。」
「その辺のどうしようもない話はどうでもいいが、その”十文字に切り結ぶ”って奴は何なんだ?」
「ええとね、技をかける方と、掛けられる方に別れて、どちらも木剣の切っ先と柄、つまり両端ね、を持って、掛けられる方は体の前に垂直、掛ける方は水平に構えて、両者押し合うの。
で、両者そのまま、真っすぐ押していても相手は崩せないわ。相手を崩すには横方向に反らす力が必要になるけど、その力を手でなく体で作り出す。特にこの場合は股関節のゆるみによって作り出す。これがポイント。」
「何となく、多少解ったような気もするけど、やっぱり解らん。」
「まあ、そう言ったものよ。こんなのは口で言えば言うほどドツボにはまって、余計判らなくなる。何となくわかったような気分で、何となくやってるうちにパチンとはまって、”ああ、こう言う事だったのか!” と言う事になるものよ。」
「まあ、何と言うか、一見本当っぽいけど、結構インチキくさい。だいたいアズミみたいな小さい奴が、強いってものインチキだよな~。」
「なに言ってるのよー、私みたいに訓練して、魔力も多ければだれだって…まあ、カズはちょっとなんだけど、普通は強くなるものよ。と、言う事で今日はおしまい。お休みなさい。」
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