その6
「そう、ね。そろそろ貴方たちには本当のことを話さないといけないときが来たわね」
ミス・ジェーンはふうっと深呼吸をして自身を落ち着かせた。全員がミス・ジェーンの挙動を見守る。
「あの白猫…ペニーの言う通り、私の本名はジャネット・シーラン・キング。…キングスカンパニーの創業者であるジェイムズ・デイビッド・キングの一人娘、よ」
「なっ……!!?キングスカンパニーの創業者一族なのか…?し、しかし前に俺にサイバネティックスの道に進んだ理由を教えてくれたときには父親は優秀な警察官だったって……」
ダニーが思わず身を乗り出してミス・ジェーンを問い詰める。ミス・ジェーンは俯いて右腕に巻かれた時計を見た。時計には綺麗な細工が施されており、文字盤の脇には小さなキングスカンパニーのロゴがあった。
「ダニー…あの時は嘘を付いてごめんなさい。本当に貴方には申し訳ないことをしたわ…。でも今の私はキングスカンパニーとは無関係…父の死と共に私はキングスカンパニーを追放され、生活の全てを今のCEO、フランク・フリーマンに奪われた。残った父の遺産はこの時計だけよ…」
「そう、だったのか…でもこの事実を隠そうとしたのは何故だ?」
「…私の存在はフランクにとって目の上のたんこぶになるからよ。私個人としては全く経営とか興味ないし、生活に支障が無ければ良かったんだけど、彼はそれすら許さず命まで狙われたのよ」
「…命、まで?」
「そう、結局私はジャネットの名を捨て、ミス・ジェーンとして生きる道を選んだ」
「待ってくれ、ストーム。一つ疑問があるんだが」
「なあに?Mr.ウルヴァリン」
Mr.ウルヴァリンが前足を挙げて徐にミス・ジェーンとダニーとの会話に割り込んだ。
「正直私自身、全くその辺の記憶がなくて気付いたら君と一緒にいる気がしたんだが」
「それなら簡単な理由よ。「ウロボロスの終末」事件以前の貴方の記憶を消したからよ」
「……なっ、何故そこまでするんだい?」
「どこから…情報が漏れるか分からないからね。念には念を入れたのよ」
「でも…そこまで徹底して身分を隠そうとしたなら、どうして今危険を冒してまでキングスカンパニーと戦おうと思ったんだ?」
「それは…「ウロボロスの終末」事件が切欠よ…あの事件のとき、私は記憶を消す前のMr.ウルヴァリンと一緒にいたのよ。「キングブレイカー」の原型となるコンピュータウイルスが蔓延し、多くの人が傷付く姿を目の当たりにした。私の大切な友人であるMr.ウルヴァリンも暴走して押さえるのに必死だったわ。事件についてどうしても腑に落ちない部分があって危険を承知で真実を追い求め始めたのよ…」
「そんな過去がミス・ジェーンにあったなんて…」
「自分の父親が作った会社をあそこまで滅茶苦茶にされた上に自分の命まで脅かされたなら動かざるを得ないな…」
ダニーとナターシャは言葉を失う。だが同時に内に込み上げるものがあるのに気付いた。ダニーとナターシャはお互いに顔を見合わせて頷く。
「ミス・ジェーン、俺たちは最後まであんたと行動を共にするつもりだ。例えどんな過去があろうが、それは関係ない。必要なのは今と、そしてこれから、だ。」
「あたしもダニーと同感だよ。あたしたちはチームだからね」
「…ありがとう、二人とも…」
ミス・ジェーンは目頭が熱くなったのか静かに拭った。ダニーとナターシャは同時に手を差し出す。ミス・ジェーンは二人の手をしっかりと握って顔を合わせた。
「改めてよろしく、ミス・ジェーン」
「こちらこそ、よろしく」
すると、脇からMr.ウルヴァリンが割り込んできた。どうも仲間外れにされたような気がしたらしい。
「私のことも忘れないでくれよ、諸君」
「ハハッ、ごめん。Mr.ウルヴァリン」
三人揃って笑い合う。Mr.ウルヴァリンは頭を掻いてやれやれと舌を出した。
そしてミス・ジェーンは再び深呼吸をして落ち着くと、先の海兵隊との話し合いで決まったことを三人に説明することにした。




