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3幕 ブレイズライダー2.5 ファースト・チェンジ(4)

 俺の記憶が正しければ、多田博士と会うのは今日で二度目。

 知り合いですらない彼女が、俺の知らないところで勝手にデータを解析し、俺専用のスーツやベルトを作っていたという事実もそうだし、さっきから謎にテンションが高いのも怖すぎる。

 ……とはいえ、仮に彼女が俺のストーカーだったとして、怯えている場合ではない。

 俺はこの状況を打破すべく、ヴァッサに向けて炎を放つ。


「この程度の火で私を止められるとでも――」


「ハハハ! いいぞ! その調子で燃やし尽くせ――お、おい!? いきなり何をする!?」


「……喋らない方が良い。舌を噛むかもしれないから歯を喰いしばってろ」


 ヴァッサの周りに炎を壁を作り出して視界を塞ぐと、相変わらず床に倒れ込んだままの多田博士を抱き上げ、出口の扉目指して走り出した。


「くっ……に、逃げるつもり!? それでもヒーローですか!」


「悪いな! 俺がここに来たのはお前を倒す為じゃなくて、多田博士を助ける為なんだよ! 逃げるが勝ちってやつだ!」


 炎の壁の一面を消火して俺が逃げだすのを目撃したヴァッサが責めるように叫ぶが、彼女の相手をしている暇はないので即座に炎の壁を修復して視界をもう一度塞ぐ。

 ここでヴァッサを倒せないのは惜しいが、いくらスーツが新しくなったからといって中身の俺が消耗している以上は負けてしまう可能性も大いにある。

 そうなれば俺も多田博士も捕まってしまうからそれだけは避けなくてはならない。

 ……そして、多田博士を抱え上げた瞬間、彼女の身体が僅かに震えている事に気付いてしまった。

 先程から以上なまでにハイテンションだったのは、身に降りかかる恐怖をまぎらわせる為、彼女なりに必死になっていたんだろう。

 きっとそれは、先程俺が彼女から感じたものよりも遥かに強いものだっただろう。

 その事を知ってしまった以上、自身にまつわる因縁なんかよりも、彼女を安全な場所まで届けるのを優先するべきだ。

 出口扉を蹴破って外の景色を見下ろせば、遥か遠くに見える地上に思わず足がすくみそうになる。

 ……だけど、今の俺にそんな事で立ち止まっている暇はない。


「ぶ、ブレイズライダー? 何をしようとしている? ボク、嫌な予感がするんだが」


 多田博士が俺を見上げながら、不安そうに問いかけてくる。


「喋るなっていっただろ。……安心しろ。君は必ず助けるから、もう一度俺を信じてしっかり掴まってろ」


 俺の言葉に多田博士は、黙って俺の首に手を回してしがみつく。


「ま、待ちなさい! そう簡単に逃がすとでも――」


 炎の壁による包囲から抜け出し、呼び止めるヴァッサを無視して出口から飛び降りる。

 落下のスピードが早くなっていくに伴い、風切り音が耳にこびりつくなかで点火装置を起動させ、靴裏からジェット噴射を放つ。

 これで空を飛び、安全な場所まで一直線!

 ……と、そんなことができれば良かったが、生憎そうもいかない。

 俺のジェット噴射は跳躍の補助に使うもので、空を飛ぶなんてまったく想定していない。

 仮にこのスーツが空を飛べるように作ってあったとしても、俺自身が練習をしてないし、そもそも消耗した状態では地球からの重力を振り切る事は出来ないだろう。

 それでも落下の勢いを殺す事はできるし、これで多田博士は安全に地上へ送り届けられる筈。

 ……俺は死ぬかもしれないし、仮に死ななかったとしても脚が滅茶苦茶になりそうだけど。

 視線を下に向けてみれば地上はまだまだ遠いし、多田博士に遺言でも頼んでおくか。


「多田博士、俺は死ぬかもしれないから君に遺言を頼んで――何で首を横に振りまくる?」


 俺の言葉を聞いた多田博士はぎょっとした顔になったかと思えば涙目になって首を振り続ける。


「……ああ、そうか。まともに話を聞ける状態じゃないもんな。とはいえ、俺も家族や友人に最後の言葉を――」


「そういう事じゃないと思うけどね、アタシは。」


 多田博士の心情を察して同情しながらも、何とか話を聞いてもらおうとしていたら背後からつい数刻前、一緒に戦った女性の声が聞こえ、奇妙な浮遊感と共に落下が止まる。

 ……声の主が誰なのかわかりきってはいたが、推測が正しいか確かめるべく振り返る。


「ふ、楓花ちゃん! 助けに来てくれたのか!」


「JDFを襲撃してきた鬼達を倒して、ラボの入口で倒れてた警備員から話を聞いて急いで後を追いかけたから結構大変だったけど、文ちゃんのピンチだし助けに来るのは当然でしょ。さあ、火は邪魔になるから消して。地上に降りるよ」


