1幕 ストームガール1.5 漆黒の亡霊(8)
「……周りがどうかしたの?」
「まさか気付いてないとはな。貴様は私によってここまで追い詰められていたということ! 今の貴様は、まさに袋のネズミと言う訳だな!」
ちょっとすっとぼけてみればダースオーガは勝ち誇った声色で、懇切丁寧に今の状況を説明してくれる。
「流石ダースオーガ様オニ!」
「オレ達には到底出来ない事をやってのけるオニ!」
周囲の鬼達は、自分達の勝利を確信したかのように喜び、ダースオーガを褒め称える。
……まあ、この状況なら浮かれてしまうのも仕方ない。
普通の人相手なら間違いなく終わりだろう……そう、普通の相手なら。
アタシの実力位調べているだろうになんで勝ち誇る事ができるのか、全くもって理解できない。
「そこに痺れ――!?」
「勝ったと勘違いしてるみたいだけど、ここからが――えっ?」
油断しきっている鬼達に攻撃を仕掛けようとした瞬間、ダースオーガを褒め称えていた鬼の一匹が突如として痙攣する。
何が起きたのかわからないアタシは、攻撃を止めて様子を伺う。
そうしてる間にも鬼達は痺れながらその場に倒れ始め、機械人形も次々に煙を上げて崩れ落ちていった。
「な、何が起きてるオニ!?」
「またあの女の超能力オニ!? 怖いオニ!」
突如として倒れる仲間に残った鬼達が慌てふためき、しまいには妙な勘違いまでする始末。
……アタシは何もしていないんだけどな。
「ええい! 落ち着け、お前達! 落ち着けと言って――こら! 逃げるな!」
ダースオーガは周囲の鬼達を落ち着かせようとするが、混乱が収まるどころか聞く耳を持たず逃げ出してしまう鬼まで現れる。
……よく観察してみれば、倒れた鬼や機械人形の肩の辺りに小さな円盤のような物が貼り付いていた。
ひょっとして、あれが原因なの?
「この役立たずどもめ――むっ!? そこだっ!」
悪態を吐こうとしていたダースオーガだが、何かに気付いたのか突如としてアタシの頭上、建物の屋上に腕を突き出す。
すると、左腕の皮膚が剥がれ落ちて機械の腕が現れ、掌に空いた穴から光弾が放たれた。
……義手だったのか。
「ほう? 気付くとは流石にやるじゃないか、ダースオーガ」
放たれた光線をかわすために屋上から降りてきた人影……鳥羽さんがアタシの隣に着地する。
今日はウイングスーツを身に付けていないようだ。
「何かと思ったら、鳥羽さんの仕業だったんだ。一体何をしたの?」
アタシの問いかけに、鳥羽さんは懐から先程見つけた物と同じ、小さな円盤を取り出す。
「何だか人聞きが悪い言い方だが、まあいい。こいつはシビレ盤だ。相手に向けて投げると、勝手に貼り付いて麻痺させる事ができる。こういう風にな!」
そう言うと鳥羽さんは、シビレ盤を放り投げる。
ダースオーガ目掛けて一直線に飛んでいくシビレ盤だが、ダースオーガは光剣を振るって斬り捨てた。
「なる程、小癪な真似をしてくれる。ところで貴様、どこかで会った事が――!?」
「そういえば、直接会った事は無かったな……まあ、どうでもいい事だがな。それよりもシビレ盤だが、敵を簡単に無力化できるのは便利だけど、使い捨てなのが難点だ。まあ、敵に利用される心配をする必要が無いとも言えるが」
鳥羽さんはアタシにシビレ盤の説明をしながら、ダースオーガに追加でシビレ盤を投げつける。
一度攻撃を防いだ事で油断していたダースオーガは、迫るシビレ盤に気付く事なく当たってしまう。
「色々と便利な道具を持ってるんだね。……それにしても遅いよ。アタシと一成だけで全部倒すところだったよ」
「すまない。急な襲撃で準備に手間取ったし、あちこちに連絡もしないといけなかったんだ。……それはそうと、二人で全部倒す? その割に奴等に追い詰められてなかったか? それと、奴は強敵だぞ」
鳥羽さんは謝罪をしつつも、アタシの言葉に疑問を呈する。
……アタシがまだ子供だから心配するのはわかるけど、仲間なんだからもう少し信用してくれてもいいと思う。
