1幕 ストームガール1.5 漆黒の亡霊(9)
「放せ! 早く一成のところに行かないと――」
「その必要は無いわ。今すぐそっちに行くからね!」
脚を掴んでいた鬼を振りほどき飛び立とうとした時、聞き覚えのある野太い声が響く。
声のした方へと視線を向けるとそこには、先端に鋏の付いた二対のアームを背中から生やした巨大な装甲服を身に纏った男の姿。
そして、アームの先端に四肢を掴まれて持ち上げられている、ボロボロになったクロガネの姿だった。
「一成!」
「おっと、お前の相手は我々オニ!」
その様子を見てすぐさま一成の元に駆け寄ろうとするが、足首は鬼に掴まれたまま。
鬼を振り払っても他の鬼や機械人形に阻まれてしまい、思うように近付けない。
「ぐあっ!? よ、よくもやったな!」
そうしている間にも、クロガネが地面に叩きつけられてしまい、一成が衝撃で呻き声を上げる。
「ストームガール、大人しくそこで見ていらっしゃい。貴女のお友達がアテクシにヤられるのをね!」
……聞き覚えのある声だと思っていたが、やはり間違いない。
あの男はかつてアタシと一成によって倒された、ノワールガイスト幹部の一人、ジェネラルG!
ボロボロの状態で崖下へと飛び降りたから死んだものと思っていたけど。
「アタシが相手してやる! 逃げずにかかってこい!」
ジェネラルGが生きていたことには驚きだが、今重要なのはそこではない。
一成からアタシにヘイトを向けるべく、迫る鬼たちの相手をしながらもジェネラルGを挑発する。
「その程度の挑発に乗ると思われてるなんて、アテクシも嘗められたものね。寧ろそっちからアテクシの方に来てみなさいな」
ジェネラルGはアタシの誘いを無視し、一成へと近付いていく。
「……勝ったと思って油断してれば、嘗められるのも当たり前だろ!」
地面に倒れこんでいた一成が上体を起こすと、クロガネの掌をジェネラルGに向けて光弾を放つ……が、放たれた光弾は背中から生えたアームによって弾かれる。
「あら、貴方達二人には苦汁を飲まされたのよ? 油断なんてするわけないじゃなーい!」
「う、うわっ!? 腕がもげた!?」
ジェネラルGは一成の攻撃を防いだ勢いのまま、アームでクロガネの両腕を掴んで地面に押さえ込むと、そのままクロガネの右腕を力任せに引きちぎる。
「このマシーンクラブⅡ(ツヴァイ)のパワーは、貴方のそれを上回っている! アテクシには勝てないのよ!」
クロガネの装甲目掛け、アームが次々に振り下ろされる。
いかに硬い装甲であっても、あの調子で攻撃を受け続けていればじきに破壊されてしまうだろう。
「一成を放せ!」
周囲に纏わりつく鬼を吹き飛ばし、一成を助けるべくジェネラルGを攻撃するべく飛びかかろうとする。
「邪魔はさせん! 貴様らの相手はこの私だ!」
しかし、アタシの行く手を阻むように、ダースオーガが立ち塞がる。
「そこをどけ!」
目の前の敵を排除すべく、アタシは風の刃をダースオーガに向け放った。
「こいつでどうだ!」
同時に、鳥羽さんもどこからか取り出した小刀を構えて突撃する。
アタシと鳥羽さんによる同時攻撃、これを捌ききるのは相当な実力が無ければ難しいだろう。
……しかし、アタシの見立ては外れてしまった。
ダースオーガは、アタシの攻撃を光剣で受け流すと、もう一本の光剣を取り出し鳥羽さんの小刀を切断する。
「フハハハ! 私を倒さぬ限り、仲間を助ける事はかなわんぞ!」
アタシ達がダースオーガに手間取っている間にも、ジェネラルGの攻撃によってクロガネの装甲は破壊されていく。
「これでとどめよ!」
ジェネラルGは高らかに叫ぶと、アームの内一本を大きく振り上げる。
……一刻の猶予も無いし、強引にでも突破する!
