その13
その13
次の朝は早めに起きて、依頼を受けた村を目指す。
小さな村であった。小さなと言うよりは寂れた、村というよりは集落と言った方が正しいかもしれない。
じかの依頼で、間にギルドが挟まれてなければ、依頼をこなしても支払いがされるか疑ってしまったと思う。魔物を駆除してくれるのは嬉しいだろうが、報酬を支払うのはかなり苦痛が伴いそうで、村人にとって我々冒険者に対する感情は多分複雑なものが有りそうだ。
この村に余計な負担はかけられない。昨日の夕方、むりにこの村に来るより、早めに野宿して正解だったような気がする。
最初に出会った村人に案内されて、村長の家に行く。一言付け加えるなら、むらおさの家にもかかわらずボロ屋である。
「よく来てくれたの。宜しく頼むぞ。」
ぼさぼさの白髪に白い無精ひげの小さな爺さんである。意外に好意的なあいさつにホッとした。
「ゴブリンの巣が有ると聞きました。それを潰して、後は、オーガなどが居たらそれも駆除すると聞きましたが、その辺があいまいなので、詳しく聞かせてください。」
普段ぞんざいな口調のダンであるが、相手がむらおさとなるとそれなりに丁寧に話すようだ。
「ゴブリンの数はハッキリしないが、30か、50か、その位だろう。場所は若いのが近くまで行く。あとの魔物の駆除は”鷹の岩”から”田賀の神木”、”空蝉の沼”、”不朽の泉”を結んだ範囲。それも若いのが案内する。」
「案内は有難いが、その若いものと言うのは大丈夫ですか? 足手まといになると困るが。」
「戦えはせんが、足が速いからの、逃げ足だけは早い。さっさと逃げ出すんで、それを承知なら足手まといにはならん。なんかあっても責任は問わん。」
「わかりました。それでは。」
不測の事態が起きない限り、明日は帰るための移動日にしたい。魔物の駆除は今日1日で終わらせる予定である。
と、言う事でさっさと出かける。
山に向かう道である。龍の背骨の様にごつごつした山並みが連なり、その麓ははるかに森が広がっている。
遥か昔、かってはあの高い山を越えて、隣のナザマの国にたどる道もあったそうだが、今は深い森の中に消えている。
その旧道を深くたどって、山並みの手前にかすかに西に曲がる道がある。そこをたどると、やがて小さな広場に出て、その奥の山肌に洞窟が有る。ゴブリンの巣である。
村人Aには旧道に戻ってもらって、作戦会議になった。広場には見張り?(ただボーっとしているように見える。)ゴブリンが5匹、洞窟の入り口は二つある。ちょっと見、かなり古そうな洞窟で、人の手が加わったようにも見える。
ゴブリンが昔から住み着いていて、土木作業をやって作ったとは考えにくいので、昔、人間が旧道を利用している時代、何らかの必要が有って作ったものをゴブリンが利用していると考えるのが妥当だろう。
で、作戦である。
「見たところ、50匹もいそうな洞窟には見えんが、気を引き締めていく。
とにかく囲まれないことだ。一人一人になったところを大勢で取り囲まれて、一斉に打ち掛かられると最悪だ。
まずは見張りの5匹を一気に倒す。弓二人が射た瞬間にネルトス以外全員飛び出して、まずゴブリン5匹を倒す。
ネルトスはここに残って弓を使え、あとは3人、3人に別れて二つある洞窟の口に取り付いて、出てくるやつを順番に倒す。
それで片が着けば一番だが、倒しきれないやつが増えれば、こちらが囲まれることになる。
声を掛けたらお前たち3人は左回りに広場を走れ。俺と見習いは右回りで走る。
お前たちを後ろから追いかけてくる奴は俺たちが倒す。俺たちを追いかけてくるやつはお前たちが倒せ。後ろから追いかけてくるやつは基本無視、前からくる奴だけすり抜けざまに切りつける。とにかく囲まれないように基本足を止めるな。
回りだすタイミングは俺が声をかける。一度止まってもまた走るかもしれないから気をつけろ。
以上だが、なんか質問はあるか?」
「なんか変わった戦い方ですが、冒険者の戦いとしては普通なのですか?」
「魔法使いがいないんでな、うちのグループではちょくちょくやるが、他では聞かないな。ゴブリンは頭が悪いし、連携などないから、ちょっと攪乱してやると効果がある。」
「よし、他にないなら行くぞ!」
そろそろと広場のふちまで身をひそめながら、前進する、ダンがゆっくりと手を上げ、弓役の二人が狙いをつける。弓役二人がうなずくのを待って、ダンが手を振り下ろすと同時に2本の矢が放たれる。
「ギャー!!」
ゴブリンの悲鳴が響き、矢を受けたうちの1匹が倒れ、もう1匹は肩に矢を受けて転げまわる。
6人は一斉にゴブリンに襲い掛かる。ゴブリン3匹に冒険者が6人、当然瞬殺である。持ち場の洞窟口に張り付くと、悲鳴を聞きつけて出てくるゴブリンを片っ端から駆除する。
