その3
その3
幾つかの村では宿もなく、納屋を借りて夜を過ごした。やっとそれなりの町にたどり着いて、夕日を浴びたその門を潜り抜ける。
町の名はカナだそうだ。
門番がいぶかしげな顔をしていたが、無事に通れてホッとする。保護者なしの、子供に近い年齢の二人、と言うより、ぱっとしない陰キャな若者がぱっとした美少女を連れているのが気になるのだろう。
”上手い事やりやがって!”とか”どうやって騙くらかした?”とか、そんな脳内言語が聞こえてきそうな気がする。この先ずっとこんな視線にさらされるのかと思うと、ちょっとげんなりする。
「とりあえず冒険者ギルドに行って登録するか?」
「そうですね、冒険者の登録と、手ごろな宿を紹介してもらうのと、魔石の買取を頼むことが必要です。」
「買取を頼む魔石の数が問題だな。収納魔法が使えるのがバレてはまずいし、かといって半端な数を何度も売りに出すのも面倒だ。」
「オークとオーガの魔石50個ぐらいなら二人で運んでもおかしく無いのでは?」
「それで宿代1か月? 2か月持つかな?」
兎に角やって見れば分かること、やってみようと言う事になった。
カウベルみたいな”カランコロン”と鳴る木のドアを開けると、ちょうど夕方で仕事を終えた冒険者で小さな町の割には混んでいた。
まあ、覚悟していたが何でこんな冴えない男が…みたいな視線に出迎えられる。しかし、受付の美人のいかにもプライドの高そうなお姉さんにまで、うんさ臭い目で見られるとは思わなかった。
ちょっと声をかけただけで、いかにもな塩対応に心が折れてしまう。
多分引きこもり系の陰キャが嫌いで、”生理的に合わない”とかいう奴だろうと思う。それと比べるとアズミは天使だ。
女の子のご機嫌取りとか、もうまるっきりお手上げなので、すべてアズミに丸投げして、部屋の隅に引っ込んでいることにする。
大人しくしていたら大半の人は興味を失ったらしいが、中にはちょっと物騒な視線も残っているのが気になる。
暫くすると、アズミがカードをピラピラ振りながら俺を呼んだので、受付に行って緑色のカードを受け取る。
ギルドの紋章と周りを縁取る装飾のほかに、一番下のランク Eと俺の名前の数が刻印されている。
ギルドカード申込用紙に書きこまれている年齢が13歳になっていた。アズミが間違えるなんてことはあり得ないし、どう言う事か思わず顔色をうかがっていると、
「カズ、王都に平民が入れる魔法学校が有るんだって、でも今年の募集は終わっていて、来年になるんだって。
それで、入学できる年齢が13歳から15歳までなんだって、来年になったら入って見ない?」
はあ、そういう事か。15歳でカードを作ってしまうと来年は16歳になって魔法学校に入れなくなる、そういう事らしい。それに俺たちは現地の人間よりも幼く見えているようで、15歳よりも13ぐらいの方が通りが良さそうでもある。
「おれ、魔法に興味あるから、行ってみたい。」
そう言ったら、受付の美人なお姉さんが、
「魔法の属性を持ってるの? そんな話聞いてないけど。」
と、けげんな顔をする。
「属性って何ですか?」
と聞いたら”そんなことも知らないの?”と、呆れられてしまった。忙しいからだれか詳しい人に聞いてくれ、と言われて、まだ先の話だし、忙しい時にお姉さんを独占してしまうのは確かにまずい。でも、これだけは聞いておきたかったので、
「あの~、ちょっと周りの人の目が怖いんですが、絡まれたらどうしたらいいですか?」
「ん~、ギルドの中では暴力禁止です。だからギルドの建物の中で腕力に訴える人はいないと思います。言葉では多少うるさい事を言う人がいるかもしれませんが、でも、外の事までは知りません。」
”いよいよになったら警備の兵隊さんのところにでも逃げ込んでください。”とか言われて、なんか、絵にかいたような塩対応されてしまいました。
思わずアズミと顔を見合わせていると、トントントンと足音がして、2階から中年の男性が下りてきた。多少腹は出ているが、髪の毛は薄めの茶色、全体的に筋肉質の体系は以前はかなり鍛えていた事をうかがわせる。
「ギルマスのアルマダだ、オークとオーガの魔石を山のように持ってきた新人と言うのはお前たちか?」
「はい、そうですが・・・。俺はカズで、こちがアズミです。」
「これ、お前たちで倒したのか?」
「家族で、爺さんが元気な時に爺さんに教わりながら皆でやりました。」
ギルドマスターは頭をガシガシ掻きながら、
「はあ、面倒な奴が入ってきたな。ちょっとその辺の椅子やらテーブルやらを除けて、剣を振ってみろ。」
「何か俺に問題でもあるんですか?」
「話はあとだ、長くなるから、とにかくやって見ろ。オークやオーガを倒したなら、普段から剣の練習はしてるんだろ。それをやって見せろ。」
何だか女の子はともかく、いい年のオジサンにまで、因縁をつけられるのは気分が宜しくなかったが、相手はギルドマスターで、登録を頼む当のギルドの長が腕を見たいと言うのだから、見せるのが筋だろう。
あまり手の内は見せたくなかったので、ごく基本的な真っ向上段の切り下げ、袈裟切り、袈裟切りからの切り上げ、車切り素振り、回転素振りなどをやってみせる。
「どう見る。ビビアン。」
ギルドマスターが受け付けの美人さんに声をかける。このお嬢さんビビアンと言うらしい。
「思ったより、スムーズに振っていますね。」
「ああ、普通に振ってる。」
「普通なら、文句ないと思いますが・・・。」
ちょっとムッとしながら俺が返すと、
「普通ってのは、普通の冒険者と同じレベルで振ってるってこった。
新人にしては出来すぎだ。まあ、それは良い。
問題は顔が悪い。」
オイ!言うに事欠いて顔が悪いとはどう言い草だ! 怒れ! 怒れ俺!