「待て! ストームガール!」
鳥羽さんの制止を振り切り、ジェネラルGの元へと飛翔する。
「自から死地に飛び込んでくるとは、馬鹿な奴め!」
ダースオーガが此方に向けて光剣を振るおうとしているのが視界に映るが、気にしている余裕などない。
「死になさい!」
一成を助けるべく全力を出すが、ジェネラルGの方が早かった。
クロガネ目掛けてアームが振り下ろされる瞬間を、ただ目の当たりにするしかない。
そして、ダースオーガによってアタシの身体は切断されてしまうだろう。
「……え?」
……しかし、真っ二つになったのはアタシではなく一成に振り下ろされたアーム。
突如として一成とジェネラルGの間に割り込んだ人物が、アームを斬りはらったのだ。
「ぬぅ!? あの男、また私の邪魔をするというのか!」
更に此方へ斬りかかっていたダースオーガにも棒状の何かが投げつけられた事で動きが止まり、アタシも命拾いする。
「貴方が何者かは聞かないわ。アテクシの邪魔をするという事は、敵に決まって――ちょっと! 無視!?」
ジェネラルGが目の前に現れた桃色のジャージを身に纏った男性に語りかけるが、男性は聞く耳無しといった様子で、すぐさまダースオーガ目掛けて駆け出した。
周囲の鬼達や機械人形が男性の邪魔をするようにその行く手を阻むが、男性は妨害をものともせず、携えた刀で薙ぎ払って前へと進む。
突然現れて戦いだす男性に戸惑い、おかげで今が一成を助けるというチャンスという事に気付くのに僅かな時間を要してしまった。
我に返りジェネラルGへ攻撃を仕掛けようとしたアタシは、目撃する。
「熱いわ!? 何なの! 何でスーツがいきなり燃えるのよ!?」
身に纏った装甲服の一部が炎上して焦燥するジェネラルGと、その様子を呆然と眺める一成。
「うおぉぉぉ!」
そして、真紅のマフラーを靡かせて雄叫びを上げながらジェネラルGへと殴りかかる、赤と黒のスーツを身に纏う人物の姿を。
……最近どこかで見たような気がするんだけど、どこで見たんだっけ?
「貴様との因縁に、今日こそケリをつけてくれる! 覚悟!」
ダースオーガの叫びにそちらへ視線を向けてみれば、桃色ジャージの男性がダースオーガへと斬りかかっている。
ダースオーガは二本の光剣で男性の振るう刀を捌いていくが、その様子に先程までの余裕は見当たらない。
「……随分と遅かったな。おい、お前の刀だ! 受けとれ!」
鳥羽さんがそう叫ぶと、先程アタシを助ける為に投げられたであろう刀を男性目掛けて投げつける。
男性は飛来する抜き身の刀に視線を向けずにその柄を掴み取ると、二本の刀でダースオーガを斬りつけ吹き飛ばす。
「拙者、推参! この吉備桃太郎、初手からラストスパートだ!」
……男性が冗談みたいな名乗りを助ける高らかに上げると、鳥羽さんがその隣に駆け寄り声をかける。
「少し遅かったが、良いタイミングだ。助かったぞ、桃太郎」
「遅いと言われても、最初はそっちが迎えに来る手筈だったのを拙者の方から来てやったんだ。文句を言われる筋合いは無いと思うぞ、雉鳴」
二人の様子を見て、アタシは何となく事情を察する。
恐らく、あの桃太郎という冗談みたいな名前の人が、今日の為に鳥羽さんが呼んだ助っ人なのだろう。
……ところで、雉鳴って誰?
今回の話を読んでいただきありがとうございます。
ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。
次回投稿は前日にTwitterで告知予定です。




