その11
「俺は見ての通りだが…二人ともどうして…?」
「海兵隊の本営でミス・ジェーンとダニーの通信を傍受していたら突然画面が切り替わって、この戦いが始まるのを見ることになったんだ。ダニーのピンチに指を咥えて見てる場合じゃないと思って、すかさずルーズベルトのオッサンに頼んでこのパワードスーツを拝借したんだ」
「アーノルドが?何というか気前がいいというか…」
「サラがどうしてもって聞かなくてね。私も同行させてもらったのだよ」
ナターシャが得意気にパワードスーツを動かす。Mr.ウルヴァリンは苦笑しつつ、ダニーの元へ駆け寄った。Mr.ウルヴァリンはダニーを見上げて口を開けた。口の中から小さい注射器のようなものが出てくる。Mr.ウルヴァリンは器用に口に咥えるとダニーの右手に渡した。
「サイクロップス君、これを託す」
「コイツは…?」
「切り札だ。しっかり持っておいてくれよ。さてアポカリプス、いやサノスの方が的確か?そろそろお目覚めのようだから私は行くよ」
そういうとMr.ウルヴァリンは急いでナターシャの操縦席へと戻る。ナターシャが操縦席を閉じるとミサイル攻撃を受けたパワードスーツたちが徐々に立ち上がってきた。フランクも四肢を回復するとヨロヨロと立ち上がる。
対してダニーとナターシャは迎撃の構えを取った。ダニーはMr.ウルヴァリンから託された切り札を大事に握る。
「ナターシャ、悪いがパワードスーツたちを頼む。俺はフランクの相手をする」
「あいよ!任せろ!」
ダニーとナターシャは二手に分かれて相手に向かった。ナターシャはバルカン砲と接近戦用の巨大なコンバットナイフをメインにパワードスーツたちを薙ぎ倒していく。パワードスーツたちは物量こそあるが、有人の操縦に比べると動きが単調の為、ナターシャは難なく制圧していく。
ダニーは再びフランクとのタイマンに挑むことになった。フランクは乱入者がダニーの味方であることに気付き、極めて渋い顔を見せている。
「あの黒猫とあの女…ドローン製造工場のときにいた奴等か…全く何処までも邪魔な連中だ…!」
フランクがダニーにパンチを仕掛ける。ダニーは攻撃を受け止めつつ、フランクに蹴りを加えた。しかし先程のカウンター攻撃で蹴りを受けていた為、フランクは全く動じていない。お返しにフランクがダニーの足を掴んで地面に向けて投げつけた。ダニーは受け身を取り、何とか体勢を立て直す。が、蓄積したダメージは大きく膝を付いた。
「ほう…武器は使わんのか?」
「まあな。今更武器を使ったところで義体の傷が塞がったら通用しないからな」
「武器を捨てて、敢えて肉弾戦に拘るか…愚かな!」
フランクが膝を付いたダニーに蹴りを見舞う。ダニーは仰け反りつつも、フランクの顔面にカウンターの蹴りを入れた。フランクの義体に再び傷が付く。
「痛みが走る!?何故だ!!」
フランクはダニーの蹴りに痛覚を覚えたことに動揺する。よく見るとダニーのふくらはぎからスパイクのような棘が露出していた。これに気付いたフランクは苦々しい表情を見せる。
「くっ…き、貴様…まだ足掻くか…」
「隠し玉はここぞというときに使うもんだ、フランク!」
「下らん!貴様の隠し玉など、この義体の前では屁でもない!!」
フランクはダニーにタックルして遥か後方へと吹き飛ばす。ダニーは地面を滑るように倒れた。衝撃で背中に痛みが走る。
「ダニー!?」
慌ててナターシャが近づこうとするが、目の前に先程フランクが呼んだ増援が現れ、ナターシャの行く手を阻んだ。
「くそっ!邪魔だ!!」
パワードスーツたちにナターシャが気を取られている隙にフランクがダニーに近づいた。フランクは足を振り上げ、ダニーを踏み潰そうとする。が、間一髪ダニーは両足のジェットパックを起動して空へと逃れた。
「フン、逃がさんぞ!!!」
フランクも両足からジェット噴射してダニーを追って上空へと向かった。両者の距離は次第に縮まっていく。
「まずい…幾ら肉弾戦を仕掛けたとはいえ、さすがに限界がある。この状況を打開せねば…」
ダニーが空中で思案していると無線からミス・ジェーンの声が響いた。
「ダニー、聞こえる?」
「ミス・ジェーン!」
「ダニー、今総会の会場に着いて、フランクの本体があるサーバを探しているのよ。でも…ウィルソン相談役やマーカス支社長に聞いてもセキュリティが強固過ぎて本社のサーバルームに近づくことすら出来ないわ…」
「マジか…万事休すってとこか…」
ダニーは自身の旗色が悪くなっていることに焦りを感じる。しかし、ミス・ジェーンの声のトーンは不思議と落ちていなかった。
「ダニー、これから私は最終手段に打って出るわ」
「最終手段?」
「サーバルームに入れないのなら…このタワービル全体の電源を落とす!」
「まさか停電させる…?」
「その通り。フランクの本体と義体の接続を遮断するのよ」
「なるほど…いいアイディアかもしれない…」
ダニーの中に一つの勝算が見えてきた。しかし、ミス・ジェーンからは思わぬ注意が飛び出した。
「でも一つだけ気をつけて。ビル全体が停電した際に緊急事態に対する補助発電システムが自動的に作動する仕組みになっているの。仮にフランクの本体と義体の接続を遮断できたとしてもシステムが作動したら直ぐに復旧されるわ」
「…停電から補助発電システムが作動するまでの猶予は?」
「一分よ。勝負は一分間」
ダニーは右手に握り締めた切り札を眺めた。ダニーはある覚悟を決め、ミス・ジェーンに通信する。
「それで十分だ」
「停電させるときは合図するわ。それまで何とか持ちこたえて!」
ダニーがミス・ジェーンからの通信を切ると背後からフランクの義体が迫った。フランクはダニーの左足を掴む。
「追い駆けっこはお仕舞いだ、ダニー!!」




