1幕 ストームガール1.5 漆黒の亡霊(1)
二〇四〇年、七月初旬。
「あの女を撃ち落とすオニ! これ以上、好き勝手させるわけにはいかないオニ!」
鬼のような容姿の戦闘員の声が響き渡り、その周りにいる同じような容姿の男たち……わかりやすく、鬼と呼ぶことにしよう。
鬼達が手に持ったエナジーライフル……光線銃をアタシに向けて発砲する。
……まったく、彼らも無駄な事をするよね
空を縦横無尽に飛び回れるアタシに当てる事など、万に一つもありえない。
少なくとも、彼らのようなヘナチョコでは十年かかっても無理だと言い切れる。
アタシは迫る光弾を掻い潜り、地上から此方を見上げている鬼達へと近づいた。
「ぜ、全然当たらんオニ!?」
「残念だけど、練度が全然足りないよ!」
無傷で降り立つアタシを見て驚愕する鬼達目掛け、突風を放つ。
鬼達はなす術なく吹き飛ばされると、そのまま倒れて起き上がらなくなった。
……よし、次の相手を――
「楓花! 後ろだ!」
アタシに警告を告げる声に振り向くと、腕を変形させた銃を此方に向けている機械人形が視界に映る。
すぐさま迎撃に移ろうとするが、その必要は一切無かった。
横合いから光弾が飛来し、機械人形に直撃、破壊する。
「楓花、大丈夫か?」
高さ三メートルを越える巨大な黒いロボット……いや、パワードスーツがのっしのっしと此方に近づいてくる。
「うん。助かったよ、一成。あと、後ろに気をつけて!」
アタシはパワードスーツ・クロガネを装着している幼馴染みの多田一成にお礼を言うと、彼に背後から狙いを定めている半壊した機械人形目掛けて空気弾を放ち、とどめを刺す。
「最後まで油断しちゃ駄目だよ。キッチリ動けないようにしないと、何をしてくるかわからないんだから」
「……まだ動けたのか。わかったよ楓花、肝に銘じとく」
アタシの忠告を一成は素直に受け入れてくれる。
ヒーローとしてはアタシの方が何年も先輩だし、当然と言えば当然だけど少し張り合いが無いな。
「さて、まだまだ敵は多いけど、地上は任せて大丈夫?」
「ああ、何とかするさ……多分」
不安を隠しきれてない返事だったけど、一成なら大丈夫。
アタシは飛翔し、上空から次の標的を探す。
眼下には先程の鬼や機械人形によって破壊された街並みが広がっていた。
どうしてこうなったのか、それは数週間前まで遡る。
「違法薬物製造工場の摘発? 別に構わないですよ。だけど、どうしてアタシに話を?」
目の前にいる黒いスーツを着た男性……アタシをヒーローチームにスカウトした鳥羽さんからの仕事の依頼に、アタシは思わず疑問を漏らす。
「理由は幾つかあるが、まずは単純に工場の規模がでかすぎる。君のように一人で何人もの敵を相手取れるヒーローがいてくれれば非常に助かるからな」
「そ、そうですか。他にも理由があるんですよね?」
面と向かって評価され少しだけ照れてしまったので、思わず話題を変えてしまう。
いや、他にも理由があるのなら、それを聞いておきたいというのもあるかな。
「以前、強制的に超能力者にする薬品を、ジェネラルGが多田君に使おうとしていただろ? 今度摘発するのは、その超能力開発薬の工場だ」
「成る程、交戦経験のあるアタシがいた方が対処しやすいというわけだね」
鳥羽さんの言葉に、アタシは数週間前からの出来事を思い出す。
ノワールガイストと名乗る集団の戦闘員を率いる男、ジェネラルG。
彼と彼の率いる超能力者達と交戦したのは、記憶に新しい。
「……それに、彼の初陣になる予定だ。君が側にいてくれた方が安心するだろう。俺は別の仕事があるから失礼するが、そろそろ彼の訓練も終わるし会ってきたらどうだ?」
鳥羽さんはそういうと、アタシの返事を聞くことなく立ち去っていった。
彼の背中を見送ると、アタシはトレーニングルームに向けて歩き出す。
……アタシが今いるここは、JDF(日本防衛軍)の有している支部の一つ。
まだ名称も決まっていなければ、メンバーも三人しかいないヒーローチームに所属しているアタシ達の拠点。
アタシの推薦で加入する事になった一成は、ここ暫くこの支部に作られたトレーニングルームで訓練を受けていた。
よく考えれば素人がいきなりヒーローとして戦闘に参加しようなんて、無茶が過ぎたかも。
刑務所襲撃事件をよく無傷で乗り切れたものだなと、今更ながらに思ってしまう。
トレーニングルームへたどり着くと、壁一面に張られた強化ガラス内のバトルフィールドでパワードスーツを身につけた一成が、トレーニング用の機械人形相手に実戦形式の訓練を行っていた。
そして、ガラスの手前側では小柄な少女がその様子を眺めている。
「文ちゃん、一成の調子はどう?」
少女……一成の身に付けているパワードスーツを、一五歳という若さで作り上げた天才科学者にして、一成の妹でもある文ちゃんに声をかける。
「楓花ちゃんか。まあ、及第点といったところかな。短期間の訓練の割にはよくやってるんじゃないかとボクは思うよ」
文ちゃんはアタシの方へ振り向いてそう言った後、再び強化ガラス越しに一成へと視線を戻す。
アタシも彼女につられて一成へ視線を向けた。
……三体の機械人形が一成を取り囲み、ジリジリと近づいてその包囲を狭めていく。
一成も様子を窺い大きく動かず、戦況は膠着状態に陥ったようだ。
均衡を破ったのは、一機の機械人形。
一成の正面にいた機械人形が彼に向けて飛びかかる。
飛び掛かってきた機械人形を迎えうつように一成は右腕を振り抜いて吹き飛ばす……が、大振りに振りかぶった事で生じた隙を残った二機の機械人形は逃がさない。
一機の機械人形が腕を変形させて一成に狙いを定め、もう一機の機械人形がブレードを取り出し斬りかかる。
一成は左腕を斬りかかってきた機械人形に向けると、前腕部に備え付けられているエナジーライフルを放ち、ブレードで斬りつけられる直前で機械人形を撃ち抜き動きを止めた。
そのまま倒れていく機械人形を掴んで盾にすると、自身に銃口を向けている機械人形目掛けて突撃。
機械人形の放った光弾は全て防がれ、最後には接近した一成が手に掴んでいた機械人形を投げつける事でその動きを封じる。
そして、一成の身に纏っているパワードスーツ・黒鉄の装甲が展開して銃口が飛び出すと、起き上がろうとしている最初に殴り飛ばした機械人形目掛けて光弾を放ち、その機能を停止させた。
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