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キングブレイカー  作者: 43番
第一章 ダニーとウロボロスの終末
7/97

その7

(全くわが人生最悪のクリスマスイブだな)



 味方のヘリからのミサイルに撃墜され、無様に落下していく中、ダニーはボンヤリとこれまでの人生を振り返っていた。


 思えば昔からクリスマスイブにロクな思い出がない。子供の頃、親父に海兵隊の任務を理由に約束をすっぽかされた上、結局プレゼントすらもらえなかったのを皮切りにハイスクール時代には当時付き合っていた彼女が浮気していたことが発覚した。

 しかもデートの最中、夜景をバックにムード漂う最中にである。おまけにダニーとの付き合いは遊びで他に本命の男と二股を掛けていたのであった。



(ああ、これが世に言う走馬灯というやつか。ということは俺はもう死ぬんだな…死の瞬間まで嫌な思い出がフラッシュバックするなんて、俺の人生は本当にロクなもんじゃなかったか…)



 時間にしてホンの数秒足らずのことだろう。だがダニーにとって永遠ともいえる長さに感じた。



(ライナス、ちと早いが向こうで待っててくれ…)



 ガサガサガサガサっと森の木々の激しく揺れる音がダニーには聞こえてきた。次の瞬間、体に強烈な衝撃が走り、ダニーは意識を失った。


 ……………



「…生きているのか?」


「心音は確認したわ。傷は深いけど、パワードスーツのおかげで何とか命に別状は無さそう」


「意識の方は戻らないか?」


「脳波は安定しているんだけどね…最悪植物状態のままかもしれない」


「そうか…どうしてもの場合は生命維持装置を切るのもやむを得ないな…」



(……誰だ…俺は死んだんだぞ。誰かの話し声が聞こえるなんて…撃墜されて森の奥に落下したはずだ…もしやここは地獄か?生前の行いは決して良くはなかったが、それでも地獄に堕ちるのは勘弁願いたいもんだ)



「おや、何か脳波に反応があるぞ?」


「どうやら意識が戻り掛けているようね」



 見知らぬ人間の会話にダニーはゆっくりと目を開いた。


 眩しい!!手術台にあるような大型の照明だろうか、バイザーがあるとはいえ目の奥に強烈な光が射し込んでくる。ダニーはもう一度薄目をゆっくりと開いた。

 やはり此処は手術台のようだ。自分は横たわっている。しかし体を思うように動かすことができない。意識が徐々に戻ってくると共に全身の痛みも蘇ってきた。今のダニーの体では目を開けることがやっとだった。



「こ、こ、…ここ…は……」



 ダニーは絞り出すように声を上げた。しかし声を出す度に喉に激しい痛みが襲った。



(ダメだ、これ以上声を出せない…一体ここはどこか、自分は助かったのか、言いたいことは山ほどあるが、どうやっても伝えられない……)



「おやおや、気がついたようだね」



 ダニーの眼前に黒い影が現れた。ダニーが声の主の顔を拝もうと目を凝らすとその影の頭部にやや尖った耳が見えた。驚いたダニーは数回瞬きの後、もう一度目を凝らした。よく観察すると声の主は人間ではない。



 …猫!!?それも毛並みのよい黒猫である。



「私を見て君が驚くのも無理はないな。こちらとしても説明しなくてはならないことが山ほどあるんだが、今の君の状況を察するにコミュニケーションを取ることが非常に困難だろう。そこで、だ」



 黒猫はダニーの視界から消えると再び配線のようなものを持って現れた。そしてダニーの頭に器用に口で配線の先のプラグを取り付けた。



「これでいい。喋らなくていいから何か頭の中で思い浮かべてくれたまえ」



 ダニーはこの猫、何をいっているんだ?と特大のクエスチョンマークを脳裏に浮かべた。



「なるほど「この猫、何をいっているんだ?」か。君の疑問は最もだ、うん」



  !!!



 ダニーは声に出せないほどの衝撃を受け、思わず体を浮かしかけた。



「心配はいらない。これは人間の脳波を解析し、思考を読み取る機械だ。これで喋らなくても君と会話ができる」



 何て難儀なものを…ダニーは脳裏に言葉を浮かべた。



「ま、やむを得ない処置だよ。でもこれで君が知りたいことを聞き出せるだろ?さっ、遠慮はいらないから何でも話してくれたまえ」



 黒猫が横たわっているダニーの胸にひょいと飛び乗った。

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