2幕 オトギウォーズ1.5 集う、ヒーロー(7)
「さて、部外者もいなくなったし大事な話を進めようか」
「ぶ、部外者って……。間違ってはないけど、さっきまで弟子扱いしてた人がそれを言うのか」
一成君が拙者の言葉に唖然とした様子を見せるが、華麗にスルーして話を続ける。
「予想以上に奴等は手強い。拙者としては賃上げを要求したいのだが、交渉の余地はあるか?」
「どうにかしてはやりたいが、そういう話は俺じゃなくて――」
「私に話してもらおうか」
表情を変えず、残念そうな素振りすら見せない雉鳴の話を、女の声が遮る。
声のした入口の方へと振り向けば、美人だがキツそうな見た目の、JDFの隊員服を身につけた女性が姿を現した。
「……どちら様?」
最初に疑問の言葉を発したのは、意外にもストームガール。
なんか明らかに偉そうな雰囲気を出して入ってきたから、拙者以外は皆、彼女と知り合いだと思っていたがそうではないらしい。
「私の名は式間玲。JDF特殊作戦部隊の指揮官で、君達を集めてチームを結成する事を決めた張本人だ」
式間と名乗ったこの女が雉鳴のボスという訳か。
つまり、彼女に頼めば報酬マシマシにできるという事だな。
善は急げと言うし、早速お願いすることにしよう。
「式間殿、拙者は桃太郎と申す。早速だが報酬の増額を要求させてもらおう。鬼達だけならともかく、ダースオーガやジェネラルGの相手をするのは中々に骨がおれたからな」
「……その話は後だ。まずは私が何故君達を集めたか。そして、これからの事について話を聞いてからでも遅くはない」
……なるべく早く報酬を増やす確約が欲しかったが、まあいいだろう。
話を煙に巻くような素振りを見せれば、即座に話の主導権を握り返せばいいだけだ。
「いいだろう。手短にすませろ」
「……善処するが、あまり期待はするな」
式間はそう言うと、拙者達四人をそれぞれ一瞥してから口を開く。
「君達を集めた理由、それは昨今の凶悪犯罪に即座に対応する為のヒーローチームを結成する為だ」
確かに、二十年程前に超能力者が現れてから、犯罪件数は増加する一方。
何らかの策を講じねばこのまま治安が悪化し続け、いずれは世紀末になってしまってもおかしくないだろう。
「雉鳴さんの言ってた事と同じだ。ねえ、一つ質問しても大丈夫?」
式間の言葉に、ストームガールが手を上げながら問いかける。
「……雉鳴、お前本名を明かしたのか?」
「本当はまだ暫く教えるつもりは無かったんですが、どこぞの馬鹿のせいでバレてしまっただけです」
式間が怪訝そうな様子で声をかけられ、雉鳴は不服そうに返事をする。
それはそうとこの男、聞き捨てならんことを言ったな。
「どこぞの馬鹿とは拙者の事だな? 雉鳴、お主は良い奴だが、ここいらでどっちが強いか確かめようじゃないか。さあ、武器を持って表に――」
「ストームガール、何が聞きたいんだ?」
刀に手を掛けた拙者の言葉を遮り、雉鳴はストームガールに質問するよう促す。
ううむ、犬神ならもう少し良い反応をしてくれただろうに、張り合いが無くてつまらん。
「ええっと、態々アタシ達でチームを作る意味があるのかな? 凶悪犯罪への対応は本来警察やJDFの役割だよね? それに、アタシは今のままでもヒーローとして戦うつもりだよ」
ストームガールの言う通り、態々拙者達を集めるよりは警察やJDFで対応した方が手っ取り早いのではなかろうか。
それにストームガールと同じく、拙者も今のまま活動を続けても全く困らない。
……いや、金銭面での不安があったな。
「……チームを結成する理由はもう一つあって、情けない事に人手不足だ。既に警察は犯罪対応が後手に回ってしまっているし、JDFに至っては災害や怪獣への対応に人員を割かないといけない以上、警察に輪をかけて犯罪対応が疎かになってしまっているのが現状。君達の力を借り、より効率よく犯罪を取り締まる為、チームの結成に至った訳だ」
「人員不足って、予想してたよりも世知辛い理由……。ま、まあ理由はわかりました」
ストームガールは納得した様子を見せた所で、拙者はすかさず手を挙げる。
「拙者から一つ質問があるが、構わないか?」
挙手した拙者に向けて式間が頷いたのを確認し、口を開く。
「チームに加入するのは構わないが、報酬はどうなる? 拙者にも生活があるから、報酬が少なければ気が向いた時しか関わるつもりは無いぞ」
慈善事業も結構だが、先立つ物が無ければどうしようもない。
拙者の質問を聞いた式間が雉鳴に目配せすると、雉鳴はどこからか紙束を取り出し拙者の前に突きつける。
