3幕 ブレイズライダー2.5 ファースト・チェンジ(5)
「……そういう大事な事は、もっと早く言ってほしかったかな」
「悪いな。俺もそんなに余裕がある訳じゃ無かったんだ」
軽い口調で文句を言ってくるストームガール。
本気で言っている訳ではないようだが、弁解しつつ一応は謝罪しておく。
「今の奇襲は成功したと思ったんですけどね。本当、貴方は何度私の邪魔をすれば気が済むんですか?」
俺達から少し離れた場所に降り立ったヴァッサは笑顔を浮かべいるが、その言葉の裏には俺に対する苛立ちをひしひしと感じとる。
「お前が悪事を働くっていうのなら、何度でも邪魔をしてやるさ。それが、君にしてあげられる唯一の事だからな」
「そうですか。それなら、邪魔者は排除しないといけませんね」
言葉を交わし、お互いに引く気は一切無いという事を確認すると、先に動いたのはヴァッサだった。
彼女は懐から幾つか何かを取り出して自身の周りに放り投げ、その何かが地面に当たると大きくなってその真の姿を現す。
「……機械人形か」
圧縮装置を搭載していたであろう機械人形は元の大きさに戻ると、ヴァッサを守るように彼女の周囲を取り囲む。
「質量圧縮装置か。こんな使われ方をするんだったら、考えなければよかったな」
多田博士は憤慨し、ヴァッサに忌々し気に呟く。
……質量圧縮装置。
物の大きさを縮小させ、質量も減らしてしまう、俺も自身のバイクに搭載してお世話になっている発明。
まさか、多田博士が発明したものだったとは。
「文ちゃん、気持ちはわかるけどブレイズライダーと一緒に逃げて。彼らの狙いは文ちゃんだから」
ストームガールは多田博士を制すると、俺と博士に逃げるように促す。
彼女の言う通り、ヴァッサ達の狙いは多田博士だ。
博士を安全な場所まで逃がすというストームガールの主張は、間違っていない。
……ただ一点を除いては。
「ストームガール、多田博士と一緒に逃げるのは俺じゃなくて、あんただ」
「何を言ってるの? 君はさっきから戦い続けて満身創痍でしょ?」
確かにスーツこそ新しくなってはいるが、ストームガールの言う通り先程からの連戦で俺は疲弊してしまっている。
普段ならストームガールの言うことに従うのだが、今はそうも言っていられない。
「ヴァッサは俺の獲物だ。それに、以前にも相手した事があるし、残るのは俺が適任。それに、多田博士を確実に安全な場所まで送り届ける必要がある。俺じゃ途中で追い付かれるかもしれないけど、ストームガールならその心配も無い」
……ここから安全な場所まで逃走しようとするなら、俺は自前のバイクを使うだろう。
しかし地上を走る分、敵に追い付かれる可能性が高い。
その点、空を飛べるストームガールなら殆どの敵を躱し、俺よりも早く安全な場所まで逃げられる。
「……そ、そうは言うけど、さっきは滅茶苦茶にやられてたじゃないか。そんな状態で本当に戦えるのか?」
俺の実力を疑問視しているのか、多田博士が不安そうな顔をして問いかけてくる。
「さっきはこのスーツが無かったからな。まさかとは思うが、自分が作った物に自信が無いのか?」
多田博士の性格も大体わかってきた。
俺がこう言えば、彼女はきっと反論する筈。
「ボクの作ったスーツは最高だし、そんな事はない! ボクが心配してるのは――」
「スーツに自信があるのならそれでいい。後は、俺を信じて任せてくれ。ストームガールもそれで構わないだろ?」
思った通り、俺の言葉に反論してくる。
多田博士の台詞を遮りながらも彼女の言葉に乗っかり、この場を任せるよう二人に問いかける。
「わかった。なるべく早く戻ってくるから、無茶しないように」
ストームガールは頷いてから気を付けるように忠告してくると、多田博士を抱える。
「ブレイズライダー、ブレイズドライバーは後で一度返してくれよ! 今回の戦闘データを基にアップデートしないといけないから、なるべく傷を付けないように!」
多田博士は自分の発明品に傷を付けられるのが嫌なのか、強い口調で命令してくる。
「……ああ、善処するよ。わかったら、早く逃げろ
返事をして逃げるように促すと、ストームガールは飛翔する。
俺はヴァッサや機械人形によるストームガールへの攻撃に備えるが、予想に反してヴァッサ達は動かない。
「どうした? お前達の目的が達成できないけどいいのか?」
「彼女達を追いかけようとしても、どうせ貴方が邪魔するのでしょう? それなら、一人でも邪魔者を消しておいた方が後々の為になります」
多田博士を捕まえるのは困難と判断し、俺を倒す方向に目的を切り替えたらしい。
どうせならさっさと逃げてくれれば良かったのだが、文句を言ったところでどうにかなるわけでもない。
「俺を消す? もう忘れてるみたいだけど、一度俺に負けた奴の台詞じゃないな」
「勿論、覚えているに決まってるじゃないですか。しかし、あの日貴方に負けたこの場所で、復讐できるなんて運命だと思いませんか?」
……ヴァッサに言われて始めて気付いたが、確かにここは彼女を倒した場所と同じ広場。
偶然にしては出来すぎているな。
「そんな運命、お断りだね。だから、あの日の再現をしてやろうじゃないか!」
俺は自身とヴァッサ、機械人形を取り囲むように炎を放ち、互いの逃げ道を塞ぐ。
こうすれば今も遠巻きに此方の様子を伺っている野次馬を戦いに巻き込む事も無いだろう。
これで戦うための舞台は整ったし、後はヴァッサと機械人形を倒して決着をつけるだけだ!
