2幕 オトギウォーズ1.5 集う、ヒーロー(6)
長々と歩かされた拙者たちの前に姿を表したのは、どこにでもあるようなオフィスビル。
どうやらここが目的地であるJDFの支部らしい。
拙者とブレイズライダーは雉鳴の先導によって、ビルの上層に位置している会議室のような部屋へと案内される。
「ようやく到着か、遅かったね」
部屋の中にはストームガールが、同じような年頃の少年と一緒に拙者たちを待っており、中へと入ってきた拙者達三人に声をかけてくる。
「拙者達も自由に空を飛べればよかったのだが、そういう訳ではないし仕方ない。それよりもそこのお主、何者だ?」
ストームガールの言葉を軽く受け流すと、少年に何者なのか問いかける。
「ああ、この姿だとはじめましてだよな。俺は多田一成。クロガネの中に入って、ストームガールの相方をやらせてもらってる」
「成程、さっきやられてたパワードスーツの中身か。拙者の名は吉備桃太郎だ。宜しく頼むぞ、一成君」
「……そういう印象か。まあ、結構な無様を曝してたし仕方ないよな」
握手の為に手を差し出したところ、一成君は肩を落として落ち込んだ様子をみせるが、すぐさま気を取り直して拙者の手をとった後、今度はブレイズライダーへと声をかける。
「君がたしか、ブレイズライダーだっけ? さっきは助かったよ。……ところで、どこかで会った事ないか? どこかで見覚えがあるんだよ」
「偶々標的がジェネラルGだったというだけで、助けようとした訳じゃないから気にするな。後、俺はあんたに会った覚えはないな。さっきストームガールにも同じことを言われたけど、ニュースか何かで俺を見た事があるだけだろ」
面と向かって礼を言われたことで照れたのか、ブレイズライダーは早口で捲し立てると雉鳴の方へと振り向く。
「自己紹介はこれくらいにして、早く本題に入ろう。何が聞きたいんだ?」
「俺や桃太郎、ストームガールが黒鉄重工への襲撃に対応できたのは事前に鬼ヶ島という組織から情報を奪っていたおかげだ。ブレイズライダー、お前は何でこの町に向かっていた?」
鬼ヶ島。
拙者という最高最強の人間兵器を作り出し、安価で頭数を揃えられる鬼を生みだした秘密結社。
数週間前に雉鳴達と一緒に鬼達を殲滅し、組織を壊滅させてやったあの日が……いや、物心付いた時から鬼ヶ島を滅ぼす為の今日までの道程の内、昨日の事がまるで昨日の事のように思い出せる。
……まるでもなにも、昨日の事でしかないな。
「俺もあんたたちと同じだ。近頃そこいらのチンピラやコソドロが明らかに不釣り合いな銃器を持っているのを怪しんで、出所を探っていたら鬼ヶ島に辿り着いた。直接乗り込んで壊滅させた後、情報を漁ってたら襲撃予定が記されたファイルを見つけたんだ」
……そういえば、鬼ヶ島には四天王と呼ばれている幹部達がいて、それぞれ各支部の管理をしていたとおばあさんが言っていた。
拙者達が二つの支部を潰し、雉鳴がストームガール達と一緒にもう一つ潰していたから、残りは一つ……の、筈だった。
空中要塞を宇宙へ打ち上げた後、ついでに壊滅させておこうと調べてみたら既に壊滅していたのは、ブレイズライダーの仕業だったのか。
「雉鳴さん、どうしてそんな事を聞くの?」
「奴等の襲撃が予定よりも少し早かったのが気にかかる。此方に情報が漏れてるのを察知して予定を変えたのならまだマシだが、俺達の中にスパイがいて情報が筒抜けになっているのなら、かなりまずい」
ああ、成る程。
あの場でノワールガイストと戦った者はストームガールも一成君も、勿論拙者も雉鳴とは既知の仲。
唯一ブレイズライダーだけが素性を知らないから怪しんでいたという訳か。
「つまりだ、俺が奴等のスパイじゃないかと疑っているんだな。……こんなにボロボロにされているのに、スパイな訳が無いだろ」
「そんなのはただの芝居かもしれないし、疑ってかかるのが当然だ」
