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その20

その20

早朝はいつも通りの筋トレと剣の訓練である。しかし、どうしてこの筋トレと言うやつは面白くないのだろう。身体の基本を造る、これが無ければいくら剣の技を磨いても、魔力で身体強化してもすぐに行き詰ってしまう。

魔法の場合は、う~ん、どうなんだろう。

いつも思うのだが、一番つらくて面白くない、この基礎訓練と言う絶対必要な奴が楽しくらくにできたら、武術の上達も簡単だろうに。

だが、これは・・・、よくよく考えると、絶対不可能と言うわけでもないんだよな、面白くもない基礎訓練を楽にする方法・・・、実行するかどうかは別だけど。

人間の感情とかやる気とかは脳内ホルモンによって決まる。脳内ホルモン?(本当はホルモンじゃないんだけど、そう呼ばれたりする。)は数百種類もあるそうだが、ドパーミン、ノルアドレナリン、セロトニンの三種類を抑えれば、基礎訓練のつまらなさぐらい簡単に跳ね返せるはず。

脳細胞のニューロンに微小電気刺激を与えて脳内ホルモンを出させるか、ホルモン自体を脳内の血管に流してやれば効果はあるはず、あとはどのタイミングでどのホルモンを出させるかプログラミングしコントロールすればいい。VRゴールの時のようなヘルメットを造ればそれは可能だろう。

だが、何と言うか、それを躊躇してしまうのは、自分の心を外側から弄り回すことへの抵抗感だけなのか? それだけなのだろうか?

根暗で引き籠りの陰キャ、以前からなぜかこんなどうしようもないものに執拗し、しがみついている自分がいる。

転生マシンのスイッチを押す直前、俺は魔王になってやると叫んでいたはずだ。本当に魔王になる決意と覚悟が有るなら、肉体的にも精神的にも、もっとバキバキに改造して、むしろガチガチのアバターとかに俺の記憶だけを刷り込んでこの世界に飛び込むべきだった。

だが俺はそれをしなかった。

まあ、あの時はいきなり核戦争を仕掛けられて、無理やり俺の人生をねじ曲がられて、2度と他人に俺の命を好き勝手されるかと思い詰めていた。今でもその思いは変わらないが、では、今本当に魔王になりたいかと言えば、それはちょっと違うかもしれない。

いったい俺は何のためにこの世界に来たのか?

正直本当にやりたかった事は、つまり、なぜ転生マシンまで作ったかと言えば、俺の魔法の研究をバカにしていた連中の首根っこをひっ捕まえて、この世界まで連れてきて、”どうだ!これが魔法だ! ちゃんと魔法は存在するんだ! ”と言ってやりたかったからだ。

”どうだ! ざまあみろ! ”そう言ってやりたかった。

でも、この世界に来たのは俺一人で、せっかく研究の成果を出しても、”ざまあみろ!”とか、”どんなもんだ!”とか、言える相手は誰もいない。

まあ、とにかく魔法世界が有って、一応でも自分で魔法を使ったのだから、それなりに成功で、それなりに満足してもいいはずなのだが、全然そんな気にはなれないのは何故だろう。

自分で自分がどう生きれば良いのか判っていない、まあ、八割がたはそんな所だが、根暗で引き籠りの陰キャ、そんなどうしようもない自分が俺にとっては本当はとても大切で、どこかこんな自分でも大手を振って、まともに生きていけるような、そんな場所を探しているのかも知れない。そんな気がしなくもない。

朝の訓練を終えると、食事の支度である。

納屋で寝泊まりと言っても曲がりなりにも野宿でない事の長所は、安心して眠れることと、気分的に落ち着いて食事ができる事だろう。それと収納バッグを使えるようになって、スパイスと醤油もどきを持ち歩けるようになって、食糧事情がぐっと上向きになった。

3年間山にこもっていた時期に一番問題になったのが食糧で、腹を満たすだけならば、山の中にあるものを取ってくればよかったのだが、元が日本人の嗜好を持った人間には醤油なしではやる気が駄々下がりしてしまい、俺のやる気維持のためにもスパコンのアズミも手を打たざるを得なかったという経緯があった。

「アズミ、なんか結構手を焼いていたようだが、結局あれはどうやったんだ?」

「昔、ネットに転がっていたコウジカビの遺伝子情報でやってみたけど、インチキだったみたいでうまくいかなかったの。なんとかそれに近いカビを見つけて、遺伝子を組み替えたり培養を繰り返して作ったけど、大豆は見つからなかった。だからあれは醤油じゃなくて、醤油もどきです。」

「あと原料は小麦と塩か? パンが有るから小麦はあるよな? 」

「うん、大豆はなかったけれど、それっぽい豆を使って、ちょっと味は変わるけどそれっぽいものはできた。」

「食べた感じ、普通に醤油だと思ってたけど、味が違う?」

「ちょっと違うかな、この世界にきてから刺身は食べないし、醤油もどきは煮物の味付とか、焼き肉のたれに使うので、スパイス使うし、いくらでも味はごまかせるのよ。」

「そういえば、胡椒みたいなスパイスを使ってたけど。」

「うん、色々さがしたら、似たようなのが見つかったの。胡椒より山椒に近いかな?」

今朝は俺とアズミが朝食担当で昨日から醤油にドライフルーツや故障もどきで作ったタレに付け込んでおいたオークの肉と塩とスパイス味の肉を焼いて、干し肉と野菜で作ったスープに村で買ったカチカチでないパンを出した。

「は~、なんかすげえ良い匂いがするんだけど。遠くからでも匂ってくるぞ。」

ネルトスが鼻をクンクンさせながらやってきた。

「両方用意してあるけど、タレに漬けてあるんです。塩味ばかりじゃ飽きるでしょ。」

アズミが説明するけど、それ、多分説明になってない。だいたい、このあたりには醤油なんてないと思うし、多分タレも無いかも。

みんな集まったところで朝食が始まる。

「肉は焼き立てがおいしいから、少ししか焼いてないから、皆さん焼きながら食べてください。野菜の葉っぱをまいて・・・・」

アズミがいろいろ説明していたが、

「何だこれ! めちゃくちゃうまいんだけど!」

カイルが大声を上げた。

「肉に醤油って合うよね。」

俺が答えると、

「このタレの奴もいいけど、塩の奴もピリッと辛いのがすごくいい!」

「スパイスの事かな? それ、アズミが・・・・」

「あら、私じゃないわよ。そのタレもスパイスもお爺ちゃんに教わったの。」

”やばっ、見た目13歳のアズミが醤油と胡椒を作ったことにしたら問題が起きそうだ。”

どうも気が緩むとうかつな事をしゃべりそうで、気を付けなくてはいけない。取り合えず問題が大きくなる前にアズミのフォローが入って助かった。

「しかし、このタレってやつ初めて口にするけど、旨いなあ。この辺では聞いたことがないぞ。」

「私の父も、お爺ちゃんが若い時も、あちこち歩きまわっていたみたいで、その時に覚えてきたみたい。」

肉の味付けが大好評だったのは良いですが、タレの作り方とか、さらに醤油の作り方、豆を蒸して、小麦を炒って、潰して混ぜてコウジカビを付けて・・・根掘り葉掘り聞かれて、とてもじゃないが俺が受け答えしてたら、後々つじつまが合わなくなって、変な嘘をつくやつとか絶対に評判になってしまう。

で、全部アズミに丸投げして、俺はおとなしく隅っこに引っ込んで、余った肉など突っついていました。

まあ、とにかく皆さんには喜んでいただけたので、良かったと言う事にしておきます。


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