「あれくらいの包囲なら、一人で何とか――」
「――ふんっ! ……はぁ、はぁ。こ、この程度で私を倒せると思ったか!」
鬼たちを一切動けなくしたシビレ盤を、ダースオーガは義手で無理矢理ひっぺがし、握りつぶしてしまう。
……この男は、まだほんの少ししか実力をみせていないのかも。
「……成る程、確かにあのタフさは少し厄介かも。次のシビレ盤は?」
「鬼ヶ島の元首魁だからな、それ相応の実力は備えているという事だ。後、シビレ盤は品切れ。調子に乗って使いすぎた。……まあ、二人でかかれば何とかなるだろう。それじゃあ、お先に失礼!」
鳥羽さんはそう言うとダースオーガ目掛けて駆け出し、殴りかかる。
ダースオーガは反撃に移るべく手に持った光剣を振るおうとするが、鳥羽さんの素早い動きを前に思うようにならず防戦一方。
ダースオーガが義手を鳥羽さんに向けて突きだすも、鳥羽さんは距離をとって義手から放たれた光弾を躱す。
「……思い出したぞ! 貴様、奴と一緒に鬼ヶ島に乗り込んできた仲間の一人か!」
「ようやく思い出したか。というか、ちゃんと把握していたんだな」
どうやら鳥羽さんとどこかで以前会っていたような事を思い出したらしいダースオーガが叫び、怒りを露にする。
「鬼ども! 仲間の仇討ちだ! 私と共に奴等を斬り捨てるぞ!」
先程の混乱で逃げ出さずに残った鬼達、そして機械人形がダースオーガの指示に従い、各々(おのおの)棍棒を振り上げ、腕を変形させながら突撃してくる。
「ストームガール、鬼達の相手を頼む。俺はダースオーガを仕留める!」
鳥羽さんはアタシに向けてそう言うと駆け出し、突撃してくる鬼達を飛び越えダースオーガの元へと向かう。
……まだ返事をしていなかったのだけど、まあいいか。
近寄ってきた鬼と機械人形目掛けて突風を放って蹴散らし、それでもなおアタシの元へと迫ってきた鬼を蹴り飛ばす。
『楓花! そっちはどうなってる?』
鬼や機械人形を次々に屠っていると、耳に取り付けられたインカムから、一成の声が響く。
『こっちは鳥羽さんと合流して、敵の幹部と交戦中! そっちは大丈夫?」
『あんまり大丈夫じゃない! さっきから大量の鬼がこっちに来てて――あっ!? アイツ! 何で――』
……迂闊だったな。
多分、さっき逃げ出した鬼達が一成のいる方に向かってしまったのだろう。
「は、離せオニ! うわっ!?」
「鳥羽さん! 一成の方が苦戦してるみたい! JDFの人達を応援に向かわせて!」
手近にいた鬼を掴んで機械人形に投げつけながら、一成に応援を送ってもらうように鳥羽さんに頼み込む。
鳥羽さんが駆けつけたという事は、JDFの準備も完了したはず。
「無理だ!」
しかし、アタシの頼みが聞き入れられる事は無かった。
「どうして!?」
「他の奴等はまだ準備中だ! 俺だけでも急いで駆けつけた! ここは俺が引き受けるから、クロガネの元に向かえ!」
ダースオーガを相手にしていて鳥羽さんも余裕が無いのか、此方を振り向く事なく返事をする。
……仕方ない、ここは鳥羽さんに任せて応援に向かおう。
「わかった! ここはお願い――きゃあっ!?」
「逃がすと思ったか? そんな訳ないだろう!」
一成の元へと向かうべく飛び立とうとするが、ダースオーガの放った光弾が目の前を掠め、思わず悲鳴を上げてしまう。
「余所見をしてる暇が――くっ!?」
アタシに注目しているダースオーガの背後に迫っていた鳥羽さんがナイフのような物を片手に携え斬りつけようとするが、振り向きざまの蹴りを受け、吹き飛ばされてしまう。
「鳥羽さん!」
「俺は大丈夫だ! 気にせず彼の元に行け!」
どうやら攻撃を受け止める事はできていたらしい。
鳥羽さんは大丈夫だと判断して再び一成の元へと飛び立とうとするが、それは叶う事なく同時に足首に痛みを感じた。
足元に視線を向けると、一匹の鬼がアタシの足首を掴み、飛び立つのを妨害していた。




