3幕 ブレイズライダー2.5 ファースト・チェンジ(2)
「中々やりますね。ですが、これならどうですか!」
ヴァッサがその場から飛び退くと、背後から入れ替わりに巨大な水塊が俺を飲み込まんと飛び出す。
「それくらいの水、消し飛ばしてやる!」
引き戻した右腕の点火装置を作動させ、水塊を目掛けて火炎放射を放ち相殺。
……そして目の前の水を囮に、背後から迫っていた水塊にも炎を放って蒸発させる。
「今のは結構自信があったのですが、まさか対応してくるとは」
「……外は雨だからな。お前の超能力がいつも以上に活きる状況だから、何が起きてもおかしくないし警戒するのは、当たり前だ!」
感心した様子で呟くヴァッサだが、付き合っている暇はない。
点火装置を起動させてジェット噴射で一気にヴァッサとの距離を詰め、殴りかかる。
当然のようにヴァッサは俺の拳を受け止めるが、先程のようには行かせない。
間髪入れずに腕を引き戻すと、ヴァッサの腕を蹴りつける。
「くっ……これしきの攻撃――!?」
流石に衝撃が強かったのか、痛みに呻くヴァッサに休ませる暇を与えない為に拳が受け止められれば蹴
り飛ばし、炎が消されれば再び着火して攻撃を仕掛ける。
状況は彼女に有利だし、なにより頭の出来も俺より良い。
故に今採れる最善策は、彼女に考える暇を与えずに攻撃を続けるしかない。
そして、可能ならスタミナが切れたところで止めを刺す!
「痛ッ……あ、あまり調子に乗らないでください!」
「うおっ!?」
しかし、俺の目論見はあっさりと崩れ去ってしまう。
驚く事にヴァッサは俺の蹴りをその身体で受け止めると、痛みに怯みその笑顔を僅かに歪ませながらも俺を突飛ばし、その場から飛び退いて距離を取る。
「今のは危なかったんじゃないか? いつもの澄ました笑顔が、少し崩れてたぜ」
「……以前よりも動きのキレが上がってますね。思ったよりも強くなっているようです」
残念な事にヴァッサは俺の挑発に乗ってこず、冷静に俺の動きを分析する。
「お褒めに預かって光栄だね。そっちはあんまり変化ないけど、運動不足か?」
「相手の動揺を誘おうと挑発する癖は変わりないみたいですね。……もう一つ、変わっていないか確かめさせてもらいます!」
ヴァッサはそう言うと、俺の真横を見据えて右掌を向ける。
「おいおい、どこに向けて攻撃を――!」
掌の向けた先、そこには多田博士が先程と変わらず座り込んでいた。
……俺は考えるよりも早く、多田博士を庇う為に水弾の前へと飛び出す。
迫る水弾はそのまま俺に直撃……しなかった。
俺に当たる直前で宙に浮いたままピタリと動きを止めたかと思えば、すぐに方向を変えて動き出し、俺の右腕に纏わりついてくる。
「なにっ!? こんなの――うわっ!?」
すぐさま点火装置を起動させて蒸発させるが、直後に乾いた破裂音が鳴り響き、点火装置から煙が立ち上る。
「貴方が先程から右腕の点火装置しか使ってない……いえ、右腕の方しか機能していなかったのには気付いてました。これで両方壊れたので、もう火は使えません。貴方の甘さは相変わらずですね」
何度か掌のボタンを押して点火を試みるが、完璧に壊れてしまったようで火花が散らない。
狙いは多田博士じゃなくて、俺の点火装置だった訳か。
「……火を使えなくしたくらいで勝ったつもりか? だとしたら、随分と軽く見てくれてるな」
「す、すまない、ブレイズライダー。腰が抜けて動けなかった」
強がる俺に、背後から多田博士が謝罪の言葉を口にする。
「……無事ならそれでいい。だけど、少し不味いな」
一応逃走手段を考えてはいたが、実行するには火種が必要だ。
火が使えなくなり逃げる手段が無くなった以上、助けがくるまで持ちこたえるしかない。
何とかして多田博士を守るべく、隙を見せないようヴァッサを視界に捉えたまま博士の元へと後退る。
(……ブレイズライダー、水城さんに悟られないよう、今からボクが言う事に返事はするな。ボクに何とかする方法があるから、彼女に隙を作ってくれ)
ヘタレ込んだままの多田博士の目の前まで後退した時、彼女は俺にしか聞こないよう小さな声で呟く。
(いきなり何を言ってるんだと思うかもしれないけど、最初に会った時ボクは君の事を信じた。今度は君がボクを信じてくれ)
……どうやら、昔に会った事があると思ったのは気のせいじゃ無かったらしい。
とはいえ、彼女とどこで会ったのか思い出せない。
以前、彼女は俺を信じた事があるだって?
