1幕 ストームガール1.5 漆黒の亡霊(3)
数日後、郊外にある廃工場……いや、ホログラムで廃工場に偽装した、超能力薬の製造工場をアタシは上空から見下ろしていた。
工場から少し離れた場所では、JDFの隊員たちと共に一成が襲撃の準備をしているのが、小さくだが視界に映る。
『ストームガール、そろそろホログラムジャマーを起動させる。準備はいいか?』
一成たちが準備している様子を眺めていると、耳元の小型インカムから鳥羽さんの声が届く。
「うん、アタシはいつでも大丈夫。ところで、鳥羽さんはどこから侵入するの?」
一成たちが陽動として正面から襲撃を仕掛けている間に、アタシと鳥羽さんが超能力薬を生産している組織の親玉を叩くという今回の作戦。
しかし、同じ役割である鳥羽さんの姿は無く、この場にいるのはアタシ一人。
作戦上仕方ないのはわかるけど、巻き込まないようにどこにいるかは知っておきたい。
『後で合流するから、気にしなくていい。それじゃあ、カウントを始める。三……二……一……作戦開始!』
鳥羽さんの合図と同時に眼下の工場の外観に一瞬ノイズが生じると、比較的新しめの研究施設然とした施設がその姿を現した。
一成やJDFの隊員が突撃するのを見届け、アタシは自身の役割を果たす為に急降下する。
……作戦遂行の上で問題なのが、責任者の正確な居場所は把握できていない事だ。
故に同じ役割の鳥羽さんはこの場にはおらず、最初はアタシと二手に分かれて敵の親玉を探し、見つけ次第連絡をとる事になっている。
さて、闇雲に探して時間をとられてしまっては、逃がしてしまうかもしれない。
そこでアタシは自身の経験に則り、一番大きな建物の最上階へと降り立つ。
こういう組織の親玉は、何故だか高い所が好きなものなのだ。
「……鍵は開いてないか」
建物の中へ入る為に扉を開けようとするが、戸締りはしっかりしているらしく扉は開かない。
……開いてないのなら、仕方ないね。
アタシは突風で扉を破壊して内部に侵入し、聞き耳をたてて屋内の様子を窺う。
「しょ、正面から侵入者が沢山来てるオニ! 応援を頼むオニ!」
「わかったオニ! 今向かうオニ!」
……相当に慌ただしい様子で、建物内の人員は結構派手に侵入したアタシに気付く様子はない。
それにしても事前に聞いて知ってはいたけど、戦闘員が本当にオニオニ言ってるとは。
まあ、そんなことはどうでもいい。
近くに敵がいるのなら、彼等の親玉の居場所を聞き出す絶好のチャンス。
それに、アタシが敵を引き付ければ一成たちの方も少しは楽になるだろう。
アタシは男たち……鬼と呼称されている戦闘員たちの前に飛び出すと、風を放ち何匹か吹き飛ばす。
「な、何が起きたオニ!?」
「あ、あの女の仕業オニ!」
仲間がやられて動揺する残った鬼たちだが、一匹の鬼がアタシの事に気付き、指差してきた。
「おい女! 貴様は何者だオニ!」
「アタシはストームガール! とりあえずあなたたちのボスの場所まで案内してもらおうか!」
アタシは鬼の問いかけに堂々と答え、単刀直入に目的を伝える。
「オーニオニオニ! 案内しろと言われて、素直に従う奴がいると――」
何やら喚き散らす鬼を無視し、その隣にいた鬼へと一気に飛びかかって蹴り飛ばし、壁に叩きつけ戦闘不能にする。
「今のはお願いじゃなくて命令。もう一度言わせてもらうね。早くボスがいる場所まで案内してもらってもいいかな? ……あれ?」
隣にいた同僚が一瞬にして蹴り飛ばされた事で硬直した鬼に、案内するよう命令するが返事はない。
「き、気絶してる!? 威嚇だけで!?」
驚いた事に、立ったまま目を見開いて気絶しているではないか。
何度か揺さぶってみるが、起きる気配はまるで無い。
まいったな、これじゃあこの鬼からボスの居場所を聞き出せない。
「……まあいいや。多分この近くにいるでしょ」
先程も述べた通り、この手の組織の人間は大体高い所が好きなものだ。
最上階を探せば、情報の一つ位は出てくるだろう。
「侵入者発見オニ!」
「下でのどさくさに紛れて、ここまで侵入されたオニ!? 何としてもここで食い止めるオニ!」
とりあえず気絶している鬼に止めを刺そうとした瞬間、先程倒した奴等とは別の鬼にアタシの存在が気付かれてしまい、逃がしまいと周囲を取り囲まれてしまう。
「ぞろぞろと沢山……無駄にやられるだけなのに」
……数だけみれば鬼たちの圧倒的優位だけど、例え何人いてもアタシには敵わない。
「し、所詮相手は一人! 強がってるだけオニ!」
大して動揺もせず余裕のある態度を崩さないアタシに、鬼たちは逆に動揺させられながらも、勇気を振り絞るように大声を上げ、手に持った金棒を変形させる。
あれは確か、事前情報にあった金棒から変形する型の光線銃……エナジーライフルか。
「アタシにその類の武器は、通用しないよ!」
鬼たちが発砲すると同時に、放たれる光弾目掛けて相殺するように空気弾を放ち、動揺する鬼たちへと間髪いれずに空気の刃で切り付ける。
手に持った金棒だけでなく、身体ごと切り裂かれた鬼たちは悲鳴すら上げずに崩れ落ちていった。
……やりすぎだと思うかもしれないが、彼等は組織によって作られた戦闘用の人造人間。
人格があるように見える言動も、よく観察すればどの鬼も同じ性格をしているのがわかる。
仮に殺さなかったとしても、彼等は長く生きられないように作られている……らしい。
作戦前のミーティングで鳥羽さんがそう言っていた。
詳細なデータと一緒に説明された以上、嘘でないのは明らかだけど、それでも後味が悪くないかといえば、嘘になる。
しかし、鬼たちを放っておけば彼等の引き起こす事件によって多くの人が犠牲になってしまうだろう。
それだけは避けなければいけない。
「侵入者を発見したオニ! 応援を頼むオニ!」
……どうやら感傷的になっている余裕はないようだ。
次々と現れ、どれだけの数がいるかもわからない鬼たち。
アタシは兎も角、一成たちは少しマズいかもしれない。
「あら、随分と可愛らしい侵入者だことツル」
アタシをとり囲む鬼たちに向かい合った瞬間、包囲の外側から鬼とは別の、女性の声が辺りに響く。
ざわつく鬼たちが見ている方向にアタシも視線を向けるとそこには、白い着物を身に纏っている美人の女性が佇んでいた。
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