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1幕 ストームガール1.5 漆黒の亡霊(4)

「鶴鬼様! 危険なのでお逃げくださいオニ!」


「そう考えているならもっと頑張りなさいツル。貴方たちがふがいないから、私が出張る必要があるツル」


 ……いまの発言からして、彼女が彼らの親玉か?

 鶴鬼と呼ばれたその女性は、鬼の意見を聞き入れる事なく、アタシの方へと近づいてくる。


「あなたがここの責任者?」


「ええ、その通り。私は鬼ヶ島薬品研究部の長にして、鬼ヶ島四天王の一人、鶴鬼で――ツルゥ!?」


 聞いていない事までベラベラと喋り始めた鶴鬼目掛け、空気弾を放って不意打ちを仕掛けようとしたが後一歩というところで躱されてしまう。


「外しちゃったか。次は当て――」


「まだ話している途中よ! 随分と不躾な子ツル!」


 鶴鬼は憤慨してアタシの事を責め立てるが、そんなことを言われても困ってしまう。


「そうは言うけどさ、そもそも悪党の言葉なんて聞く必要があると思ってるの? どうして悪事を働いているかの身の上話位ならまだしも、ただの自己紹介なんて無視するに決まってるよ」


「言わせておけば小娘が知ったような口を……。お前たち! この小娘をわからせてやりなさいツル!」


 反論を放棄し、実力行使でアタシを排除しようと鬼達に指示を飛ばす鶴鬼。

 ……しかし、周囲の鬼達はオロオロとするばかりで、此方に攻撃を仕掛けてくる気配はない。


「つ、鶴鬼さま。差し出がましいのですが、オレ達ではストームガール相手に足止めにもならないと――」


「ええい! ごちゃごちゃと文句を垂れている暇があったら体を動かしなさいツル! ……当然、そのための力は与えてあげるツル!」


 鶴鬼はそう叫ぶと、懐から布のような何かを取り出して宙にばらまく。

 ばらまかれたそれは鬼達に降り注ぎ、彼らの体をその正体である着物で包み込んだ。


「さあ! 私が織った着物を身にまとった事で貴方たちの戦闘力はプラシーボ効果によって倍以上に跳ね上がったツル! その力でストームガールを倒してしまいなさいツル!」


「なんだかよくわからないけど、確かに力が沸き上がってくるような気がするオニ! これならやれるオニ!」


 ……プラシーボ効果って確か、実際には全く効果がない偽薬を効果のある薬だと思って服用した際に現れる心理的なもので、少なくとも肉体的には何も変化はない筈だ。


「それって本当に効果がある――うわっ!? くっ……こいつら、さっきより動きが良くなってる」


 大して変わってないのではいうアタシの予想に反し、鬼達は先程までよりも明らかに強くなっていた。

 風を放ってけん制しようとしても、それをものともせずに突っ込んでくる鬼達の攻撃を何とか躱す。

 ……精神的なものとはいえ、これはなかなか侮れないな。


「ツールツルツルツル! ストームガールよ、我らに歯向かった事を後悔するツル!」


「確かに、アタシが予想してたよりもすこーし強いね。仕方ないから、手加減はやめることにするよ!」


 高らかに笑う鶴鬼へそう言い放つと、周囲を取り囲み攻撃を仕掛けてくる鬼達の一角を目掛けて突風を放つ。


「オニオニ! いまのオレ達には効かない――」


 先程の攻撃でアタシの攻撃は効かないと慢心していた鬼達を吹き飛ばして黙らせ、竜巻を放って宙に浮かせた後で地面に叩きつける。

 調子に乗っていた周囲の鬼達の表情が強張り、慌てて迎撃に移ろうとする……が、もう遅い。

 鬼達の態勢が整う前に彼らの元へ肉薄すると、両腕を振るって風を起こし、鬼達を宙へと打ち上げ天井へ吹き飛ばした。


「ぐえっ! は、離すオニ!」


「さあ、あなたも離れて見てないで、こっちに来なよ!」


 宙に浮いたまま手足をジタバタと動かす事しかできない鬼達を、離れて様子を伺っていた鶴鬼目掛けて放り投げる。


「か、可愛らしい見た目と違ってなんて野蛮な女ツル!」


「確かにアタシは野蛮かもしれないけど、貴女たちには言われたくないよ!」


 放り投げた鬼達は鶴鬼に躱されてしまうが、わずかに隙が生じたのを見逃さない。

 鶴鬼へと肉薄し、アタシにイチャモンをつける彼女目掛けて蹴りを放つ。

 近距離戦は不利と感じたのか、鶴鬼は体を反らしてアタシの攻撃を躱し、そのまま後方へと飛び退いてアタシから距離をとろうとした。

 その判断は間違ってないけど、そうやすやすと逃がす訳がない。


「痛ッ! 小娘が好き勝手に――」


 追撃に放った空気弾が鶴鬼に直撃し、痛みに怯む彼女を目掛けて再度肉薄すると、風を纏った脚で蹴り飛ばす。


「まだだよ!」


 当然これくらいでは終わらない。

 アタシはさらなる追撃を仕掛けるべく、風を操り自身の体を浮かせ、吹き飛ばされて床に転がる鶴鬼目掛けて飛び掛かる。


「これでとどめだ!」

 アタシは渦巻く風を両腕に纏わせ、鶴鬼を倒しきるべく何とか立ち上がったばかりの彼女へと腕を振り下ろしながら叫ぶ。

 ……しかし、とどめを刺すことはかなわなかった。


「そうはいかないツル! 秘技・鶴の舞ツル!」


 鶴鬼はそう叫ぶと、奇妙な舞のような動きでアタシの腕を華麗に躱しながら飛び退く。


「逃がす訳――!?」


 当然アタシは追撃を仕掛けようとするが突如として脚に重さを感じてしまい、バランスを崩してその場に倒れてしまう


「……アンド、織物操作ツル!!」


「な、なにこれ!?」


 足元に目を向けた瞬間、思わず驚愕の声を上げてしまう。

 ……先程倒した筈の鬼が、アタシの足首を掴んで邪魔していたのだ。

 しかし、アタシが驚いたのはそんな事ではない。

 どう見ても意識を失っているというのに、鬼が動いていることに驚いてしまったのだ。


「この、離せ!」


 すぐさまわれに返ったアタシは鬼を蹴り飛ばして立ち上がろうとするが、別の鬼達にすかさず押さえ込まれてしまい、身動きをとれなくされてしまう。


「ツルツルツル。アタシは自分が織った布を自在に操る事ができるツル。もちろん、身にまとった者の体もツル」


 何がもちろんなのかはわからないが、これはなかなか厄介だ。

 早いところ脱出してしまわなくては。


「離せって、言ってるでしょ!」


 アタシは叫びながら足掻くが、手足を押さえ込まれているせいで録に抵抗する事ができない。

 そんなアタシの様子を眺めながら、鶴鬼は高らかに笑い始める。


「ツールツルツルツル! 無様な格好だツル! あなたもその鬼達と同じように、私の操り人形に――」


「これでどうだ!」


 ……余裕のある様子でアタシを見下ろしていた鶴鬼だったが、体中に風を纏わせる事で鬼達を吹き飛ばしたアタシを目の当たりにして絶句してしまう。


「な、なんて化け物――」


 鶴鬼はアタシを見ながらそう呟くが、そのぼやきも突如として響いたガラスの割れる音によってかきけされた。

今回の話を読んでいただきありがとうございます。

ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。

次回投稿は前日にTwitterで告知予定です。

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