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その7

その7

と、言うところでカランコロンのドアが開く。ここ一番と言うところで登場するのがヒーローという奴である。にしてもタイミングが良すぎる。ひょっとしてアズミの奴、魔力探知とか新しい魔法でもを造って、ヒーローの来るのを知っていたのか?

「ギルマスから話を聞いて、もしやと思っていたが、やっぱりお前たちか。」

ギルマスが紹介すると言っていたのは”蒼天の銀翼”のダンだったようだ。

「お早うございます。ギルマスが紹介して下さったのはダンさんだったのですか。宜しくお願いします。」

「おう、ところで、マクロスが居るが、揉めてるわけじゃないよな。」

「いや、ダンさん、とんでもないです。こちらの人、冒険者になり立てみたいなので、色々教えていただけです。」

「そう言えば、”金龍のアギト”はC級にランクアップしたんだな。おめでとう。そいつらを教えていたなら、ついでに訓練場で一本相手してやってくれると嬉しいのだが。」

「あ、どうも有り難うございます。良いですよ、こいつに俺たちがC級ってとこ見せてやります。」

とかカッコいいこと言っていたけど、

「おい、ゴーラ、こいつの相手をしてやってくれ!」

いうだけ言って仲間に丸投げである。まあ、例のオークもどきの大剣使い、見た目の迫力では一番なので、初心者を脅かすならもってこいなのだろう。

しかし、俺は三年間オークやオーガを倒しまくっていたんだよ、ご期待に沿えなくて残念ですけど。

「ビビアン、訓練所、ちょっと借りるな。」

「はあい。どうぞ。」

結局訓練所に連れていかれて、立ち合う事になる。

訓練所などと言うので、それなりの施設かと思ったら、町の外だそうだ。ギルドで木刀を借りようとしたら、日本刀のような形の剣はなかったので、それならばと宿に戻って木刀を持ってくる。

町の出入り口で待ち合わせて、門を出る。

一緒に歩いていて気になった事が有る。

ダンとゴーラ、体格も装備もほぼほぼ一緒、後ろから見たら間違えてもおかしくないはずなのに、受ける印象が正反対なのだ。

ダンとは立ち合ったら勝てる気がしない。ゴーラとは負ける気がしない。

ゴーラは解かる。受ける印象がほぼオークレベル。オークよりも多少は強いかもしれないと言う程度。オークと思って戦えばほぼほぼ勝てる。

だがダンは何がどうなっているのか分からないが、なぜか勝てる気がしないのである。まっ平らな壁を撫でているようで、つかみ所がない。ただただ勝てる気がしない。

これはどう言う事なんだろう。

「ダンさん、ゴーラさんをのしちゃったら、後で恨まれませんか?」

これだけは聞いておきたかったので、訓練所に向かう途中で小声で尋ねる。

「心配するな、そのために俺が立ち会う。ま、多少ぐずぐず言う事はあっても立会人の顔をつぶすような事をすればこのギルドで働けなくなる。」

「そうですか、有難うございます。」

「冒険者は、つまるところ力だ。弱い奴の言う事を聞く必要はない。それは皆納得している事だ。」

連れていかれた場所は、柵に囲まれただけの、ただの広場だった。

俺とダン、ゴーラが広場の中央に行くと、少し離れて広場の端にいるアズミにマクロスが近づいて行った。

「オイ、ゴーラに掛かったらあいつボコボコにされるぞ。そろそろ素直になって、俺たちの仲間になる気になった方がいいぞ。」

マクロスがアズミに言うと、

「あなたって見る目がないのね。見る人が見ればそれなりに鍛えてあるのは分かるはずよ。」

「ハア、あんな奴、何がどうなっても有り得ないっショ! 前から見ても後ろから見てもクズ男だよ!」

「随分な言いようね。私の父が鍛えたのよ。ただのクズだと思ったら痛い目を見るわよ。」 

「はは、ナイナイ、これが終わったら、俺があんたを鍛えてやるよ。」

アズミの方は口喧嘩で盛大に盛り上がっているよだが、俺の方は若干盛り上がりに欠ける。相手のゴーラは一見ダンと同じような体格で、武器も同じぐらいの大剣を使うが、明らかに腕前の方はダンよりも大分落ちる。と言うか、見栄ででかい武器を持っているが、使いこなすほどの実力が感じられない。

自惚れで実力以上の武器を持とうとすれば、それはもうそれだけで盛大な落とし穴だ。

カズの受ける印象ではオークよりちょっと強い程度、動きもほぼオークと大差ない。オークを倒す時と同じ手順でも勝てるが、木刀とは言え、下手に首筋を強くたたきすぎると危険なので、オーガを倒す時と同じ手順、篭手から足首、今回は弁慶さんの泣き所の向こうずねを狙う事にする。

「始め!」

ダンの声がかかると、俺は一気に距離を詰め、打ちかかると見せて、間合いの直前で一瞬で急停止。体術の骨格を使ってスピードを地面に流す技である。止まった瞬間猛烈な勢いで大剣が目の前を通り過ぎる。

”やば!!”、木剣だからと言って、こんなのを頭に食らったら死ぬだろ! もっと当てても死なないような所を狙えよ!