「契約書だ、報酬についても書かれているから中身を確認しておけ」
雉鳴から渡された契約書を受け取り、その中身を読み込んでいく。
「……拙者、色々やってきたがこれからは正義の味方として国に仇なす不逞の輩を斬り倒していこうと思う。これから宜しく頼むぞ、式間殿」
拙者は満面の笑みを浮かべ、式間殿の手をとり固い握手をかわす。
「さっきまで渋り気味だったのに、凄い態度の変わり方だ……。一体どんな契約なんだ?」
一成君が引き気味にぼやくが、拙者としては貰えるものが貰えればそれで構わないというだけ。
拙者の要求に対し、式間殿や雉鳴はそれに応えてくれたというただそれだけの話なのだ。
「……あれ? そういえば俺、なし崩し的にJDFに協力してたけど、契約書なんて見たこと無いぞ」
「それはそうだよ。兄さんの契約書はボクが預かってるからね」
一成君が疑問を呈すると、それに応えるように部屋の入口から少女の声が聞こえてくる。
視線を向けるとそこには小学校高学年から中学生位と思われる女児が、キョロキョロと辺りを見回していた。
「……何故こんなところに子供がいる? ここは子供が来るところじゃないぞ」
「ボクは確かに子供だけど、そこらの凡人と一緒にしないでもらいたいね。ボクは多田文。兄さんの乗ってたクロガネを作った、天才美少女女子高生科学者さ」
……ああ、おばあさんが工学系の技術に長けた若き科学者がいると名前を口にした事があるな。
しかし、この小ささで高校生とはな。
「これは失礼した。拙者は桃太郎と申す。文殿、先程の失言の詫びとして今度牛乳をカートンで送ろう」
「おい、暗にボクの背丈が小さいって言ってるだろ。本当に失礼な奴だな」
「桃太郎さんが失礼かどうかは置いといて、さっきのがどういう事か説明してもらおうか。契約書を預かってるってどういう事だ? というか、自画自賛しすぎだろう」
拙者に食って掛かろうとする文殿の前に、一成君が立ち塞がる。
「名乗りなんてのは、ハッタリを効かせる位が丁度いいのさ。契約書に関しては、そのままの意味だよ。兄さんはクロガネの訓練で忙しいだろうから、面倒な書類手続きはボクが代わりにやっておいた。その関係で契約書もボクが持ってるって訳だよ」
「そ、そうか。そこまで考えてくれてたのか。……ところで、俺にも給料って出てたりするのか? もし出てるんならどこに振り込まれてる? まさか勝手に使い込んだり――おい、何で目をそらす?」
一成君の問いかけに、文殿は視線をそらして誤魔化そうとするが、やがて観念したのか渋々といった様子で口を開く。
「ボク個人のものとは別口で口座を作ってそこに振り込んでもらっている。勿論、使い込んだりなんてしてない。……本当はもっと早く話しておいた方が良かったんだろうけど、中々タイミングが掴めなくてね」
「……わかった、その言葉信じてやるよ」
一成君が納得した様子を見せると、式間殿がコホンとわざとらしく咳払いをする。
「家族会議は終わりだな? 文君、ここに来たのは何か用事があるんだろう?」
「ああ、そうだった。兄さん、後で格納庫に来てほしい。見せたい物があるんだ」
文殿の言葉に一成君がわかったという風に頷く。
……用事を終えたのなら戻っても良さそうなものだが、文殿は退室しようとせず、部屋中を見渡した後に口を開いた。
「と、ところでもう一人ヒーローが来てるって聞いてたんだけど、彼はどこにいるんだい? あ、挨拶しておきたいなー」
「……ブレイズライダーの事? 彼ならもう帰ったよ。ところで、何で文ちゃんが彼に挨拶なんて――あ、思い出した」
文殿の問いかけにストームガールが答えている途中、ストームガールは何かを思い出したらしく、ハッとしたような表情をする。
「思い出したって、何をだ?」
「ブレイズライダーをどこで見かけたかだよ。ほら、アタシ達、彼に見覚えが――」
「いないのなら仕方ない! ボクは自分のラボに戻ってるから、兄さんは後で寄ってほしい! それじゃあ、会議を続けてくれ!」
文殿はストームガールの言葉を遮るように叫ぶと、そのままそそくさと部屋から立ち去っていく。
「文の奴、急にどうしたんだ?」
「……文ちゃんにも、隠し事の一つくらいあってもいいんじゃないかな? うん、きっとそうだよ」
一成君はおかしくなった妹の様子に首をかしげ、ストームガールは何かを悟ったらしく暖かい目で文殿が去っていった扉を見つめていた。
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