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その16

その16

町の門の前で”蒼天の銀翼”と待ち合わせる。

今回は1週間の予定の長期の依頼である。東北東、歩いて二日の距離、途中小さな山脈を超えた先のアルムの森が魔物が増えすぎたので、その駆除である。

主に対象になるであろう魔物はダークベア、ビッグボア、オーク、オーガなどが予想されている。

いずれも気の抜けない対象であるが、一番の脅威は途中越えなければならない小さな山脈に住むワイバーン、飛竜である。魔法使いのいない”蒼天の銀翼”は、弓で対応するしかなく、威力不足の弓ではワイバーンを討伐することができない。

見つからないようワイバーンの隙をついて通り過ぎるか、見つかってしまった場合は弓でけん制しつつ、逃げるしかない。

「皆さん、お早うございます。」

「おう、お早う。」

”蒼天の銀翼”のメンバーはほぼそろっていたが、ネルトスだけまだのようだった。

やがて、ネルトスが来ると出発である。

「カズ、なんかずいぶん荷物が少ないんだが、背中に背負っている奴ビートのに似てるなあ、もしかして・・・。」

ネルトスから声をかけられた。

「へへへへへ、昔の小屋に戻って、親父のガラクタをかき回してきました。ビンゴでした。」

「ビンゴって、それ収納バッグか? 」

「はい。」

「おい、収納って、お前たちそれでなくても厄介者なんだからな。それ以上厄介になるなんて、気を付けろよ。」

「でも、収納バッグがあるのに使わないなんて、あり得ないでしょう。」

「まあ、そりゃあ、そうなんだが、やたらに見せびらかすと厄介なことになるぞ。もうなってるけど。」

ダンのチェックが入るが、少々の事が有っても収納バッグを使わないという選択肢はない。

大体、俺はちょっと情けない顔立ちをしているだけで、そんなに厄介者扱いされるような事をした覚えもない…・あれ? この前、マクロスを弄ったのはやっちゃったに入るのかな? そんな事ないよな? 周りからアズミの事をいろいろ言われたのは想定外だったけど。 

移動時間は基本早歩きである。俺とあずみだけなら筋トレと身体強化を兼ねて、走って行く所だが、チームで動くとそうはいかない。かといってのんびり物見雄山の旅…である訳がない。話しながらにしては早すぎで、中途半端なあまり面白くない旅になった。

昼飯は携帯食であるが、一応湯を沸かして、干し肉を放り込んだスープもどきを作る。肉も堅いが携帯食のパンも堅い。スープでふやかさないと、まともに喉を通らない。

小さな流れの近くの砂地で昼食ととることになって、近場の林で薪を拾い集めてくると、小さ目の岩でかまどを作っていたラムダに渡す。

ラムダはかまどに薪を突っ込むと、手をかざして、一呼吸息を止めてから、

「燃えろ!」

と言うとかまどの薪が燃え上がった。

「へー、それ火魔法ですか?」

俺が尋ねると、

「いや、生活魔法だな。残念ながら、属性は持っていない。」

「それって、どうやるんですか?」

「まあ、適当にやってる。燃えてるとこをイメージして、魔力を集めて、気合を入れる。俺はそれで何とかなる。」

「おい、ラムダ、それじゃ勘違いするだろ。」

横にいたカイルが口をはさんできた。

「ラムダは魔力量が多い方だから、適当にやっても火が付くが、普通の奴や、魔力の少ない奴はもっとシビアに苦労して火をつけてるぞ。」

「へー、普通はどうやるんですか。」

「はっきりこう、というやり方はないが、まずイメージ、燃えている場面をしっかりイメージして、イメージを固めたまま魔力を集めていく、集まったらトリガーのワードを発して、発動。

ま、こういう流れになるんだが、イメージを固めたり、魔力を集めたりするには集中力がいるだろ。それには呪文の詠唱がやりやすいので、みんな自分流に呪文を作るんだ。」

「そんな適当に呪文なんて作って良いんですか?」

「適当とは言っても、例えば火を着ける時は、火の神アグニの名を出した方がうまくいきやすい。魔力を集めるワードは人それぞれと言ってもそれっぽい言葉になる。

来い、来い、でも強く、強く、でも。

あとはトリガーになる文言。着火、とか、燃えよ、とか、

なんで、一見どうでもよさそうな呪文なんだが、結局似たようなものに落ち着くようだ。たとえば、」

「この世の炎を支配する気高き大神アグニよ、わが願い、炎の顕現を願い奉る。来たれ、来たれ、燃えよ!」

ボッ!!

カイルの目の前にソフトボール大の炎が浮かび上がって、やがて消えた。

「おお!」

ちょっと感動したが、たかが竈の火を着けるのにこの厨二病的呪文はさすがに恥ずかしい。試してみたいのはやまやまだが、あとで、人の居ない所でやることにした。

昼飯を終わって、また旅は始まる。

小さな森や、荒れた野原を過ぎ、さらにしばらく行くとアクラと言う小さな村にたどり着く。

そこでイレギュラーが発生する。

ブラディーベアが現れ、その先の森がが通行止めになっていた。

村の長に話を聞くと、駆除を頼むという話も出たが、ブラディーベアの生息域が、まだ村から多少離れていること、駆除依頼の費用が高額なのとで、なし崩しにそのままになっているそうだ。