技もイマイチだけど、脳みその方もイマイチ、いや、イマサンぐらいか。あまりのんびり様子見とかしていると、何をされるかわからない。でも、今まで人間? 相手に訓練したのはアズミだけだし、ちょっと、どんな風に剣を振るのか見ておきたかった。

回り込んで避けたり、影抜きを使って避けたり、2、3回フェイントをかけると、ゴーラの攻めが大振りになって隙が目立つようになってしまった。まあ、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが、この辺がいかにも我流の素人剣法なのだ。

考えてみれば、こんな田舎町の小さな冒険者ギルドんで、正式に剣術など習うことなどまず無理だし、なまじ運動神経が周りの人より良かったりすると、それで天狗になってしまって、そこまでの人間になってしまう。

これ以上やり合っても意味はなさそうなので、片を付ける。

「ターッ!!」

気合1っパツ、袈裟切りで真正面から切り結ぶと見せて、影抜きですり抜け、半身片手打ちで間合いを伸ばして籠手を打つ。打たれた痛みで固まった所で向こうずねを殴りつければ、ゴーラはもはや立つことも出来ずに足を抱え込んでヒイヒイ言いながら転げ回っている。

手心は加えたつもり、骨折はしていない、たぶん…しかし、自分でやっといて何だが、”痛たそ~!”

絶対自分はやられたくない。自分でやっておいて何だが。

「おーい、終わったぞ!」

盛大に盛り上がっているアズミとマクロスに声をかける。オイ! 俺とゴーラが戦っているのも無視して盛り上がっていたんじゃないか?

「カズ、手を抜きすぎ! ちゃんと丁寧にボコらないとまぐれと思われるよ。」

マクロスの方は本当に試合を見ていなかったようで、まだ状況を理解できずにぽかんとしている。

「そういうのはアズミに任せる。メンドクサイのは無し、俺には無理。」

「ふふふ、マクロスさんが私に剣を教えてくれるって、私の前にカズが教わってみたら。

カズの事、前から見ても後ろから見てもクズだとか言いたい放題だったから。いっそ思い切りボコボコに返り討ちしたらスカッとするわよ。」

「ほ~、マクロス、アズミと試合うつもりか? 勇敢な話だな。」

後から歩いてきたダンが話に入ってきた。

「ええっと、あの、ダンさん、アズミってそんなに強いんですか?」

思いがけない展開に、マクロスの声が上ずっている。

「ちょっと見の感じだと、そこそこ強いぞ。俺でも気を抜くと一本取られるかも。やり合うと面白そうなんだがな・・・・、何しろ見た目がか弱いチビ助なんで、まかり間違って一本取られるとどんな噂が立つかわからんからなあ。

マクロス、お前ちょっとやって見るか?」

「いや、ちょっと、あの・・・・、そうだ! ロビン、お前ちょっとやって来い。」

「いや、俺、剣士じゃなくて、弓役ですけど。」

「弓役だって、接近戦になれば剣を使うだろ。攻撃は無理でも自分を守るぐらいはできないと困る。

良いからちょっとお前、ちょっと行って来い。」

良いからと言われても、弓役のロビンとかいう人には全然良いわけがない。都合が悪くなると、仲間に丸投げするのがマクロスのやり口のようだ。

ひょっとして、マクロスって劣等感とか強いんじゃねえか? やたらにえばりたがるのは劣等感の裏返しだったりして。

可愛そうなのはロビンである。手加減なしのアズミとやり合うと、自己嫌悪と言うか、自信喪失と言うか、極端な話、物理法則が信じられなくなる。

当てたはずの刀が空を切る、切り結んだはずの刀がすり抜けてくる。間合いを外したつもりが、するっと入り込まれる。まるで影や幻を相手にしているようで、何が何だか分からなくなり、何が何だかわからない内にボコボコにされて、自分のやる事が信用できなくなる。

「おい、今の技は何だ? あれ、相打ちになるはずだろ? 何でロビンの剣がそれるんだ? 」

「あれですか、合仕打ちですね。剣を使う人には馴染みがないでしょうが、刀のそりを使って相手の剣筋をそらす技ですね。

刀を相手の剣で言えば上の刃の部分、刀で言えば峰の部分をつばの方向に滑らせて、刀の湾曲を使って相手の刃筋をそらせます。」

「ほう、そんな事が出来るんだ。」

「まあ、さすがにダンさんの使う大剣にはつうようしないかも・・・。

でも、術理を知らない人が初見で使われたら混乱するでしょうね。」

「おい、どうだ、マクロス、お前もアズミちゃんに揉んでもらうか? そうすりゃ、お前の自惚れの面の皮なんか1発ではがれるぞ。」

「いや、あの、ちょっと、急に頭痛が腹痛で、その、有難いですけど、今日はそのいきなり都合が悪くなって…‥。」

「なあ、マクロス、お前、カズとゴーラが戦って居る時、アズミに随分と言いたい事言ってたよなあ。でもって、都合が悪くなると仲間に丸投げか?

てめえのケツはてめえで拭けって、おまえ、黄金のアギトのリーダーだろうが、自分のケツだけでなく、時には他人のケツまで拭いてやるぐらいの度量がないとリーダーは務まらんぞ。」

「・・・・・、すんません、‥‥気を付けます‥‥。」

「もういい、アズミに一言詫びを入れてから消えろ。」

「はあ、すんません。」

一戦を終えて、こちらに戻ってくるアズミに何か一言ボソッとつぶやいて、ロビンを抱えながら、マクロスは退場する。

                     *


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