3幕 ブレイズライダー2.5 ファースト・チェンジ(3)
「……何ですか、それは? ふざけているんですか?」
ヘルメットの下に隠されていた目出し帽を身につけた俺の顔を見て、苛立ちを隠しきれなかったのかヴァッサの顔から笑みが消えてしまう。
……今までに何回かヘルメットを外した時に素顔を見られている以上、何かしら対策する必要があった。
二郎からもあまり見映えが良くないと突っ込まれはしたが、金がかけられない以上こうなるのは仕方なかったのだ。
「生憎、俺はいつでも大真面目だ!」
何はともあれ、ヴァッサがノコノコと近づいてきた今こそ好機。
太股に取り付けておいたホルスターからスタンバトンを引き抜くと、ヴァッサに押し付けながらスイッチを押す。
「キャアアア!」
「ぐっ……ウァァァ!」
バトンから流れる電流を浴びたヴァッサは悲鳴を上げる。
そして、先程の攻撃で濡れていたバトンを持っていた俺も痛みに叫ぶ。
暫くしてから、濡れたまま無理に使用したバトンが黒煙を上げると同時に俺とヴァッサは崩れ落ちていった。
……その最中、俺は力を振り絞って多田博士の方を向き、役目は果たしてやったと目で訴えかける。
「くっ……こんなもので私を止められると――あァァァ!?」
体力を消耗していない分、俺よりも早く立ち上がったヴァッサだが、悲鳴を上げて床に膝をつく。
「特製のテーザー銃だ! これで少しだけど、時間は稼げる……というわけでブレイズライダー、これを使うんだ!」
そう言うと多田博士はどこから取り出したのか、俺に向けて楕円形の箱のような物を投げてくる。
「き、急に物を投げるな! ……これは?」
放り投げられた箱に視線を移すと、側面からレバーのような物が飛び出しており、本体の中央には丸いガラスが嵌め込まれている。
「そいつを身体の正面、腰の辺りにあてがうんだ! 覗き窓を外側に向けて!」
「使い方じゃなくて、こいつが何なのか聞いてるーーうわっ!?」
此方の質問を無視して話を進める多田博士にぼやきつつ、彼女の言う通りに腰にあてがった瞬間、箱の側面からバンドのような物が飛び出て俺の腰を一周し、軽く締め付けきて箱を身体にフィットさせてくる。
「何なのかは後で説明する! 次はレバーを回して、思い切り燃え上がらせろ!」
驚く俺に反応する事もせず、彼女は使い方の説明を続けていく。
というか、燃え上がらせるって何だよ。
「……ああ、そういう事か」
一度レバーを回した瞬間、覗き窓から箱の中で火花が散るのが見え、俺は多田博士が何を言わんとしているのか察する。
もう一度をレバー回し、散った火花を自身の超能力で激しく燃え上がらせる。
『stand-by phase』
燃え盛る炎によって、中央の覗き窓が真っ赤に光る箱から電子音が鳴り響く。
「よし! 最後は君の声で、変身コードを言うんだ!」
「……へ、『変身』? それよりも、そろそろこいつがなんなのか――うわっ!?」
『change phase』
教えてくれと続けようとした俺を遮り、箱が再び無機質な音声を発すると、俺の視界が赤い光に包まれ、驚きを隠せず変な声を出してしまう。
『battle phase』
三度、箱の無機質な音声が響くと共に光が収まり、真っ赤に染まった視界も元に戻る。
「こ、これは……!」
先程破壊した天井から降りしきる雨によって作られた水溜まりに、新たなスーツを身に纏った俺の姿が映っていた。
赤と黒、二色を基本とした配色にフルフェイスのヘルメットと真紅のマフラー。
俺が自分で作ったスーツとよく似ているが、明らかに違う箇所もある。
まずは俺の腰で、炎により煌々と光りを放つ箱。
そして、身体の各所に配されたプロテクター。
明らかに俺が作ったスーツよりも、金がかかっている。
「……うぅ、戦う力は無いと侮ってしまったのが仇に……な、何ですか、その姿は!?」
テーザー銃の効果が切れたのか、呻きながら立ち上がったヴァッサが、俺の姿を目にしていつも冷静だった彼女には珍しく狼狽える。
「何ですかって言われても、俺だって知りたいよ」
「しらばっくれる訳ですね。なら、無理にでも聞き出します!」
俺がこのスーツの事を知っていると勘違いしたヴァッサが、俺に目掛けて水球を放つ。
「ブレイズライダー! ソイツは君が着ていたスーツと殆ど同じ戦い方ができる筈だ! 思いっきりやれ!」
多田博士の言葉に掌を見てみれば、確かに俺が作ったスーツと同じように点火装置のボタンが付いている事に気付く。
ボタンを押して点火装置を起動させ、火球を放ちヴァッサの攻撃を打ち消す。
……押したボタンに対応する点火場所も同じだし、多田博士の言う通り今までと同じような使い心地だ。
「これならどうですか!」
水球を囮に俺に近づいていたヴァッサが、殴りかかってくる。
俺は咄嗟に上体を反らしてヴァッサの攻撃を躱すが、彼女は濁流の如く間髪入れずに攻撃を仕掛けてきた。
俺はその攻撃を受け止め、受け流すが、何発かは捌ききれずに攻撃を受けてしまう。
しかし、プロテクターによって守られたスーツは、ヴァッサの攻撃を受けてもビクともしない。
そして動いた事で気付かされたが、今まで着ていたスーツよりも遥かに動きやすい。
このスーツ、これはまるで……。
「見たか! 動きやすく丈夫なインナーに、頑強なプロテクターによる二重装甲! 更にブレイズライダーの戦闘データを解析して彼の使いやすいように調整してあるスーツだ!」
……思った通り、俺用に作られたスーツらしい。
攻撃の効かない様子の俺を見て僅かに狼狽えた隙を見逃さず、ヴァッサを蹴り飛ばす。
「くっ……。や、厄介な物を作ってくれましたね」
「起動するにはベルト内の炎を燃やす必要があるから、彼以外に使う事はできないセキュリティ! これがDX変身ベルト、ブレイズドライバーだ!」
高らかにベルトの名前を叫んだ多田博士を俺は……いや、ヴァッサもポカンとした表情で見つめ、沈黙が場を支配する。
「こ、これ、ブレイズドライバーっていうのか。何か、昔にやってたヒーロー番組に出てきそうな名前だな」
「そんな事はどうでもいい! さあ、ブレイズライダー! ブレイズドライバーを使って彼女を倒すんだ!」
多田博士は説明の時と変わらずハイテンションでヴァッサを倒すよう指示を出すが、俺はある感情に襲われてすぐに動く事はできなかった。
いきなり新しいスーツを手に入れた戸惑いや、ヴァッサを倒すという使命感よりも強いその感情。
……怖い。
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