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その18

冬の森の空気は冷たい。当たり前であるが、その当たり前がしんしんと身に滲みる。

いつもどおり準備体操をして、刀を振り、体力づくりのための運動をする。特に最近は一瞬で飛び込み、後ろに下がるためのスッテップと足さばき、影抜きのための体をうねらせるような体さばきを意識して行う。

一息つくと体は完全に暖まっている。不思議なのはクールダウンのつもりでゆっくりした剣の型を行うが、体に巡らせる呼吸のせいか、魔力のせいか、かえって体が熱くなることである。少々極端な言い方をすれば、吸う息、吐く息に合わせてふいごの様に、熱と言うか、炎うの様なものが体の中を廻っているような気さえする。

多分、これは良い事なのだろう・・・良い事だと思いたい。

いつも通りカラスに先導されて森の中行き、小さな広場のような所で待ち伏せをかける。山を下りてくるオーガがこの辺を通る予定なのである。

だいぶ前から藪を分けるような音とともに大木の様なオーガの足だけは見えていた。しかし、木の葉に隠れて顔が一向に見えてこない。

別に隠れる必要もないので広場の隅に立っていたが、広場の向こうに足が見えたと思ったら、こちらが想像したよりずっと高い木立の茂みの中から顔が突き出てきた。

でかい!思っていたよりもずっとでかい!

3mと言う数字は頭に入っていたが、体感は10メートルぐらいに思えてしまう。刀が首まで全然届かない。手や足や胴体でさえ、ダメージを与えられる気がしない、どころか、刀の間合いにさえ入れそうもない。あえて言えば、出会い頭のバルタン星人、遥かいにしえの昭和の円谷映画に出てきそうなキャラである。

「グオオオオ!!!!」

いきなり吠え声をあげ、俺を見つけて舌なめずりをしている。冬ごもりの前にちょうど手ごろな獲物が見つかったと喜んでいるに違いない。

”ドドドド”と胸をたたいてドラミングで威嚇をすると、ドスンドスン地響きを立てながらこちらに駆け寄ってくる。

足を縺れさせながら慌てて大木の陰に逃げ込むと、

”ドカーン!”

オーガが振り回した金棒が木の幹にぶち当たって50センチほど有った幹を半壊させ、大木が倒れそうになってくの字に曲がってしまった。

”50センチじゃだめだ!1メートルないと防げない。”

転げ回るようにして大木から大木に逃げ回る。もうほとんど、8割がたパニックである。残りの2割、まだパニクッていない心に必死にしがみついて、

”落ち着け!”、”落ち着け!”とやるが、あんまり落ち着いていたらあの金棒でぶん殴られる。

"どうする?”、”どうする?俺!”

”今はとにかく逃げ回る。”、”うん、そして相手の動きを見る。”、”うん。”

方針が決まったら、気分がだいぶ楽になってきた。

だいたい出かける前の予想では俺の方が強い。まあ、正確に言えば刀を使った場合、一定時間内であれば、俺の方が優位に立ち回れるはず・・・全然そんな気がしないけど…である。

ほんらい今日のミッションとしては、刀ではどこまで立ち回れるか?であって、魔法を使えば俺の方が圧倒的に優位なはずなのである・・・たぶん。

本当なら、今日は”秘剣巻き打返し”を大々的にお披露目する予定だったのだ。だが、相手が金棒では”巻き打返し”は無理である。

と言う事で、逃げ回ってオーガの身体能力のデーターを集める。あとでバーチャル画像を作って、戦い方の練習をするためである。

データーを集めるのはレディーがやるので、俺がやるのはただ逃げ回るだけ。結局やっていることはパニクッていた時と変わらないのである。

で、結局分かったオーガの特徴としては、体が大きく歩幅が広いため、直線で走った時の速度がメチャ早い。ただ、俺よりは敏捷さに欠けるので広場のふちの様に、適度に生えている大木を利用してジグザグに走ると、そこそこ余裕が出てくる。

まっ、”鬼さんこちら!”ぐらいはできそうである。

色々逃げ回って、オーガの様子を見ているうちにだいぶ私の気分も落ち着いてきた。これなら次回合った時にはパニックにならなくて済みそうである。レディーの方も十分データーが揃ったっぽいのでいよいよこちらが攻めるターンである。

木立の間を抜けて、オーガを広場に誘い出す。伝家の宝刀?魔法で勝負である。

「ロックオン!サンド!」

”ズボッ!!”

右足を腿のあたりまで土の中に潜り込ませて、四つん這いになったオーガが足を引き抜こうと焦っているが、あそこまでしっかり埋まってしまうと、抜き出せるわけがない。

取りあえず深呼吸して心を落ち着かせる。

ゆっくり静かに吸った息をゆっくり長く強く吐いていく。

今まで爪楊枝のように頼りなく感じられた刀が、しっかりとした名刀に、魔力をまとって、うっすらと輝いているようにも見える。

オーガが本当に動けないか慎重に見極めながら近づいて、

「ターッ!!!」

大上段に振りかぶった刀を、俺の胴体より太い首筋に振り下ろす。割とすんなり両断出来て、我ながらちょっと驚いたが、前世日本の江戸時代の試し切りの書付には、罪人の死体を何段にも重ねて切断して、二つ胴、三つ胴とか書かれているので、オーガの首一つぐらい切れても不思議ではないのかもしれない。

まあ、これでちゃんと型を決めて刃筋を立てれば、動きながらでもオーガの手首足首ぐらいは切れるはず。ちょっと安心した。

                     *


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