まとまっていっぺんに出てこられると、困るところだが意外とばらけて出てくれたので、順番に倒すだけでほぼ終わりそう、と思ったところで団体さんがやってきた。
「まわれ!」
ダンの掛け声とともに一斉に走る。右手にいるゴブリンの脇をすり抜けながら愛刀の高橋長信の強化版”高橋長信改"を振る。
軽くスッと振ったつもりが、窓際に置いたリンゴでも落ちるように、ゴブリンの首がコロンと落ちた。
魔力による身体強化、刀の物理的強化、刀の魔力強化、何が良かったのかは分からないが、たった三日ほどの訓練で一つレベルが上がった気がする。
かなり密集したゴブリンの塊りをするするすり抜けながら、軽く刀を振ると、柔らかい草花でも刈り取るように、ゴブリンがパタパタ倒れていく。走り抜けて広場の反対側で、逆走グループを追ってくるゴブリンと出会った時には、ほとんどのゴブリンは地面に倒れていた。
村の若い者、村人Aを呼んでゴブリンの依頼の確認をしてもらい、”鷹の岩”から”田賀の神木”、”空蝉の沼”、”不朽の泉”の巡回ルートを案内してもらう。
先頭はダン、魔力探知で魔物を探りながら進む、すぐ後ろに村人村人A、ダンのすぐ後ろで方向を指示する。そのあとに盾のラムダと弓けん剣のビート、俺とアズミ、弓のネルトス、剣のカイルと続く。
森の木立の中ではダンの大剣は取り回しにくく、小物はビートが前に出て倒していく。俺はビートの弓持ち。荷物持ちでこのメンバーに入って、荷物を持っているんだから、これで良いのか? ゴブリンをやっつけていた時は一応冒険者してたけど、また冒険者やめて、荷物持ちというより、お荷物そのものになった気がする。
ワイルドボアや、オークのような大き目の魔物が出た時はラムダが盾で魔物を引き付けて、横からダンが切り付けていた。流石に大剣の威力はすごくて、一撃でボアもオークも切り倒される。チームで倒すときの基本だそうだ。
2、3匹いっぺんに出た時はどうするのか見たかったが、そこまでは出てきてくれなかった。
このまま何事もなく終わるかと思ったら、最後にオーガが出てきて、ダンから声がかかった。
「おい、オーガを倒せるとか言っていたが、どんな風にやるのかちょっと見せてくれ。」
と、いうことでオーガと戦うことになった。お荷物から冒険者に”仮”昇格である。
村人Aにとって体高3mの魔獣は恐ろしすぎたようで、悲鳴を上げながらグループの後ろに逃げてしまった。
まあ、初めて対峙したときはそうなる。俺だって初めての時は逃げ回るだけで何もできなかったし。
カズはチームの前列に立つと、オーガが出てくると同時に切り込んでいく。オーガが袈裟切りに振ってくる大剣を巻きではじいて、切り返しで小手を切り飛ばす。
一瞬膠着するところを踏み込んで足首を切り落とし、倒れこんだオーガの首筋に刀を走らす。いつも通りのワンパターンであるが、1対1ならこれが確実である。
「ほー、なるほどな。手数はかかるが、それなら一人でも倒せるか。帰ったらDにランクアップするようにギルマスに言っとくな。」
「そんなこと、勝手に決めちゃっていいんですか?」
「ああ、Eランクなんて、なりたて冒険者の見習い期間なんで、ギルマスの判断かBランク以上の冒険者の推薦があればDにはなれる。剣の技だけ見ればCでも十分通用するから、経験は少ないとはいえ、Dなら問題ないだろう。」
「あの、ダンさんのランクは・・・・」
「Bだ。」
「”金龍のアギト”はCでしょ。ダンさんと比べると”金龍のアギト”とは腕に差がありすぎるように思いますが。」
「Cランクは普通レベルの位置づけなんで、ピンからキリまで居るし、”金龍のアギト”は魔術師、弓、盾、そろってチームのバランスが良い。腕はいまいちだが、それにカナの町あたりでは強い魔物が少ないので、あれでもCでやっていける。
でも、あいつらの腕では強い魔物の出るところではヤバイ、その辺あいつ等がわかっていると良いんだがな。」
「ダンさんのBは・・・」
「そんなもんだ、Bはこれでも一応上級者だ。Aになると、もう神だ。俺たちみたいにワイバーンは倒せませんではAにはなれん。」
「なるほど・・・。」
村の若い者Aの先導で巡回ルートを回り終わると、村に戻り、むらおさの確認を取って、帰途に就いた。
しょぼい村であった。魔物におびえ、やせた畑を耕し、それでも小さな村にしがみつく、もう少しどうにか成らないものかと思ってしまうが、思ったより穏やかだった村長の表情を見ると、部外者がどうこう言うのは場違いなのだろう。
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