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キングブレイカー  作者: 43番
第五章 彼女の嘘と王国からの招待状
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その9

 時間は進み、キングスカンパニーの株主総会当日を迎えようとしていた。



「準備はできたかしら」



 ミス・ジェーンがシックなスーツに身を包み、株主総会の招待状とフランク告発の為の証拠を揃えたノートパソコンを小脇に抱えて、ダニーが来るのを作戦指令室で待っている。



「あ、ああ……お待たせ…」



 何とも元気のない声でダニーが入室してきた。その後ろではMr.ウルヴァリンとナターシャが必死に笑いを堪えているのがチラリと見えた。



「なあ……ミス・ジェーン…この格好、もう少しどうにかならなかったのか……?」


「あら。思いの外似合うわよ、ダニー」



 ミス・ジェーンはニッコリと笑った。ミス・ジェーンの笑顔に対し、ダニーは頬を引きつらせながら笑顔を取り繕う。


 今回の株主総会はキングスカンパニーの幹部や大株主たちが一同に会する場である。この為ドレスコードも厳しく設定されており、最低限のTPOに準拠した格好を求められている。


 しかしながらダニーは元々厳かな場に対応するような礼服を持ち合わせていないばかりか、この度の戦闘で体の半分以上が義体になっていた。いくら特例で株主総会に同行するにしてもアイアンマンのようなサイボーグの姿で出る訳にもいかない。


 そこでミス・ジェーンが用意したのは007(ジェイムズ・ボンド)が着るようなビシッと決まった黒のタキシードと蝶ネクタイだった。それをダニーが着用したのだが…



「…どうやっても…サイズが全然合っていないぞ……パッツンパッツンじゃないか……」



 ダニーの言う通りタキシードがピッタリ過ぎて今にもはち切れんばかりの状態である。似合う似合わないの次元ではないほど、今のダニーにはキツキツだった。しゃがめばズボンが尻から裂けそうだ。



「……よ、よく似合うよ……ダニー……ククククク…」


「サ、サイクロップス君…中々…様になっているじゃないか……プププ…」



 Mr.ウルヴァリンとナターシャがからかうようにダニーの容姿を誉める。ダニーは膨れっ面で「どうも」とだけ返した。他の海兵隊の隊員たちもダニーの姿に唖然としてどうリアクションしていいのか分からない状態であるが、何とか気を取り直してミス・ジェーンと作戦のことで相談を始めた。



「道中何があるか分かりませんので、我々海兵隊が責任を持ってお二人をキングスカンパニー本社へ送り届けます」


「ありがとう。本社内は私たちしか入れないけど、様子が分かるように小型の集音マイクをダニーに、カメラを私のメガネに仕込むようにするわ」


「了解です。で、我々はどうすれば…」


「できたらキングスカンパニーの本社周辺に配備してほしいけど、何を仕込んでいるか分からないからキングスカンパニーの工場や支社を見張っていてちょうだい。フランクのことだから告発したとしても只では認めないはずよ…」


「承知しました」



 隊員がミス・ジェーンに敬礼した。ミス・ジェーンは微笑みながら隊員たちに頭を下げる。と、そこへ一台の車イスがやって来た。乗っているのはアーノルド・ルーズベルト少佐だった。



「アーノルド…!」



 ダニーはルーズベルト少佐の姿を見て慌てて立ち上がった。隊員たちは一斉に敬礼する。ルーズベルト少佐は隊員たちに楽にしていい、と手で合図する。



「アーノルド…此処に来て大丈夫なの?」


「ご心配は無用、ミス・ジェーン。貴女のお陰で何とか車イスで移動できるまでは回復できた。とは言うものの無断で出たから医者から大いに怒られるだろうがね」


「無茶なんかして…」


「今回の話を部下たちから聞いた。いよいよ敵本陣に行く、と」


「ええ、でも肝心の「キングブレイカー」の完成がまだなのよ。何とか時間稼ぎが出来るといいけど」


「大丈夫。我らが海兵隊の情報部は優秀だ。必ず貴女の助けになる」


「ありがとう、アーノルド」



 ミス・ジェーンがルーズベルト少佐にニッコリ微笑む。ルーズベルト少佐もミス・ジェーンに敬礼した。ダニーはその様子を不思議そうに眺めている。



「意外だな…」


「何がだ、ダニー・マードック」


「あんたもそんな優しい表情するんだなって」


「本当は部下の前で見せることはしないが、彼女は命の恩人だ。無下には出来ん」



 ルーズベルト少佐はやや紅潮してダニーに返した。ダニーはやれやれと呟いてルーズベルト少佐の前に右手を差し出した。



「何の真似だ?」


「あんたと正式に和解してなかったな、って」


「今更か」


「恩讐の彼方に、というのか。もう俺の中では蟠りは消えたよ」


「フン」



 ルーズベルト少佐は無言でダニーに右手を差し出し、握手した。Mr.ウルヴァリンは二人の様子を感慨深げに見守った。



「ようやくサイクロップス君とキングピンが手を結んだね。正に歴史的瞬間ってやつかな」


「それは大袈裟だ」



 ダニーは微笑みながらMr.ウルヴァリンに突っ込んだ。すると、



「さ、そろそろ出発の時間よ」



 ミス・ジェーンが腕時計を見ながら呟いた。ダニー、Mr.ウルヴァリン、ナターシャ、ルーズベルト少佐、そして海兵隊の隊員たちの表情が一気引き締まった。海兵隊がダニーとミス・ジェーンを送り届けるヘリを準備を始めた。ダニーとミス・ジェーンもヘリポートへ移動しようとしたとき…



「ダニー!」



 ナターシャがダニーをヘリポートへの出入口手前で呼び止めた。ダニーがビックリして振り返る。ナターシャはダニーの前に拳を突き出した。



「ダニー、必ず生きて帰ってこいよ…!」


「ああ、約束するよ!」



 ダニーも笑ってナターシャにグータッチしようとする。すると、突然ナターシャはダニーを自分に抱き寄せて口付けした。ナターシャは顔を赤らめながら、してやったりの顔をすると直ぐに戻っていった。残されたダニーは頬を紅潮させ、しばし呆然としていた。



「ダニー?出発準備できたから、早く乗ってちょうだい」



 ミス・ジェーンからの言葉に我に返ったダニーは慌てて海兵隊のヘリに乗り込んだ。

これにて第五章完結です。

次回より最終章突入です。

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