一話 そんな出会い、ある?
ここからようやく一話目です! これからどんどん面白い展開や、主人公やヒロインたちのちょっぴり変わった学生生活が始まりますので、是非ともこの作品をよろしくお願いします!
美咲浜高校二年C組の教室は、今日もわいわいと賑やかだ。
それもそのはず、五日後はうちの高校の文化祭がある。だからみんな張り切って文化祭の出し物を決めたり、作るための計画を各班で行ったりと、もうこの多忙な時期の静かな時間といえば文化祭準備以外の授業ぐらいだ。っていっても、授業ももう明日から本格的に準備期間に入ってなくなるけど。
んまぁ、それほどみんな、この学校行事が待ち遠しいのだろう。
ちなみに俺は、文化祭なんて興味ない⋯⋯って、よくラノベの主人公が何に対しても関心が無い俺かっけぇみたいなこと言うけど、俺は微塵も思わない。むしろ文化祭出し物決めめちゃんこ楽しみすぎて、今日誰よりも早く登校しちゃった☆まである。
⋯⋯でも、そんなに楽しみにしていたのに、なぜ今俺はこうして、教室内は班ごとに話し合っている中、窓際の席で一人、頬杖つきながら窓の外を眺めているのだろうか。出し物はついさっきクラス投票で決まった。文化祭定番のメイドカフェだ。そして一応俺も、クラスの一員である以上、文化祭準備の話し合いとそのための準備作業を行う義務がある。
のに、えっ、なんで? なんで仲間に入れてくれないの? おーい、俺こっちにいますけど? 見えてる? 俺いま透明人間とかになってる?
なんて、俺の一つ隣の席を囲んで話し合う班のみんなに向け、声を大にして(心の中で)叫ぶが、まぁ聞こえてなさそうだ。
実に不思議だ。うーん、不思議だ。結構この教室内の生徒と比べても楽しみにしてる方なんだけどなぁ⋯⋯。
そんで、ほぼ無心で外を眺めること数分が経ち。
「あのぉ、野地くん、だっけ? 今回の文化祭準備、あたしたちの班ほとんど雑用なんだけどさ⋯⋯」
同じ学年、同じ教室、同じ班の俺の名前をうろ覚えなのは、まぁいいとして。
「はぁい」
「その⋯⋯さ、あんま人数いらないんだよね。そのっ、あたしたちの班の仕事」
「へぇえ⋯⋯」
⋯⋯つまり、は。
「だからさ、あたしたち他の班のお手伝いしに行くから、野地くん、あたしたちの班の仕事一人で引き受けてくれないかな⋯⋯?」
まぁ、そんなところじゃないかと思いましたよ。はい。
というか、班の仕事を一人ってなんだよ。ただの個人仕事じゃん。
とはいえ、こんな名前もそこまで知らない俺に彼女は頼むと頭を下げてくれたんだ、
ここで断る理由がない。
だから俺は、嫌な顔せず、くるっと振り返り、彼女含め班のみんなに満遍の笑みを向けながら。
「まかせな」
と、かっこつかないセリフを口にして。
「わぁ! ありがとう!」
「おぉ、サンキューなっ! えっとぉ、はじ!」
うん、少し違う。
「ありがとうございます! 何かあったらいつでも言ってくださいっ! 私、すぐ駆けつけますのでっ! まじさん!」
うん、君も少し違う。
「そゆことで、はいこれ。そこに何を持ってくればいいとか書いてあるからさ。じゃっ、あたしたちあっちの班の話、聞きにいくね! ありがとう、なじさんっ!」
うん、君はさっきまで言えてたじゃん。急に忘れんなよ。
そんなこんなで、雑用を押し付けられた俺だが。
同じ班だった三人は、他の班の文化祭準備の話を聞きにどこぞと消え去り、またぼんやり外を眺めるのも退屈だと思って、渡された紙に目を通す。
はぁ、こんなことする予定じゃなかったのにな。俺の文化祭。
⋯⋯というか、文化祭準備明日からじゃん。今日じゃないんかい。
* * *
「それじゃあ、今日から三日間は文化祭のための準備期間だ。くれぐれも怪我なく、クラス一丸となって取り組むように。以上」
翌日、朝のホームルームが終わると、一斉に生徒たちは席を立ち上がって、買い出しに行く者や教室内の掃除、飾りつけ、机椅子の配置にカフェのメニュー表作りなどと、各々の仕事を始めて。
