その5
ミス・ジェーンことジャネットは白猫の言葉に黙って頷いた。ダニーたちは白猫とミス・ジェーンの関係に理解が追い付かないのか、動揺している。ミス・ジェーンは白猫を睨み付けて前へと出た。
「…死者が今更私に何の用?」
「今度夫…フランクが大規模な集会を開く予定なのよ。是非とも貴女をお招きしたいと思ってね」
「…今のキングスカンパニーの内情について私はもう関係ないわ。とっとと出てってちょうだい!」
ミス・ジェーンが声を荒げて白猫を追い出そうとする。白猫は首を傾げてミス・ジェーンを見据えた。
「フランクは独断で私設軍を動かした件や軍の上層部との癒着、そして大規模なドローン工場の設営に際して幹部たちや株主たちから突き上げを食らっている状況よ。今回の集会は彼等に釈明するための大株主総会といった感じね」
「キングスカンパニーの大株主総会…」
「貴女に参加してもらいたいのはフランクと直接会って証明してほしいのよ。「キングブレイカー」の存在を」
「……!!!」
白猫から出た「キングブレイカー」の単語にその場にいた全員が息を飲む。まさか敵本陣に直接乗り込む形となろうとは…
「何故貴女がそれを知っているの…?」
「あら?アレックスから何も聞かなかったのかしら?元々は私が偶発的に作り出したものを彼が再現しようしていたのでしょう?「キングブレイカー」は彼が付けた名前だけど、ウイルスの存在は承知しているわ」
「……アレックスは……どうしているの…?」
「彼は死んだわ」
ペニーの告白にミス・ジェーンが言葉を詰まらせた。重苦しい空気が部屋中に広がっている。誰しもがミス・ジェーンの動向を固唾を飲んで見守る中、ミス・ジェーンは腰を屈めて白猫に視点を合わせた。
「……貴女の望みは何?」
「別にないわ。私はフランクを助けたいだけ」
「だからといって…敵対者をわざわざ呼ぶ?」
「…貴女はキングスカンパニーに必要な人材よ。此処で埋もれるには惜しいわ」
「余計なお世話よ」
「で、どうするの?ジャネット」
「………いいわ」
少し間を置いてミス・ジェーンが白猫に了承の言葉を投げた。白猫はミス・ジェーンの回答に満足したのかニッコリと微笑んでいる。対してミス・ジェーンは白猫を見据えたまま、表情を緩めていない。
「ただし、参加するには条件があるわ」
「何?」
「同行者として彼も参加させてちょうだい」
ミス・ジェーンはダニーを指差して白猫に条件を突きつけた。白猫は勿論ダニーたちもミス・ジェーンの発言に驚いている。
「…どうして彼なの?」
「敵の本陣に行くんだもの。どんな罠があるか分からないからね。ボディーガードよ」
「…信用されてないわね」
「お互い様よ」
白猫は少し悩んでいたが、時間を掛けられないとしてミス・ジェーンの要求を飲むことにした。
「仕方がないわね。同行者を認めるわ」
「ご理解ありがとう」
「招待状は後程メールにて送らせてもらうけど、日程は一週間後の午後一時から、場所はキングスカンパニーの本社35階の大会議室。招待状を忘れないでね。幹部や株主が多数集まるから大所帯よ」
「分かったわ……一週間後ね」
「本来ならもう少し早く開催したかったけど、フランクがごねて、ね。まあ仕方ないわ」
白猫は溜め息を付くとドアの向こうへ歩を進めた。ダニーはパルスキャノンを向けているが、白猫は構うことなく悠然と部屋から出ていく。
「ジャネット、当日楽しみにしてるわよ」
去り際に白猫はミス・ジェーンに呼び掛けた。ミス・ジェーンは返事することなく、全員黙って白猫が去るのを見送った。
白猫が去ると同時に全員が緊張が解けたのか、その場にどっとへたり込んだ。余りのことにまだ理解が追い付いていない状況である。
「ミス・ジェーン……聞きたいことがあるんだが大丈夫か?」
ダニーが沈黙を破ってミス・ジェーンに話し掛けた。ミス・ジェーンはゆっくりと頷く。
「さっきの白猫の話を聞いて疑問に思ってたんだが、……あんたは、一体何者なんだ……?」
ダニーの質問に対してMr.ウルヴァリンもナターシャも黙ってミス・ジェーンに顔を向けた。全員の視線に対してミス・ジェーンは観念したかのように立ち上がった。