言外に我々に駆除して欲しそうにはしているが、やはり費用を払って正式な依頼は出せないらしい。

我々としては無料で駆除を受けるわけにはいかない。しかし、アルムの森の駆除を請け負っているので、引き返すわけにもいかない。

「おさよ、村が苦しいのはわかるが、我々も生活のためにやってることで、変な前例を作るわけにはいかんのだ。

しかし、俺たちは森の先に行かねばならん。たまたま魔獣が出てくれば、それは何であれ倒さねばならん。

で、運よくか、運悪くかは知らんが、ベアに出会ってしまった場合には倒す。

出会わなければそのまま通り過ぎる。探すことはしない。

これで良いか。」

「すまんの、本来なら正式に依頼を出さねばならんのだが、何分村は貧しくての。

そこそこ手間もかかるだろうし、もし、ベアをやっつけたらこの村に戻ってくると良い。寝るところと、食うものぐらいは用意しよう。」

知らん顔で俺たちにブラディベアをけし掛けるよりも良心的と言うべきなのだろう。

と、言う事で我々は森に向かう。

「ブラディーベアって、どんな魔物なんですか? 」

アズミの問い掛けると、ダンがこちらを振り返って、

「ひとことで言いやあ、とんでもなくでかい熊だ。下手な納屋よりもでかいかな、四つん這いでも3m、立ち上がると5mぐらいある。」

「そんなでかい奴を倒せるんですか?」

「俺の大剣でも簡単には倒せん。みんなで寄ってたかって切り刻んで、弱らせてから急所に何回も切り付けて倒す。」

「わあ、大変そう。」

「まあ、7人もいるから何とかなるだろう。ただ気をつけろよ、身体強化を覚えたての奴は四つん這いになったベアの背中に飛び乗りたがるが、ベアはそれに合わせて立ち上がる。

空中に飛び上がった人間なんて、格好のハエたたきの的になる。ベアの動きは速い。

図体がでかいから遅めに見えるが、見た目より結構早い。オーガよりも少し早いと思っておけ。」

「なるほど、結構大変ですね。で、急所になるのは…。」

「一撃で倒せるのは、目からその奥の脳を刺し貫いた時ぐらいかな。あとは首筋、わきの下、内ももの太い血管を切って失血死させる。心臓や内臓までは簡単には剣は届かないと思ってくれ。とにかく、手足を徹底的にたたいて動きを止めてからになる。」

うーん、納屋ほども大きさのある熊なんか、どうすんだ!って気分になるが、スピードがオーガより少し早い程度っていうのが少し安心する。冒険者が大剣を持ちたがる理由が分かった気がした。

やがてベアが出るといわれる森に差し掛かる。

我々も息を殺して慎重に進んでいくが、やっぱり出るものは出るんですね。

ブラディーベアにしても、自分のような強烈な魔獣が1匹いるだけで、弱い奴はどんどん逃げ出して、エサが少なくなるので、冒険者のチームのように、一見美味しそうに見える馳走は見逃すわけにはいかないのだろう。

「俺とラムダがベアの正面に立って気を引く。あとの者は隙を狙って一撃離脱で行け。間違ってもベアの間合いに張り付くな。」

ダンの指示が飛んで、ブラディーベアとの戦いが始まる。

俺とあずみはブラディーベアの後方に陣取って、後足を狙う。

小山のようなベアに、挑む人間がありんこのように見えてしまうが、集団戦の強みで、いざ戦いが始まってみると、かなり一方的な戦いになった。

ラムダがブラディーベアの間合いに入ってベアを挑発する。ベアはラムダを殴りつけようとするが、ラムダは魔力強化した盾でベアのパンチを払いのけ、すかさずダンがベアに切りつける。同時に周りを囲んでいたほかのメンバーも後ろから切り付けて、ベアに付け入るスキを与えない。ベアがある程度手を出せたのはダンとラムダの二人ぐらいで、あとのメンバーにはやりたい放題やられることになった。

俺としては、これならベアの間合いに張り付いて、手当たり次第に切り刻んでも良いような気がしたが、とにかくこんなデカ物は初めてなので、安全第一で言われた通りに一撃離脱に徹した。

大人二人でやっと抱えられるぐらいのぶっとい足、それを俺は5回ほど切りつけたところでブラディーベアは動けなくなった。

最後は動けなくなったベアの首筋をダンが大剣で切りつけてけりを付けたが、さすがにダンの大剣でもベアの首は三分の一ほどしか切れていなかった。

大物の解体は倒すよりも大仕事で、やっと終わると、やはり前に進むには時間が遅すぎるので、村の長に言われたとおりにアクラの村に戻ることになった。

ここで役に立つのはもちろん収納バッグである。

「世話になったのう。大したことができんで申し訳ないが、少しだが酒を用意しておいた。」

村の長の家に招かれ、食事をふるまわれる。

「我々はどうせアルムに行かなければならない、ブラディーベアを倒したのは成り行きだし、むしろ、宿を貸してもらって、こちらも助かった。」

倒したベアの肉は我々の夕飯になり、残りは村人にふるまわれることになった。

とにかく、今夜は寝床でゆっくり休めるのがうれしい。

この世界の村はなぜか貧しい村が多いような気がする。

「魔物の居ない平地は荒地で土地が痩せている。そうでない所は森で魔物が出るからのう。」

村の長は言っていたが、都市や町など限られた地域ではともかく、それ以外では、人間は荒地と魔物の森との境目に小さな村を作って、細々と生きていくのが精いっぱいに見える。人間はまだこの世界を支配しているとは言えないのだろう。

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