第四話
「ふぅ、暗くなる前に見つけることが出来たな。良かった...」
夕陽は切り立った崖の傍に腰を下ろしバックパックを傍に置いた。
「え~と、乾燥した木の枝を組んで...〈マッチの火〉っと。よしついた」
今、夕陽がやったのはこの世界の魔法だ。
この世界で魔法を発動するには3つのことが必要だ。
一つ目は、はっきりとした完成図。簡単に言うとイメージのことだ。曖昧なイメージだと発動しない。
二つ目は、発動するのに必要な属性。例えば、先ほど夕陽が使った〈マッチの火〉は火の属性が必要だ。
属性はほとんどの生物が持っている。何故なら魔と創造の女神の配下にあたる分神がそれぞれの属性を司っており適正が高ければ与えられる。
理由はその判定に善悪は入っておらず、ただ神に反抗するかどうかしか判定に入っていないからだ。
三つ目は、自身の魔力。分神とは言え神の力を行使するには代償が必要なのだ。
この3つが全て満たしていて初めて魔法を使うことが出来る。
「よし、これで落ち着くことが出来るな。野営なんて初めてだか不安だなぁ。あ、そうだ。あの卵出してみようっと」
夕陽は傍に置いていたバックパックから神獣の卵を取り出した。
「うん、やっぱり大きいな。あれ?」
夕陽は大きい卵だなと思いながら見ているとあることに気が付いた。それはちょうど卵の中央辺りをぐるっと一周ひびが入っていたのだ。
「え、もう生まれるの!?早っ!」
そう思いながらも手つきは慎重で落とさないように持っていた。
「さて、何が生まれるのかな?」
そして、タマゴの上部が動き出てきたのは、白銀色のスライムだった。
「スライム?なんで白銀?」
戸惑っている夕陽だがそんなのはお構いなしにスライムはフルフル震えていた。
「かわいい...」
そう声に出すとスライムはこちらにすり寄ってきた。
「どうした?何かあった?」
すり寄って来たスライムにそう声をかける夕陽。
スライムは夕陽の膝に乗ると少し震え動かなくなった。
「ん?寝たのかな?よしよし、かわいいな...」
少し落ち着いた夕陽はこのスライムについて考えだした。
「このスライムが生まれてきた卵は神獣の卵という物だったよね。だからこの子は神獣か。神獣王からのギフトに入っていたし贈り物ってことなんだろうけどなんでだろうな?関りはないし...。とりあえず今わかる事はこのスライムは自分になついていて神獣であるということか。神獣を連れていていいのだろうか?何か決まりがあったら死刑なのかな?流石にないか。いや、異世界だからあり得るな。警戒はしとくか」
夕陽はつらつらと自分の考えを声に出してまとめていった。結局、夕陽は生まれてきたのは仕方ないと割り切って一緒にいることにした。
その考えに行くまでに「一人は寂しい」とか「かわいい」という理由もあった。
「今日はご飯を食べて寝るか」
夕陽はバックパックから食事セットを一つ取り出した。それはよくスーパーに売っている弁当だ。輪ゴムで止めてあり、そこに割りばしが挟んであった。それと一緒に500mlのペットボトルも入ってあった。
「弁当とこれはお茶かな。これが30個あるのか。結構あるな。ん?どうしたの?」
夕陽が弁当の蓋を取るとスライムが起きたようで弁当の傍まで近寄ってきた。
「食べたいの?量的には大丈夫そうかな?はい、あげるよ」
夕陽は小食でそこまでいらないと判断し、スライムにお米を分けて蓋に乗せてあげた。スライムは少し震えると器用にお米だけ吸収した。
「へぇ、そうやって吸収するんだね。おいしかった?」
そう聞くとスライムは近寄って体を擦り付けてきた。それを夕陽はおいしかったのだと判断した。
「ん、良かったよ」
そういうとスライムは夕陽の膝の上に上って寝始めた。夕陽はスライムをゆっくりなでながら食事を進めていった。
――――――――――
「ごちそうさまでした」
夕陽はそう言って食べ終わった弁当の容器をバックパックに入れた。
「ゴミの問題もあるしどうしようかな。まぁ今ここで出来ることはないし寝るかな」
夕陽はバックパックから寝袋を取り出した。
「意外と大きいね、これならスライムも一緒に寝れるかな?」
夕陽は膝の上に乗っていたスライムを寝袋の上に乗せ自分も入った。
「お休み...」
そう夕陽は言い、眠った。
――――――――――
「ん、朝か」
夕陽は体を起こしその時に気づいた。
「あー!異世界の定番やればよかった!忘れてたなぁ。まぁ、外だから天井はないんだけどね」
そう、今回夕陽が眠っていたのは切り立った崖の傍に寝ていただけなので洞窟でもないのだ。
「知らない空だってやれば良かったのかな?まあいいや」
独り言を話していた夕陽の声で起きたのかスライムが近寄ってきた。
「ん、おはよう」
そう、微笑みながらスライムに言った。スライムは近寄り体を擦り付けた。
「さて、どれからどうするかな?取り合えず今日からの行動を決めないとな」
夕陽はスライムの体を撫でながら今後の行動を決めることにした。
「まずは、これまでの復習だな。
まず異世界に来たのは4時間目の授業が終わった時に地面が光りだした。よく見ると魔法陣だったことにきずいた。で、こちら、つまり異世界に来たんだったな。
それからはこちらの世界の状況を説明されて訓練をした。その訓練は得意な武器に分かれて訓練したんだよな。今思えば小説とかでよくなる設定と比べるととてもいいところだったな。
訓練内容は魔職の適性が高かったから主に魔力制御の訓練が多かったな。周りはグチグチ小言を言っていたけどそんなに面倒くさかったのかな?面白かったと思うんだけどな。
他には、属性を使用して魔法を使う練習をしたっけ。あの訓練は盛り上がっていたなぁ。それはそうか、魔法を目に見える形で使えたんだし。あの時は僕もテンション上がったな。
訓練をひたすらやった4日間だったな。そう4日目の夜に死んだんだよなぁ...。魔王軍第0隊隊長ゼルの襲撃か。次は死なない。
そこから神界と言えばいいのかな?そこで女神レイナーナに会い無理やり?神命を与えられたんだよな。強制だったけど、また生きられることには感謝しかないよね。普通生き返る事なんてできないんだから。
で、この森に来た?生まれた?んだよな。そこにギフトももらえた。神命を果たせるためだっただけかもしれないけれど助かったな。
それと神獣王か。このスライムがいてくれるから寂しさがないんだよ。いつか感謝を伝えに行きたいな。
これで復習いいかな?さて、これからの目標を決める...前に朝食を食べるか」
夕陽はバックパックから弁当を取り出した。
「ほら、食べるだろ?あげるよ」
夕陽は昨日の夜と同じ様に弁当の蓋にお米を少しとって分けて上げた。
スライムは喜ぶように震えるとお米を吸収した。
「いただきます」
夕陽はそう呟いて声を出すこともなく淡々と食べた。
「ごちそうさまでした。さて、今後の行動を決めていくか」