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1幕 ストームガール1.5 漆黒の亡霊(2)

「刑務所の時は許可が降りてなかったから装備も不十分だったけど、今は万全の状態だ。これなら平々凡々な兄さんでも、ヒーローとしての活躍を期待できるよ」


「……未完成品に、一成を乗せてたの?」


 思わずこぼれた疑問に、文ちゃんはニヤリと笑って口を開く。


「有象無象の凡夫が作ったモノならともかく、ボクの黒鉄は未完成だったとしても十分に戦える。刑務所襲撃事件で、それは証明されてるはずだよ」


 確かに黒鉄……いや、一成は刑務所襲撃事件で活躍してくれた。

 実際に助けられたアタシが言うのだから、それは間違いない。


「……文ちゃん、訓練はもう終わり?」


「ああ、そろそろ切り上げさせようと思ってるよ」


 文ちゃんの返事を聞くと、アタシは訓練室の入口へと歩みを進める。


「……ああ、なるほど。兄さんはともかく、黒鉄は壊さないでくれよ?」


「極力配慮はするけど、保証はできないかな」


 文ちゃんのお願いに、先程の彼女をまねをしてニヤリと笑ってから返事をすると、バトルフィールドへと躍り出る。


「……何だ? まだ訓練を続ける――ふ、楓花!?」


「一成! 調子は良いみたいだし、少し実力を試させてもらうよ!」


 宣戦布告と同時に飛び上がると、地上にいる一成を目掛けて何発かの空気弾を放つ。

 一成はとっさに腕を交差させると、空気弾を受け止めた。

 傷一つ付いていないし、なかなかやると言いたいところだけど、その空気弾は陽動。

 急降下して一成へ近づくと、風を纏わせた脚で思い切り蹴り飛ばす。

 黒鉄は重すぎて倒す事はできなくとも、中の一成は衝撃でさすがにひるんだらしい。

 動きを止めた一成に、反撃をさせないように追撃を仕掛ける。

 ……一成は抵抗する事なく防戦一方。

 アタシはしばらく攻撃を続けた後、一成から距離をとって地上に降り立つ。


「どうしたの? 抵抗しないとやられちゃうよ!」


「ま、待て待て待て! 展開が急すぎて意味がわからん! そもそも、生身の楓花相手に攻撃なんてできるか!」


 一成に抵抗するよう促すが、黒鉄の頭部装甲が展開すると一成はその素顔を晒して叫ぶ。


「そんなこと、気にしなくても大丈夫だよ。アタシに勝てると思ってるの?」


「楓花がそう思ってても、俺は気にするんだよ。文、今日はトレーニング終了。黒鉄を脱ぐからメンテナンスルームまで来てくれ」


 一成はそういうと、踵を返してアタシが入ってきたものとは別の出口へと向かっていく。

 ……遠慮なんていらないのになあ。




「いきなり襲いかかってくるなんて、勘弁してくれ。心臓が止まりそうになったよ」


 支部内にある休憩室の一角、机の向こう側で帰り支度を終えた一成がぼやく。

 アタシも今日はやる事がないし三人で帰ろうと思ったのだが、文ちゃんの仕事が残っていて少し遅くなるらしい。

 というわけで、今は文ちゃんの仕事が終わるのを待っている最中だ。


「アタシも少しは悪かったと思うけどさ、敵は正面から攻めてくるほど甘くないよ。いつ不意打ちされるかもわからないんだから、ちゃんと備えておかないとね」


 一成が文句を言う気持ちもわかるが、アタシ達が戦う相手はそんな事は気にしない犯罪者。

 そんな甘い事を言っていては足元をすくわれてしまう。


「それはわかるけどさあ……いや、楓花は俺の事を心配してくれてんだよな。わかった、肝に銘じとくよ」


 アタシの忠告を、一成は思うところがある様子ではあるが受け入れてくれる。


「よろしい……刑務所襲撃事件以来の実戦で不安かもしれないけど、大丈夫だよ。他の人たちもいるし、何と言ってもアタシが付いてるからね。大舟に乗ったつもりでいてくれていいよ」


「ああ、頼りにしてる……とはいっても、俺と楓花は役割が違うみたいだけどな」


 そういって一成が手渡してきたタブレットには、工場襲撃作戦の概要が記されていた。

 一成の役割はJDFの人たちと一緒に正面から陽動を仕掛ける事で、アタシはその隙に敵の親玉をたたくというのが今回の作戦。


「乱戦になったらそんな作戦は無意味だからな。兄さんは楓花ちゃんに守ってもらうといい」


 休憩室の入り口から聞こえてきた声の方へ振り向くと、私服に着替えた文ちゃんが視界に映る。


「文ちゃん、仕事は終わったの?」


「二人をあまり待たせる訳にもいかないからね。サクッと終わらせてきた……いや、兄さんとしてはもう少し時間をかけておいたほうが良かったかな?」


 文ちゃんはそう言うと、一成に対して面白い物を見ているかのような意味深な笑みを向ける。


「いや、ちょうど良い位だ。というか楓花に守ってもらえって言うけど、黒鉄はそんなにヤワじゃないだろ。まさか、自分が作った物に自信がないのか?」


「いや、黒鉄には自信がある。だけど、いくら黒鉄が優れていても中身がへっぽこじゃその真価は発揮できないだろ?」


 一成に煽られるが、文ちゃんは不敵な笑みを崩さない。


「ほう。そのへっぽこに自分の自信作を任せてるのは、どこのどいつだ? そこまで言うなら俺じゃなくて他のやつに頼めば良いだろ」


「何を言うんだ。兄さんのような平凡な人間に使わせてこそ、正確なデータを得る事ができるっていうのに。……大体、兄さんがヘタレじゃなきゃボクが余計な気を回す必要もだな――颯花ちゃん? どうして急に笑った?」


 バチバチと火花を散らす二人に、思わず吹き出してしまった。

 それによって二人は口論を止め、アタシの方へと振り向く。


「……どうした? 何かおかしな事でもあったのか?」


「いやー、二人は本当に仲が良い兄妹だなって思っただけだよ」


 ひとしきり笑い終えた後、いぶかしげにアタシを見てくる一成に返事をする。


「今の様子を見てそう言えるのなら、申し訳ないけど楓花ちゃんは節穴と言わざるをえないよ」


 文ちゃんはそう問いかけてくるが、アタシはそうは思わない。


「だってさ、二人が本当に仲が悪かったら一成は黒鉄を着ないだろうし、文ちゃんも一成に黒鉄を任せないでしょ」


「そ、それは……」


 アタシの言葉に、一成は反論できないのか黙り込んでしまう。


「……楓花ちゃんが節穴じゃないのは認めるけど、それと兄さんがヘタレなのは別の話さ」


 文ちゃんも論点をずらしてきたあたり、仲が良いというのを暗に認めてる気がするが、それを指摘するのは野暮な話だろう。


「そう? 刑務所襲撃事件の時だって助けにきてくれたし、ヘタレじゃないと思うけど?」


「そ、そうか? と、友達がピンチになってるんだから、助けにいくのは当然だろ!」


 一成はヘタレと言われるのがよほど嫌だったのか、顔を真っ赤にしながら声を張り上げ主張する。


「……そういう所がヘタレなんだよなぁ。まあいいさ、おなかも空いたしそろそろ帰ろう」


 文ちゃんはそうぼやくと出口に向かっていき、アタシと一成はその後を追いかける。

 ……今の一成、どこかヘタレてたかなあ?

今回の話を読んでいただきありがとうございます。


ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。


次回投稿は前日にTwitterで告知予定です。

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