……まあ、雉鳴の立場ならそう考えるのも仕方ない。
しかし、それ以前にブレイズライダーは拙者の弟子なのだ。
「雉鳴、ブレイズライダーの戦いぶりは芝居には見えなかった。隣で戦った拙者が保証しよう」
拙者と一緒に悪党に立ち向かったその戦い様は、味方と判断するに不足なかった。
「……まあ、嘘を言ってる訳ではなさそうだし、桃太郎がそう言うのなら信じてやろう。それじゃあもう帰ってくれて構わない。ここまで付き合わせて悪かったな」
雉鳴がそう言うと、ブレイズライダーへの退出を促すように部屋の出入口扉が開く。
「あれ? これからの話をするなら、まだ残ってもらっておいた方が良いんじゃないの?」
疑問の声を上げたのはストームガールだ。
彼女の言う通り、ブレイズライダーにここで帰ってしまわれては、彼が今後の作戦に参加できない。
荒削りではあるが、確かな実力を持ったこのヒーローをこのまま帰すのは非常に勿体ない。
「雉鳴よ、お主が怪しむのもわかるが、ブレイズライダーの実力は確かだ。これからの戦いに必要なのではないか?」
「……桃太郎、お前が彼の実力を買う気持ちもわかるが、そう簡単に仲間に加えれるものでもない。それにだ、彼の姿を見てみろ」
雉鳴に促されてブレイズライダーへ視線を向ける。
身につけたスーツはボロボロで、ヘルメットにもヒビが入っている。
スーツの左腕に搭載されていた電子部品も破壊されてしまっており、とてもじゃないがまともに戦える状態ではないだろう。
「お前もわかったみたいだが、そんな状態の人間を戦わせる訳にもいかない。俺の見立てではスーツの修復にはかなり時間がかかるだろうな。そこのところはどうだ? ブレイズライダー」
「……ああ、雉鳴さんの言う通りだ。まあ、俺は元々一人で――」
「それだったら、新しいスーツを用意してあげればいいんじゃない?」
ブレイズライダーの言葉を遮り、ストームガールが提案する。
成る程、協力体制をとるのなら、JDFで新しいスーツを用意するというのも一理ある。
「残念だが、そんな予算は無い。クロガネも破壊されてしまったし、ブレイズライダーのスーツを新しく作る余裕は無い」
「……ごめん。俺がもっと上手く戦えていればよかったんだけど、どうにも上手くいかないな」
雉鳴の告げた、お金というどうしようもない問題に一成君が罰の悪そうな顔をして拙者達に頭を下げる。
「頭を下げる必要はない。あのジェネラルGという男は相当な手練れ。そう気に病むことはない」
「……お前、本当に桃太郎か? 随分とまともに見えるぞ」
一成君に励ましの言葉をかける拙者の様子を見て、雉鳴が随分と失礼な言葉を口にする。
「失敬な。拙者、常に清廉潔白で真面目で誠実だ」
「本当にそうなら犬神も苦労しないだろうが、とりあえずそういう事にしておいてやろうか」
「なあ? 取り込み中悪いけど、俺はもう帰っていいんだよな? なるべく早くスーツを直しておきたいんだ」
互いに軽口を叩き合う拙者と雉鳴に、ブレイズライダーが口を挟んでくる。
そんなブレイズライダーに、拙者は近寄り手を差し出す。
「引き留めて悪かったな、ブレイズライダー。今日のところはお別れだが、何れまた会うこともあるだろう。その時は、また師弟として共に戦おうじゃないか」
ブレイズライダーは僅かに考える素振りを見せるが、おとなしく握手を受ける。
「弟子になった覚えはないけど、また会う時があったらその時は宜しく頼むよ。それじゃあ、さよなら」
手早く別れの挨拶を済ませると、ブレイズライダーは出口に向けて歩きだす。
「じゃあね! 助かったよ、ブレイズライダー!」
ストームガールの言葉にブレイズライダーは振り返らず、手だけを振って返事をしながら部屋の外へと消えていった。
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