表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深窓の令嬢に、令状を。  作者: いちご少々
1 深窓の令嬢の真相
1/4

3LDKのお姫様

 白を基調とした、荘厳な造りのザッハ王宮の。

 その屋上にある、青く輝く天空薔薇園で。


 少年と少女の二人は見つめ合っていました。


 少年の名はトルテ。この国の王子様。

 少女の名前はエクレア。この国のお姫様……になる予定の主人公。


 トルテ王子はエクレアの手を取ると、左手の薬指に指輪をはめました。

 

「恐らく、僕は君が現れるのを待ち続けていたんだ。これは運命の人、だと。」


 王子の淡い碧眼が月の光を受けて、エクレアを包み込みます。


「私も……幾千層も王子様のことをお慕い申しておりました。」

 

 エクレアも、この日のために何度も何度も練習した、とっておきのセリフを、一言一句丁寧に発します。


 王子がそのままエクレアの手を引き寄せると、二人の距離はより縮みました。ほのかに香る、甘い薔薇の香りがエクレアの鼻孔をくすぐります。

 

 王子のクリーム色をした髪の毛がエクレアの額に架かると、エクレアは一瞬、びくっと体を揺らしました。


「大丈夫。怖がらなくていいんだよ。」


 髪の毛が目に入るのを恐れたエクレアでしたが、王子はそう解釈してエクレアのほほを撫でました。


「さあ、誓いの口づけを。」


 二人の顔が近づきます。エクレアはぎゅっと目をつぶりました。そして。


「エクレア……」

「トルテ様……」


 王子はエクレアの、エクレアは王子の気持ちを受け止めようと、お互いに両手を広げて……。


★★★


「……めるみゃ!」


 外野から、雑音が聞こえる。こんなところにはいないはずの生物の声。


(うっさいなぁ、いいところなんだから邪魔しないで。)


 声は無視。エクレアは両手を広げ、口を3の字に突き出した。


(トルテ様!いつでも来ていいのよ。準備はばっちりなの!さあ、はやく!)


「ん~❤」

「やめるみゃ!ぼくみゃ!」


 目を開けると、そこにいるのは王子ではなく、黒ウサギ。目前に迫る獣の顔に、エクレアは思わずおののいた。


「ギャー、シルキィ!何やってんの!」

「それはこっちのセリフみゃ!」


 エクレアは、人語を話すその小動物を勢いよく突き飛ばすと、慌てて口を拭いた。


「まったく、口の中が毛玉まみれになる所だったじゃないの!」

「僕のせいじゃないみゃ!」


 怒ったウサギを横目に、あたりを見回す。


 見慣れた勉強机、見慣れた本棚、見慣れた天井。エクレアは自分が王宮にいるのではなく、自分の部屋であることを認識した。


「あれ?トルテ王子は?ひょっとして夢?」


 エクレアは、一瞬落ち込みかけたものの、しかし、左手に燦然と輝く魔法真珠の指輪がはめられているのを見つけた。

 

(夢、じゃない!)


 エクレアがにへらぁ、と若干気持ち悪く笑うのをシルキィは生暖かく見守る。


 王宮に呼ばれた、あの日。間違いなく、エクレアは妃候補の内の一人に選ばれたのだ。思い出すだけで、エクレアの気持ちが高揚する。


「指輪も、あのキスも夢じゃなかったのね!」

「キス?あの儀式にそんなものはなかったみゃ。捏造してはいけないみゃ。エクレアのスケベ。」

「うるさ~い!」


 顔を真っ赤にしたエクレアは、手元にあった枕でシルキィの頭を叩いた。


「しかし、何とか無事に婚約の儀を執り行えてよかったみゃ。王子様を騙し通せてよかったみゃ。」

「騙し通す?なぁ~に失礼なこと言ってるわけ?」

「本当のことみゃ。」


 エクレアはすました顔で会話するウサギのほっぺをつんつんした。


 この、みゃ~みゃ~うるさい黒うさぎは、使い魔のシルキィ。小生意気にも白いタキシードを着こなす彼(……彼女?)はその胸ポケットから花柄の白いハンカチを出し汗を拭った。


「大体ねぇ、ウサギだったらぴょんとか言ったらどうなの?」

「ウサギはそんな鳴き方はしないみゃ。」

「じゃあどんな鳴きかたをするのよ。」

「知らないみゃ。勝手に調べてみるみゃ。」


 ウサギが無責任な態度をとったので、エクレアは本棚から、少し埃を被ったどうぶつ図鑑を引っ張り出した。そして、埃を手で払うと、ページをめくってウサギの章の記述を読み下げる。


「なになに、ウサギは声帯を持たない?声帯を持ってないのにどうしてしゃべってるの?」

「知らないにゃ。魔法世界には現実世界の(ことわり)はきかないんだみゃ。」


 シルキィは反論するが、エクレアの耳には入らない。


「えっと、声帯を持たないのでぶ~ぶ~鼻を鳴らすんだって。へぇ。」


 エクレアの口元がにんまりと歪む。実に邪悪な笑顔である。


「みゃあ、なんて気取ったこと言わないで言ってないでブーブー言いなさいよ!」

「いやだみゃ!使い魔の沽券に関わるみゃ!」

「ウサギの癖に、ずいぶん難しい言葉使ってるわねぇ?こけんって何よ!」


 二人(一人と一匹?)がそんな風に騒いでると、一階からのんびりした声が聞こえてくる。


「エクレア~?起きたの~?早くしたないと朝ごはん片づけちゃうわよ~?」

「ママ!ちょっと待て!今行く!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