新たなる旅立ち
ダニーは久方ぶりに家に戻って妻のナターシャや息子のハリーと過ごす休暇が取れた。というのも旧キングスカンパニーが解体されてから、今の事業を軌道に乗せるまでダニーは各地を営業に飛び回る日々を送っていたからだ。
しかしながら決して家族をないがしろにしている訳ではなく、ごく短時間でも帰宅したり、リモートで連絡を取り合うなどはしている。それでもダニー自身休暇を取ることは中々難しく、代わりにMr.ウルヴァリンが様子見にダニー邸に来ていた。ナターシャは渋い顔をしていたが、ハリーはMr.ウルヴァリンの来訪を喜んでいた為、何となく今でも続いている状態である。
「こうして家族三人揃うのも久しぶりだな」
ダニーが笑顔で食卓を囲む家族を見つめる。ハリーは朝から父親が居るのが珍しいのか、少し恥ずかしそうにしている。ナターシャはそんなハリーを優しく宥め、ハリーとの間を取り持っていた。
「三人だけじゃないだろ?ダニー」
そういうとナターシャが優しく微笑んでやや緩やかに膨らんだ自分の腹を指差した。ダニーは苦笑しながら頷く。一方ハリーは目を輝かせて母親であるナターシャの腹に手を添えた。
「そうだな。腹の君を数にいれなくて悪かった」
「弟かな?それとも妹?」
「それは生まれてからのお楽しみ」
「オオー!もし弟なら名前は今度こそジョン・コナーがいいね!」
小さな食卓ながら家族団らんの幸せな光景が広がる。が、その中から招かれざる客の声が混じっていることにいち早くナターシャが気づき、声の主の方を鋭く睨み付けた。
「…どっから侵入したんだ?え?ドラネコ」
「…Mr.ウルヴァリン…いつの間に」
呆れたような声でダニーが振り向くとニコニコ笑いながらMr.ウルヴァリンがドアの前に立っていた。ハリーはMr.ウルヴァリンに駆け寄って抱き締める。
「めでたいじゃないか。君らも家族がまた増えるし、来月にはストームが結婚式を挙げるらしいし。良いことが続いて何よりだ」
「まあな。とはいえ勝手に入ってくるのは辞めてくれよ」
「いいじゃないか。君らとは家族ぐるみ、というか家族同然の付き合いなんだから」
「ちっとも良くない!!」
しらばっくれるMr.ウルヴァリンにナターシャが突っ込む。ダニーは頭を掻いてハリーとMr.ウルヴァリンの元へと近づいた。
「なあ、Mr.ウルヴァリン。お前さんが此処に来るのに手ぶらな訳がない。一体何の用だ?」
「…さすがだ、サイクロップス君。私の相棒を名乗っているのは伊達じゃないね」
「それ誉めてるのか?」
Mr.ウルヴァリンの言葉で察したナターシャがMr.ウルヴァリンを撫でているハリーを別室へと促す。ハリーを連れてナターシャが食卓を立ったのを見計らい、Mr.ウルヴァリンがゆっくりと本当の目的を語りだした。
「実は先日、日本の首都である東京のど真ん中でドローンを使った大規模なテロ事件が起きた。ちなみに既に事態は収拾済で解決している。ただ…」
「もしやだが、そのテロに使われたドローンがキングスカンパニー製だったとか?」
「うむ、お察しの通りだ。だが我々としてはその可能性は低いと考えている」
「…確かに旧キングスカンパニーが解体された後、ドローン開発部門は解散したし、出荷されていたドローンたちも全て回収されたはずだ。後は既に販売されて各地に行き渡っていたドローンたちだけだが、それにしたって何年も前の旧式。本来であれば全て保証されている稼働年数をとうに過ぎている」
「しかし当局は今のキングスカンパニーがテログループにドローンを提供していたと疑っている。まあキングスカンパニーには前科があるから当局のいうことも分からなくはないが…」
ダニーとMr.ウルヴァリンは旧キングスカンパニーのCEOだったフランク・フリーマンのことを思い出していた。二人にとっては忌まわしい「ウロボロスの終末」事件を操っていた黒幕こそがフランクだったからだ。ダニーたちの活躍で全てが明るみになったが、キングスカンパニーが現在でも汚名を被る原因でもあった。