 背後にいたのはスーパーヒーロー、ストームガール。

 どうやら彼女の超能力で、俺は落下死を免れる事ができたらしい。

 彼女の言葉に従いジェット噴射を止めると、俺の身体はストームガールと一緒にゆっくりと地上に降りていく。

 ……ああ、何とか多田博士を助ける事ができたか。

 安堵すると同時にどっと疲れが押し寄せてくるが、地上に辿り着くまで気を抜くわけにはいかない。


「ストームガール、多田博士を頼む。俺は疲れてるから、いつ彼女を落としてもおかしくない」


「わかったよ。文ちゃんは残念かもしれないけど、君がそう言うなら仕方ないね」


 ストームガールがそう言うと、俺が抱え上げていた多田博士が宙に浮き、ストームガールの元へと移動していく。

「ふ、楓花ちゃん? 今の言い方だと変な誤解を招きそうな――」


 ストームガールの腕に抱えられながら何やら慌てた様子で喚く多田博士。

 ……なにを言っているのか上手く聞き取れないが、先程の無理をしたようなハイテンションとは明らかに異なるし、あれなら大丈夫だろう。


「はいはい、アタシは文ちゃんの味方だから大丈夫だよ。そんな事よりも、そろそろ地上だから、着地の準備をしておいて」


 ……下を見てみれば市街地まで来てしまったようで、俺達に気づいた何人かの通行人達が此方を見上げている。

 できればもう少し人気の無い場所に降ろしてほしかったけど、文句を言える立場でも状況でもない。

 人々がざわつき此方に視線を向ける中、俺達三人は地上に降り立つ。

 ……只でさえ注目を集めるような登場の仕方をしたうえ、有名人のストームガールまで一緒のせいか視線が一気に集まるのを感じとる。

 周囲の視線が気になるが、俺はやるべき事をやろう。


「文ちゃん、一人で立てる? ……よし、それじゃあ降ろすからね」


「ストームガール、助かった。俺の力だけじゃ、最後まで無事に脱出できるかわからなかった」


 多田博士を地面に降ろしているストームガールへと、声をかける。


「お礼を言うのはこっちのほうだよ。文ちゃんを助けてくれてありがとう。……それと、まだ最後じゃないみたいだから、気を抜かないでね!」


 ストームガールに礼を言うが、彼女は此方を見る事なく、空を指差しながら返事をする。

 彼女に倣い空を見上げてみれば、先程脱出した筈の研究室が俺達目掛けて落ちてきている。

 ……落ちてきている!?


「や、ヤバい! あんなの落ちてきたら絶対に怪我人……いや、死人がでるぞ!」


 周囲の人達に危険を知らせるべく、落ちてくる研究室を指差しながら叫ぶ。

 一々逃げろと言うよりは、こちらの方が伝わりやすいだろう。

 しかし、俺の言葉を聞いてなお、スマホを此方に向けて写真を撮ったりしている危機感の無い人達の姿も見受けられる。

 ……少し脅してみたら、言うことを聞いてくれるだろうか。


「そうだね。アタシがいないとそうなったかも!」


 ストームガールが叫ぶと、研究室は落下を止めて宙に浮く


「皆さん! 危険だから離れてください!」


 自身の超能力で研究室をゆっくりと移動させながら、周囲の人達に避難を促す。

 流石はスーパーヒーローというべきか、周囲に残っていた野次馬達もストームガールに従い次々と避難を始める。

 ……これが人望の差ってやつか。


「ふぅ、これでよし。さて、後はこの中にいる敵を倒せば解決だ。ブレイズライダー、文ちゃんを頼んだよ」


 ストームガールは人気の無くなった広場に研究室を降ろすと、俺と多田博士をその場に残し、研究室の入口に向けて歩いていく。

 流石のヴァッサも、ストームガール相手じゃ分が悪いだろうし俺の出る幕は無いか。

 ……いや、果たして本当にそうか?

 態々JDFに襲撃を仕掛けてきた以上、ストームガールとの戦闘を想定していないなんて事、ありえないな。

 考えろ、俺がヴァッサならこの状況でどうするか、彼女の持つ力で何ができるかを。


「……そこか!」


 ヴァッサがどう動くか考えた結果、俺は頭上に炎を放つ。

 未だに降り続ける雨に紛れ、ストームガールに迫っていた水流を防ぐ盾として。


「ストームガール、中にヴァッサはいない! 上だ! あんたほどじゃないけど、彼女も空を飛べる!」


 警告を発しながら空を見上げれば、ヴァッサが此方に向けて降り立つ姿が視界に映った。

今回の話を読んでいただきありがとうございます。

ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。

次回は来週日曜日の昼十二時投稿なので、読んでもらえたら励みになります。

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