その19
「ところで、なあレディー。」
「ハイ、ハア~イ。」
なんかちょっと最近レディの返事が軽くねえ?まっ、いいけど。
「このオーガって奴だけど、この世界では食用にするのか?
見た目、鬼顔で厳つくてデカいけど、体も顔も人間なんだけど。」
「ん~、やめときましょうか?ちょっとデーターが不足しております。」
「そうだな。帰りがけにオークでも狩って帰るか。」
ちょっと不思議なことに、オークって見た目、体は人間なのに、解体してお肉にすると、完全に豚さんなのはなぜだ?顔が豚だからか?
「ところでレディー、またところでだけど。」
「はい?なんでしょう?」
「俺が全力を出せればオーガを倒すことはできたのか?全然そんな気がしないのだが。」
「ん~、かなりきわどい所でしょうね。一応できるはずですけど。
まあ、さっきまでのようなへっぴり腰ではとても無理です。」
あ~、俺の事、へっぴり腰とか言った。確かに腰は引けてたけど‥‥。アジトに戻ればメイド服なんか着るくせに、俺の事、全然ご主人様とか思ってないし、いっそボンデージにムチ持たせて、女王様の格好でもさせるか‥‥、って、本当に女王様になってしまったらマジまずい!今だって怖いのに。
レディーのゴロニャン計画とか、何とかならないかな?もう少し俺になつかせるように考えてみるか?って言っても俺の黒歴史を全部知っているレディーには通用しそうな手段がない。
ネットの通販で女性のエッチな下着を眺めてにやけたとか、アダルトビデオを鑑賞して、ハアハアしていたとか・・・わぁ!思い出したくないことを思い出してしまった。
・・・・・これはもう無理だ。もう何にも考えない事にしよう。
「ところでレディー、3回目のところでなんだけれども…ところで、レディーは何でそんなに剣術が強いんだ?俺より素早いのは分かるが、俺より力も弱いし、体力も低い。
プラマイゼロで、トータルすると、才能的には俺とそう変わらないはずだと思うのだけど。」
「そうですね、ぶっちゃけた言い方をしますと、未来が見えるから…かな。
シュミレーションのフル活用です。姿勢や、どの筋肉にどれだけの力が入って居るか、視線、手の位置、足の位置、などから相手がどれくらいのスピードで、どのような動きが可能か、瞬時に何パターンものシュミレーションを実行して、自分の勝利に結びつくように動く、相手が少しでもパターンから外れれば、瞬時にシュミレーションをやり直して、こちらが勝てるように動きを変える。
とくに和雄様相手の場合は肉体的、心理的、すべてのデーターが揃ってますから、刀を構えた瞬間に勝ち筋が見えてしまいます。」
「なにーッ、って、それはいくらなんでもズルだろ!」
「でも、人間だって、多少似たような事はできますよ。」
「そりゃーない、人間にはそんな高度なシュミレーションは無理だ。」
「もちろんシュミレーションは無理です。ですが、直感を使うのです。
適度な緊張感を持った透明な精神状態で、相手の姿勢全体を把握して直感的に相手の行動を導き出し、反射神経の速度で対応する。
これが出来れば、今の技術でも和雄様がオーガを倒すことは可能です。」
「武術の指南書によく出てくる、無念無想とか明鏡止水の境地とか言う事か?」
「ビビりな和雄様にはちょっと難しそうですが、まあ、そういう事です。」
「ビビり言うな!そんなのは剣の達人が奥義を極めて後、やっと到達する事が出来る境地だぞ!
そんなのビビりじゃなくても無理だ。」
「完全には無理でも、ある程度はできます。和雄様でもゴブリン相手ならば、刀を構えただけで、勝ち筋は見えるでしょ。
素早さがあと10%から15%上がれば、オーガ相手でもビビりが消えて対処できるようになります。」
まあねえ、プチパニックから抜け出して、逃げ回るぐらいのことはできたわけだし、ただ、オーガの振り回す金棒の風圧は今思い出してもビビってしまうけど。
「で、あとどのくらい鍛えれば、オーガに太刀打ちできる?」
「・・・・2年ですかね。」
「2年かあ。」
「お望みならば1週間で、ただし、和雄様であること止めていただく事に成りますけど。ついでに、人間やめて頂ければいくらでも強くなれます。」
「・・・・さすがにそいつは…‥。」
しかし、何だな、どうして俺はこんなさえない引きこもりキャラに執着するのだろう?
「和雄様、設定された条件が厳しすぎるのですよ。肉体改造はともかく、人前ではうかつに魔法も使えないとなると、早い話が、筋金入りの引きこもりの陰キャラを少なくとも人並程度にしなければ人里には降りられませんから。」
俺の事を”筋金入りの引きこもり 陰キャラ”とか言うか!クソッ!レディーの奴だんだん口が悪くなってきたような気がする。まあ、自覚はあるけど。遠慮がなさすぎだろ。
「しかし、魔法を使うのはそれほどやばいのか?」
「攻撃的な魔法を使う人が、意外と少ないようです。カラスの報告によれば、通常の攻撃魔法を使うだけである程度目立ってしまうようです。」
「はあ、それは痛し痒しって所だよなあ。」
「それに我々の使う魔法はかなり特殊ですから。特に先ほど使った”ロックオン”など、はたして魔法と呼んでいいかどうか?
タブレットの動力源と電波の代わりに魔力を使っている事以外はテクノロジーも対象認識のアルゴリズムも地球の技術そのものです。魔法と言うより、タブレットそのものテクノロジーで動いています。」
「まあ、”ロックオン”の場合は第三者が見ても何をやっているか判らないから良いが、下手に前世の科学的知識を垂れ流すと、この世界に与える影響が大きすぎるからなあ。」
「カラスやネズミでは十分な情報が集められませんし、我々が直接情報を集めるには、我々が魔術なしでもそこそこ強くなければなりません。でも、全身鎧が良い仕事してくれてるので、これでもずっと仕事がはかどっているんですけどね。」
「あと2年か。」
「ハイ、そのぐらいは必要ですね。」
と、言う訳で帰りがけに出会ったオークは可愛そうに、うっぷん晴らしに”秘剣巻き打返し”で瞬殺されて、魔石を抜かれて、お肉にされて、どうも本日はお気の毒さまでした、と言う事に成りました。
ついでに付け加えておくと、”サンド”の魔法は、以前”アリ地獄”として使っていた魔法で、ちょっとトリガーワードとして使いにくかったので、よりスピーディーな”サンド”に名前を変たのでありますよ。で、オーガをどうやって埋めたかと言うと、オーガの右足の先をロックオンしておいて、右足が着地した瞬間にサンドを使って右足だけ地面に埋め込んだと言う事ですです。
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