……と、意気込んではみたものの、疲労が蓄積した現状では長期戦だと間違いなく押し負ける。
素早くケリを付けるべく、ヴァッサへと炎を放つが、機械人形達が彼女を守るように取り囲んで俺の攻撃を阻む。
炎に巻かれてなお立ち続ける機械人形達は腕を持ち上げ俺に向けると、腕先が展開して銃口が露出して火を噴いた。
迫りくる光弾を防ぐべく、機械人形達に近づきながら火球を撃ち出し相殺。
次の銃撃よりも早く近づくと、炎を纏わせた拳で一機の動力源を貫き機能停止させる。
「どうした! 復讐するっていうからどんなもんかと思ったけど、以前と変わらないじゃないか!」
ヴァッサを引きずり出すべく挑発するように叫ぶが、逆に彼女は残りの機械人形達と一緒に後退して距離をとってしまう。
「以前と変わらない? そんな事はありません。だって、仲間が一緒ですから」
そう言うとヴァッサは手をかざすと、水流を放ち攻撃を仕掛けてくる。
俺は即座に飛び退き、ヴァッサの攻撃を躱して見せる。
「仲間? ……意思を持たない機械が仲間だなんて、悲しい――ぐあっ!?」
冷静さを欠かせるべく煽り散らそうとするも、背後から衝撃を受け、焼けつくような痛みに呻き声を上げてしまい、地面を転がる。
「さっきぶりね、ブレイズライダー。アテクシの光線の味は、いかがだったかしら?」
「フフフ、今度は貴様の息の根を止めてくれよう」
痛みを堪えながら起き上がって振り返ると炎の壁が割れており、そこから壁の中に侵入するジェネラルGとダースオーガ、そしてその背後に控える何匹もの鬼を視界に捉える。
……さっきの攻撃は俺を狙っていたんじゃなくて、包囲を破壊する為のものだったか。
「誰かと思えば、さっき尻尾を巻いて逃げ出した敗北者達じゃないか。随分と不愉快な仲間達だな。……あんなのとつるんでいるなんて、随分と落ちぶれたんじゃないのか?」
「勝利の為の戦略的な撤退と言ってちょうだい。最初からアテクシと並ぶ、ノワールガイストもう一人のお姫様と合流する為に動いていたのよ」
……お、お姫様?
「不愉快なのには少しだけ同意しますけど、そんな強がりを言ってる場合じゃないですよね? 状況をちゃんと理解していますか?」
「年端もいかない癖に凝り固まった思想で世直しを企んでいる女の子に、お姫様を自称する筋肉だるまといい歳こいた中二病患者に囲まれてるな。……後、有象無象の木偶の坊もいるか。それで? 許してくださいとでも言えば見逃してくれるのか?」
……ヴァッサにジェネラルG、ダースオーガと三人の強敵に囲まれたうえ、鬼や機械人形までいるときた。
とりあえず挑発しておいたけど、絶体絶命だな。
「アテクシ達を散々コケにしておいて、今更謝って無事で帰れると思ってないわよね?」
「なに、命だけは助けてやろう。貴様を痛め付け、我らに忠誠を――」
世迷い言を吐き始めたジェネラルG目掛け火を放ち、その身体を炎で包み黙らせる。
「……貴方なら、そうしますよね」
「悪いな。聞いといてなんだけど、お前らに謝る事なんて一生無い! さあ、かかってこいよ! 俺は逃げも隠れもしないぞ!」
俺は挑発するように叫ぶと、近くにいた鬼へと飛びかかって殴り飛ばす。
許しを乞う気なんて、最初から無かった訳だ。
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