「多田さん、内緒話は終わりですか? 何を言ってるかはわからないですけど、無駄な足掻きは止めておいた方がいいですよ」
「う、うるさい! こっちの話に首を突っ込んでくるな!」
いくら多田博士が気を付けても、目の前にいるヴァッサには筒抜け。
博士が何かを企んでいることはすぐに看過されてしまう。
……ごちゃごちゃ考えていても仕方ない。
「多田博士、もう気付かれてるみたいだから、簡潔に返事をしよう。何があってもよく見ておけ!」
俺に策があるのならともかくそうではない以上、多田博士を信じる他に道はない。
博士に返事を告げると床を蹴って駆け出し、勝ち目の薄い戦いへと身を投じる。
「二人とも無駄に足掻かず、私と一緒に着いてきてくれれば痛い目を見ずに済むんですけど。優秀なのに、聞き分けは悪いんですね」
「多田博士はどうか知らないけど、自分が優秀だなんて思った事は一度もない! それに、聞き分けが悪いんじゃなくて話を聞く相手をちゃんと選んでるだけだ!」
やれやれと呆れた様子を見せて隙だらけのヴァッサに近づき、拳を振るおうとする。
しかし、俺の拳は目の前に作られた水壁に呑み込まれて攻撃を阻まれてしまう。
「くっ……うわっ!?」
次の攻撃を仕掛けるべく水壁から拳を引き抜こうとするが、逆に俺の体が面積を増した水にズブズブと呑み込まれてしまい、呼吸すらできなくなる。
すぐに息を止め、脱出するべくもがく俺を見ながらヴァッサは、平時なら思わず見惚れてしまうような笑顔を浮かべると、腕を大きく振り上げる
同時に身体を覆っている水ごと俺は宙に浮かされ、そのまま天井に叩きつけられる。
衝撃と痛みが俺を襲うが、覆っていた水が俺を解放した事で呻き声を上げる間もなく、今度は重力に従って床に叩きつけられる。
「話を聞く相手を選んでると言いましたが、その選択が間違っていてはどうしようもないですね」
痛みを堪えながら立ち上がる俺の様子を見ながら、ヴァッサは嘲るように笑う。
「ま、間違いかどうかは、お前が決める事じゃない! 俺が決める!」
声を張り上げ、痛みに震える身体に渇を入れる。
そして、ヴァッサを倒すべく彼女の元へと駆け出し殴りかかる。
……幾度となく拳を振るい、蹴りを放つがヴァッサはその悉くを易々とかわし、受け止める。
「ど、どうした! 避けてるばかりじゃ――ぐあっ!?」
伸ばした腕を払いのけられ、生じてしまった隙にカウンターの蹴りをモロにくらってしまう。
「結果がこの様なら、やっぱり貴方の選択は間違っていますね」
床に倒れこむ俺を見下ろしながら、ヴァッサは水を放つ。
放たれた水は点火装置の中へと入り込んでいき、完全に破壊する。
避ける事すらできなかった俺はその様子をただ眺めるほかなかった。
「フレーダーがやられたように、ヘルメットを外した時に火花を散らされたら困りますからね。これでもう貴方は無力です」
……ヘルメットに搭載しているスピーカー等の電源は、点火装置からスーツの裏地に配線を通し、首裏部分に取り付けたコネクタを介してヘルメットまで供給している為、ヘルメットを脱いだら僅かだが火花が散るようになっている。
以前ヴァッサの手下であるフレーダーという男と戦った際、ヘルメットを脱がされそうになったがそれで窮地を脱した事もあった。
……あれ? 何か、思い出せそうな気がしてきた。
「さて、これから貴方の正体を暴かせてもらいますが、何か言っておきたい事はありますか?」
「……頼む、少し待ってくれ。」
俺の正体を暴くべく近づいてくるヴァッサに、少しだけ時間が欲しいと頼み込む。
「私の仲間になってほしいというお願いは聞かないのに、自分が危なくなれば――」
「いや、ヘルメット外されるのはどうでもいい。ただ、もう少しで忘れてる事を思い出せそうだから、少し待ってろと言ってるんだ!」
そう、確か一度倒したフレーダーがヴァッサの手下として復讐してきた時。
その場に彼女が――。
「言い残すことは、無いみたいですね」
忘れていた何かを完全に思い出す直前、痺れを切らしたヴァッサが俺の頭を水で覆う。
一瞬息苦しさに襲われるが、頭を覆っていた水がすぐに退いた事で息苦しさからは解放される。
……尤も、同時にヘルメットも外されてしまった。
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