3LDKのお姫様 4
そんなある日の事。
「シルキィ、ど、ど、ど、どうしようぅ!」
学校から帰ってきたエクレアは一目散に二階に駆け上がると、座布団の上でのんびりと毛づくろいをしていたシルキィの体を掴んで一心不乱に揺すった。
「みゃみゃみゃ!?」
白昼夢から戻されたシルキィは何事かと驚いて目を白黒させた。
「エクレア、一旦落ち着くみゃ。落ち着かないと何を言ってるかわからないみゃ。いったい何があったみゃ?」
「そ、そうよね。」
エクレアは深呼吸を2,3回して心を落ち着かせると、なるべく怒られないように、かわいらしく言ってみた。
「指輪なくしちゃったみたい。てへっ。」
「みゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃ!?」
シルキィは自慢の髭をピンとまっすぐ伸ばして、奇妙な踊りを披露する。それはまるで、タコというか、イカというか。
「もう。わたしには落ち着いて、っていたのに。シルキィこそ落ち着いてよ。」
「てへっ、じゃないみゃ!エクレアは事の重大さが分かってないみゃ!」
「それくらいわかってるわよ。」
ふてくされて、エクレアはそっぽを向く。
「ねぇ、シルキィ。指輪を失くしたら……どうなるの?」
「どうなるのって、普通は弁償みゃ?」
「弁償……?」
宝石だけじゃない、魔法の指輪の価値。
(いくらぐらい弁償しなければいけないのだろう。パパやママに相談してみる?そしたら、この家を売ってでも弁償してくれるかもしれない。でも、私たちの住む家がなくなるかも……。)
考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。そうエクレアが落ち込んでいると、シルキィが優しく声をかけてくれた。
「弁償は言い過ぎたみゃ。貰ったものだし、せいぜい、婚約破棄、ぐらいみゃ?」
「婚約破棄?」
せっかく掴んだと思った夢、幸せ、希望。それがしゃぼん玉のようにするりと手のひらから消えていく。エクレアはそんな感覚に襲われて、手のひらをじっと見た。
「破談なんて……そんなの嫌ぁ!」
だいたい、一回も付き合ってないのに破談とか、前代未聞、末代までの恥。
「大体、なくす方が悪いんだみゃ。いつも不用意に持ち歩いてるからみゃ。なんで大事に保管しておかなかったみゃ?」
「だってぇ、いつも身近に王子様を感じていたいじゃない?」
体をくねくねさせエクレアは惚気けてみるが、シルキィの冷ややかな目線に我に返る。
「って、そんな場合じゃない!そんなことも無くなるんだ、ああ、どうしよう!」
なすすべもなく、エクレアは頭を抱え込んだ。
「でも、方法がないことはないみゃ?」
「シルキィ、それは本当?」
エクレアの表情が明るくなる。そんな様子を見て、シルキィは呆れたように言い放った。
「何言ってるミャ。こういう時こそ魔法を使えばいいんじゃないかミャ?」
「魔法……?そうよ!魔法!ありがとシルキィ!」
「みゃみゃみゃ!?」
エクレアは頬ずりをして、嫌がるシルキィに感謝の意を示した。そして、机の一番下の引き出しにある昔よく使ってた道具箱の中から魔法の杖を引っ張りだして、思考を巡らせること、2度、3度。
「……どうやって魔法つかうんだっけ?」
「みゃみゃみゃぁ。」
シルキィは三段アイスが上から順に溶けるように、綺麗に膝から崩れ落ちた。
「まったく、魔法すら忘れてるなんてみゃ。それでも魔法の国の人間かみゃ?それも女王候補とか、聞いてあきれるみゃ。」
「だってぇ。学校の勉強忙しかったも~ん。」
じと~と見てくる、まるで『勉強なんかしてない癖に』と言いたげなシルキィの瞳に対してエクレアは頬を膨らました。そして、本棚から呪文を唱えるための書物を取り出そうとするが、特にそういったものは見当たらない。
(ええと、魔法関係の書物は、他の魔法道具と同じで見つからないよう地下室においているんだっけ?)