その16
今日は朝からレディーと”巻き”の練習をしている。対オーガ用、対燕返しの練習である。
いろいろ考えた。
上から振って来る剣ならば、影抜きや足さばきで剣先を交わした後、刀で剣を上から抑え込みつつ相手のつかもとに滑らせていけば、相手の剣先は地面をたたくだろう。
地面を打った剣を足で踏みつけるなり、蹴飛ばすなりすればこちらの間合いに飛び込むだけの時間は稼げるのではないか?
レディーにシュミレーションをしてもらうと、相手が人間ならば可能であるが、オーガ相手では無理があるとのこと。
少しでも反応する時間を与えると、体力差が大きいので刀を押し返されるだけでこちらの体勢を崩されてしまって、攻撃に出られない。
いっそのこと、相手の剣を蹴っ飛ばしたりせずに、上から抑え込みつつ一気に飛び込んですれ違いざまに篭手でも切りつけた方が良いそうで、肝となるのは抑え込みに行った刀に反応する時間を与えない事だそうだ。
まあ、何とかなりそうな気もするが、一つ気になるのがこれでは”燕返し”の横殴りバージョンである”虎切”には対応できないことだ。
首あたりを狙ってくれば、姿勢を低くしてもぐりこむ手も考えられるが、胴体あたりを狙われるとこれ以上低い姿勢にはなれない。
飛び上がって避けると後ろに下がりながら切り返されると絶好の的になってしまう。
いっそオーガの足元に氷を張ってスライディングですり抜けざま向こうずねに切りつけてやろうかと思ったが、どうせ魔術を使うなら魔術で倒した方が早くね?
あ~、こりゃダメだ、ドツボにはまってしまったと悲観しかけたけど、よく考えたら、これ、対人用なら結構面白いんじゃね?
何と言ったて私と来た日には筋金入りのいじめられっ子キャラで、これで人里に降りて行ったら、たぶん・・・いや絶対ガキ大将みたいなやつが絡んでくる。
絡まれたからと言って、うかつな所をぶっ叩くと、木刀だって殺してしまう事がある。
向こうずねだったら最悪骨折で済むし、向こうずねは別名弁慶さんの泣き所と言われるぐらいの急所なので、ちょい強めにひっぱたいてやれば、足を抱えてひいひい泣きながら転げまわることになる。
これって・・・結構…何と言うか楽しそう。何か下界に降りるのが待ちどうしくなってきた。これ、レディーに頼んでタブレットに仕込んでもらおう。
まあ、ちょっと話がそれてしまったが、いろいろ苦慮した結果、巻きが使えるかもでシュミレートしてもらうと、”燕返し”でも“虎切”でも対応できるとのお墨付きがもらえましたので、晴れて訓練する事に成りました。
”巻き”は剣道などではごく基本的な技である。
正眼どうし、あるいは相手が正眼に構えていた場合、打ち込んでいくときに相手の剣先が邪魔になってそのままでは入っていけない。
刀の場合は相手の刀の峰に沿って滑らせながら、刀のそりを使って相手の剣筋をそらせると言う技もあるが、竹刀には反りがないので単純に横にはじく、あるいは巻き込むようにはじくことになる。
この巻き込むようにはじく事を”巻き”と言い、決まると相手の竹刀が吹っ飛んだりする。まあ、真剣やまして大剣などでは吹っ飛びはしないと思うが。
ただ、通常”巻き”は剣先を合わせた状態で行うが、我々がやろうとしているのは打ちかかって来る剣に対して”巻き”をかけること。当然すぐに出来る訳ではなくて、気分転換で技をかけられる方はどんな具合か、レディーわざをかけてもらうことにする。
「なあ、レディー!」
「ん、なあに。」
「やられる方はどんな感じになるのか知りたい。技、かけてみてくれるか?」
「オーケー。」
と言う事で、最初は普通の”燕返し”、こちらから仕掛ける。
相手が後ろに下がりたくなるぎりぎりの間合いで袈裟切りに切り下げ、その刀の下に体を潜り込ませるようにして踏み込みざま逆袈裟に切り上げる。
これは前世のユーチューブで見つけた殺陣師がやっていた復元技である。
佐々木小次郎が使った”燕返し”と同じであるか裏付けは取っていないが、袈裟切り、逆袈裟をほとんど一挙動と言っていい速度でやってのけたので、見ていて、しびれてしまって、習得することにした。
互いに八相に構える。
「ハッー!!」
気合もろとも切り下げると”ダンッ!!”と剣筋をたたき落される。危うく木刀を手放しそうになりながら体制を崩されてつんのめると、喉にレディーの木刀が触っていた。
体を入れ替えて切り返すどころか、叩かれた刀に引きずられて体制を崩す。これならオークは問題ないし、オーガにも多分通用すると思う。
2度、3度とボコられ、”虎切”も試して、それもボコられ、それでも”俺が考えだした必殺剣はすごい…”と、みずからを慰めた。
レディーにしごかれてヘロヘロになって、今はゆっくり型の動きをして、イメージトレーニング兼、クールダウンをしている。相手の袈裟懸けをこちらも袈裟懸けで切り結ぶと見せつつ、手首を返して上から相手の剣を叩き、剣に触れた瞬間さらに一気に手首を返して、相手の剣の進行方向に弾き飛ばす。同時に相手の剣の反動をもらって小手を返して切り返す。
問題は足さばきである。足を止めたままこれをやれば、当然相手の剣が当たる。レディーが相手ならば、前足にかけていた重心を後ろ脚に移せば間合いは外せる。しかし、オーガが相手ならばもう50センチ後ろに下がらなけば相手の剣が当たってしまう。
切り返しからの踏み込みにはさらに1メートル多く飛び込む必要が有る。一連の動きをいかに滑らかに素早く行うか、とうぜん考えながらやっては無理である。動きを体にしみこまた反射神経の速度が必要で有る。
それと、考えたくない事であるが、まだまだ身体能力を上げる必要が有る。もうこの世界に転生してから半年以上たつ。しかし相変わらずの引きこもりである。
本当に俺って、少しは強くなったのだろうか?
*