「で、これからどうするんだ?」
「来週にでもストームが当局に事情を確認するため日本へ発つ予定だ。無論私も付いていく」
「来週って…大丈夫なのか?」
「ふむ。それでだね、サイクロップス君にも同行を願えないかと思ってね」
「俺もなのか?」
「ま、念には念を入れてだ。未だにキングスカンパニーに恨みを持つ連中は多いからね。何処かで狙われないとも限らない」
「なるほど…ボディーガード代わりってやつか」
ダニーはMr.ウルヴァリンの依頼に苦笑した。一方Mr.ウルヴァリンは更に話を続ける。
「あとこれは不確定なんだが、ドローンの提供元について別に目星を付けているところなんだ」
「どういうことだ?」
「キングスカンパニーはこれまで世界最大手のドローン開発企業だった。しかし我々の手で解体された後その勢力図は大きく変わった。今はトリプルE社こと「emperor・electronics・enterprise」がドローン開発製造の最大手となっている。民間はもちろんのこと、軍事目的のものも含めてね」
「トリプルE社…確か以前聞いたことがあったな…。キングスカンパニーの影に隠れてはいたが、あまりいい噂はなかった気がする」
「旧キングスカンパニーの解体後にドローンの開発部門や研究者たちがそのままトリプルE社に移ったといわれている。まあ、我々もあの時はゴタゴタしていたから詳しいことまでは把握していないけど、未だに旧キングスカンパニー時代の技術や研究は継続されているようだ。しかも旧キングスカンパニーを崩壊させた我々に恨みを抱く者も少なくないから我々に汚名を着せる意味でも、今回キングスカンパニーの名を使ってテログループにドローンを提供した可能性も考えられる」
「でもまだ憶測だろ?」
「その通り。それを調べる意味もあって日本へ行くのさ」
ダニーは少し考え込む。Mr.ウルヴァリンもダニーの悩んでいる様子に溜め息をついた。さすがに家庭を持っている以上、無理はさせたくないが、このまま事態を放っておくわけにもいかない。今のMr.ウルヴァリンやミス・ジェーンにはダニーの力が必要なのだ。ダニーは目元のバイザーを少し上げると深呼吸した。
「…分かった。来週だったな。俺もいこう」
「すまないな、サイクロップス君」
「謝るなんてあんたらしくないな、Mr.ウルヴァリン」
「まー、あんまり君を振り回したらサラ・コナーが怒るだろ?」
Mr.ウルヴァリンの回答にダニーは苦笑した。ダニーはMr.ウルヴァリンの頭を撫でると、またミス・ジェーンに連絡する旨を告げた。それを聞いて満足したMr.ウルヴァリンはハリーによろしくと云ってダニー邸を後にした。
ダニーが玄関でMr.ウルヴァリンを見送ると、ナターシャがやってきた。ナターシャはダニーの様子を察したのか、少し心配そうにしている。
「あのドラネコ、もう帰ったのか?」
「ああ、ついさっきね。ハリーはどうした?」
「昼寝してるよ。本読んでいたらウトウトしていたからね」
「そうか、すまない」
「ダニー…ドラネコとの話、実は耳にしたんだが…やっぱり行くのか?」
ナターシャが言い澱む。ダニーは無言で頷いた。ナターシャは溜め息を付くとダニーを優しく抱き締めた。
「全くしょうがない旦那だな」
「迷惑掛けてすまない。ハリーのことを頼む」
「必ず生きて帰ってこいよ。ハリーのことは安心しな。命を懸けて守ってみせるよ」
「…全く頼もしい嫁さんだな」
ダニーは苦笑してナターシャを抱き締め返した。目元のバイザーの奥には蒼色に光る義眼が見える。
「第2ラウンドってところか?」
「まだ分からないよ。でもまだ俺は引退できないようだ」
ダニーがバイザーを上げるとその義眼はゆっくりと赤く変わり強く輝き始めた。
もう少し落ち着いたら続きを書いていこうかと思ってます。まずはその布石ということで…
◆追伸
続編始めました。以下リンク先です。
不定期連載ですが、完走させます。
https://ncode.syosetu.com/n3209hw/