そんな、みんな忙しそうにしている間、この俺はなにをするのかというと⋯⋯。
「えぇっと、まずはメニュー表を書くための白紙を職員室から⋯⋯と」
昨日同じ班の子に渡された準備表の紙に目を通し、なんでこんな地味なことしなくちゃいけないんだなどと不満のこもった独り言を呟きながら教室を出て、とりあえず職員室に向かうこと数分⋯⋯。
職員室前の廊下は他とは違い、まだ静けさに包まれていた。
校内の熱気とした生徒達の賑わう声はうっすらとしか聞こえてこず、意外にもその居心地の良さに思わず立ち止まる。
すると、背後からコツコツと廊下を歩く足音が徐々に近づいてくるのが聞こえてきて。
思わずふっと振り返ってみると、そこには——。
「⋯⋯あっ、昨日の」
「⋯⋯⋯⋯?」
振り返った先にいたのは、昨日会ったクマのキーホルダーを落とした女性で。
けど、俺が思わず反射的に声を出しても、彼女はなんだかほへっと知らん顔していて。
「っお、覚えてます? 昨日会った者なんですけど⋯⋯?」
「⋯⋯んーっと、えへへ。ごめん、誰だっけ?」
「——っえ」
その、彼女の思わぬ第一声に、興味のない女性の名前を一日もしないでド忘れする流石の俺でも、驚きのあまり全身が硬直し。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯俺のこと、覚えてませんか⋯⋯?」
でもどうにか、諦めまいとグゥっと腹の底から声を発して聞いてみるけど。
「うん。全く」
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!!」
それでも、俺の最後の希望の一言は、たった数文字程度で儚く散り去ってしまって。
俺はその場で膝から崩れ落ち、頭を抱えて渾身の叫びをかます。
それで、自分で制御できないほどに、気持ちが高ぶり始めてしまい。
「えっ、えっ、えっ、っお、覚えてませんか? 俺ですよ俺っ! ほら、一昨日学校の帰り道、橋の上、あなた、キーホルダー落としたでしょっ⁉︎ それ拾ったのオレオレ」
「んーっと、そんなことあったっけ?」
「いやいやいやいやめちゃくちゃありましたけどぉぉお⁉︎ というか、なんであの日の出来事をさ、たった二日で忘れちゃうんですかぁぁぁあ⁉︎」
「いやぁ〜こう見えて私、そんなに記憶力なくてね⋯⋯っへへ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯あっ、この人多分馬鹿だ」
思わず、素直な気持ちが口から漏れ出てしまった。
が、そんな俺の言葉に、彼女はただただむすっと頬を膨らませるだけで。
「ちょっとぉ、初対面の人に唐突に馬鹿ってのは失礼でしょぉ」
「いや、二日前に私物を拾ってくれた人の顔、忘れてる方もなかなかですけどね⋯⋯」
「それは⋯⋯ほんとうに私知らないんだから、ノーカウントっ」
「えぇ⋯⋯理不尽すぎる⋯⋯」
そこで俺は、この人に口では⋯⋯といるか、理屈? 的な意味でも敵わないと気づき、ゆっくりとその場から立ち上がって。
「もう、会った会ってないはいいとして。お名前、なんて言うんですか?」
流れで言ってみたものの、内心かなり緊張しているのがすぐにわかるけど。
でも、少しだけふてくされてるのか、声音が若干荒々しい。
「私? なんで?」
「いや、その。なんと言うかですね、一応何かの縁かなぁっと思って⋯⋯」
「縁?」
なんて、思ってもないことを平気で口にする自分が、ちょっぴり痛いというか、恥ずかしいというか⋯⋯。
しかし、彼女はそんなこと気にしている素振りはなく。
「そっか。うん、私二年A組の中溝、中溝愛香」
そして、意外にもすんなりと答えてくれて。
「それで、君は?」
「あぁ。野地達也です。二年C組の⋯⋯」
「⋯⋯っ」
って、あれ? 同じ学年?