だが残念なことに、怒り慣れていない俺はアワアワしてしまって、とっさに適当な言葉が出てこない。メン玉三角にして、目一杯不快の意を示すが、この程度じゃ全然抗議した事にはなりはしない。
「自分でもわかると思うが、お前はいじめられやすい顔つきをしている。
そういう残念な顔つきの奴はたいてい腕前も残念で、ちょっと思い上がった奴にいじめられて、泣いて田舎に帰って良かったねとなるんだが、」
「何でいじめられて良かったねになるんですか!」
思わず俺が声を荒げると、
「いや、魔物にいじめられて殺されるより、三下にいじめられて田舎に帰る方がまだましだろうが。
ギルドでは冒険者になりたいと言う奴に、なるなとは言えないので、大抵そう言うごたごたは見て見ない振りをするんだが、今回はちょっとやばい。
だいたい虐められキャラがかわいい女の子を連れているのが問題だ。
これじゃあ、勘違いな奴にどうぞ絡んでくれと言ってるようなもんだろが。」
まあ、その辺のところは俺にも若干自覚が有るので文句が言えない。
「でもって、お前が虐められてべそかいて、すぐ田舎に帰ってくれるなら問題がないが、それだけの腕を持ってるならそうもいかんだろう。
こと、女が絡めば男はみんな意地や見栄を張って必要以上に頑張ってしまうのに、その相手が一見チョロイ男なら、引っ込みがつかずに血の雨が降ってしまうぞ。」
ちょっとそれは話を盛りすぎだと思うが、基本的には間違っていないかもしれない、たぶん。しかし、何でこのオジサンやたらに話を盛り上げるのだろう。
「そこでだ、俺が口を利いて、暫くの間ベテランの冒険者に後見人になってもらう。どうだ、いい話だろう。」
なんだろうね、急にこのオジサン、いい人っぽい立ち位置になったけど一体どう言う積りなんだろう?
「はい、どうも有り難うございます。信じられないぐらい良い話なので戸惑いますが、何か裏でも有るんですか?」
俺も少々へそを曲げているので、幾分皮肉交じりに受け答えをする。
「お前な~、そこは素直に有難うで済ませておけよ。話しにくいな~。嫌われるぞ。
って、早い話が、ベテランに話をつけてやるから、代わりに魔石を持って来い。昔から溜め込んでいるなら、まだ有るんだろ。」
「持って来いって‥‥」
「いや、当然代金は払う。規定通りにちゃんと払うから。いま王都の方でなんかメンドクサイ事をやってて、魔石が大量に必要だそうだ。で、うちの方としては何かの時のために王都のギルドに恩を売っておきたい。まっ、そう言う事だ。」
まっ、そう言う事だそうだ。
ギルドとしては口を利くだけで魔石を手に入れて、王都のお偉いさんに恩を売れるなら、それはそれで良い事なのだろう。俺の方としても魔石は捌きたかったし、もめごとは避けたかったので、願ったり叶ったりなのだが、どうも鼻面を引っ掴まれて良いように引きずり回されているのが釈然としない。
だいたい、顔が悪いだとか、残念な顔だとか好き勝手なことを言われた分は元が取れていないような気がする。あっ、チョロイ男なんても言ったよな、覚えておくぞ、クソッ根に持ってやるから。
と、言う事で今晩は宿を紹介してもらってこの町に泊まって、明日の朝から三日ほどかけて溜め込んであるはずの魔石を取りに戻って、次の日、五日目の日にギルドでベテラン冒険者を紹介してもらう事になりました。
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