と、その違和感を感じたのは、俺だけじゃなくて。
「えっ⁉︎ 野地くん、私と同じ二年だったの? うっそ、身長⋯⋯っ」
「ちょいちょいちょいちょいちょいまてまてまて」
「っああぁ、うんうん、ごめんなんでもない」
「ぁ⋯⋯はい」
とまぁ、流石の彼女も結構慌ててることだし、そこは聞こえなかったと言うことにしといて。
まさか同じ学年だったとは、これまた偶然だ。
てっきり身長も俺と同じか少し高いぐらいだし、顔つきも大人の女性って感じだし⋯⋯まぁ、あと、は、そのっ、むっ、むねもね⋯⋯。
おっといけないいけないと、無理やり思考を遮断して、ふと気がつく。
「えっ、というか俺、敬語使う必要なかったってこと?」
その、俺の独り言かどうか曖昧な言葉に、中溝がんーっと顎に人差し指を添えながらふむふむ確かに確かにと頷く。
「そうだね、同じ学年ってことは先輩後輩って関係じゃなくて、同級生だからね」
「そう、だよね⋯⋯。いやぁ、俺てっきり中溝が先輩かと思って敬語使ってた」
やれやれと言う感じで俺がそう言うと、中溝がぽっと半分口を開いて、少し驚いた表情を滲ませていて。
「ん、どうした中溝? 俺の顔なんか付いてる?」
「⋯⋯っあぁ、いや、違う。なんでもない」
「そう」
「というか野地くん、なんでここにいるの? 職員室に用でもあるの?」
「ああ、そうだった。文化祭準備でちょっと用あって。そっちは?」
「私も同じ、なんか色々と頼まれちゃってねぇ。でも先に他行くとこある」
めんどくさそうにはぁっとため息を吐く中溝に、俺も強く共感ざる得ない。
わかる、わかるぞその気持ち。痛いほど。
「そう。それじゃ、そゆことで。俺職員室行ってくるわ」
と、きりの良いところで話を締め括り。
「うん、わかった。またね、野地くん」
「⋯⋯おぅ」
中溝が俺に向けてそう名前を呼ぶのに、また、理由もなくドキドキしちゃって。
「あっ、そうだ。野地くんさ、今度の文化祭一緒に回ろうよ」
去り際、彼女がそんな軽そうに俺を誘ってきて。余計に、鼓動を早くさせる。
で、彼女のその誘いに、なんと答えるかを数秒ほど考えたのち。
「⋯⋯⋯⋯うん。おけ」
「ほんとっ⁉︎ うわぁ〜ありがとう! じゃあ、明日らへんまた会って当日どこ回るとか話そっ!」
「⋯⋯うっす」
「んふふ、それじゃあねっ!」
そんな、俺なんかを誘って、にこりと嬉しそうに去っていく彼女の背中を眺めながら。
でも、なんだかんだいって、少し馬鹿っぽそうだけど、やっぱり良い人だなと。
そんなことを思い、その場に残った余韻をしばらく感じてから、俺は職員室のドアをノックする。
次話以降についてですが、一日に一話、あるいは二日に一話と投稿したいと思っているのですが、投稿日が時々空いてしまう場合もあるので、そこはご了承ください。なるべく一日に一本を目安に執筆していきたいと思います。