その6
「こちらアーノルド・ルーズベルト少佐だ。ダニー・マードック3等准尉、改めて今回の作戦の成否の報告をせよ」
「サー、イエス、サー!」
ダニーは少佐のヘリの前で条件反射的に敬礼した。
「サー、今回の作戦につきまして目標となるテロリスト集団『ウロボロスの終末』は駆逐し、任務完了しました。この野戦病院跡地に潜伏していたと思われるメンバー全員の死亡を確認しております。しかし…」
「どうした?先を続けたまえ」
ダニーは口をつぐみかけた。今回の作戦は途中までは確かに成功していた。だが直後に思わぬ罠によってライナスを含む自分以外の隊員が全滅してしまったのだ。海兵隊の司令部にもダニーたちの惨状に関する無線は届いていたはず。今到着したヘリたちはこの不測事態に伴う援軍ではないのか?
「失礼しました、サー。テロリストたちを駆逐した直後に突如奴等が所有していたと思われるドローン兵器の自爆攻撃を受けました。その結果、自分以外の…隊員たちは全滅しました…」
ダニーは言葉を絞り出すように少佐への無線に応答した。少佐からの返事はなかった。が、突如ヘリのミサイル砲台が口を開く。
それも一機だけではなく、援軍に来たと思われる三機全てがダニーに向けてミサイルの発射態勢に入った。ダニーは予想外の事態に動揺を隠しきれない。
「サー?!」
ダニーが無線に呼び掛けたときに少佐のヘリからミサイルがダニーに向けて発射された。ダニーは反射的に後ろに振り返り、全速力で駆け出した。
多少破損しているとはいえパワードスーツの出力は生きており、生身のときの数倍の速度で走ることができた。それでもミサイルのスピードには敵わず、地面に着弾した衝撃でダニーは吹き飛ばされた。
「馬鹿な!!?俺は味方だぞ?」
ダニーの呼び掛けも虚しく、ミサイルの第二陣が発射されようとしていた。
「サー!いや、ルーズベルト少佐!どういうことですか?」
「残念だよ、ダニー・マードック3等准尉。やはり貴様が裏切り者だったとは。」
「裏切り者!?」
「今回の作戦にあたり決行直前にテロリスト側に情報が漏洩していることが判明した。しかも作戦概要のみならず、今回初投入されたパワードスーツに関する詳細な情報もだ。海兵隊の情報部にて漏洩に関する解析を行ったところ、貴様が所有しているIDから外部へ情報が出ていたのだ。勿論確証は挙がっており、訴追準備も完了している」
「…嘘だ、濡れ衣だ!!!」
「貴様だけ生き残ったのが何よりの証拠だろう」
「違う!!俺が、生き残ったのはあいつが、ライナスが…俺を庇って…」
ライナスの最期が脳裏に過り、ダニーはこれ以上言葉を発することができなかった。
「反論できないということは自分が裏切り者であることを認めるということだな。貴様は海兵隊の汚点であり不名誉除隊は免れん。大人しく拘束されることだな」
少佐からの無慈悲な言葉に対し、ダニーはパワードスーツの首もとからドッグタグを取り出した。
「親父…すまねぇ。俺はもうあんたのような英雄にはなれない。あんたとは違う道を生きていく!」
ダニーは一思いにドッグタグを引きちぎると地面に投げ捨てた。そして再び立ち上がり、パワードスーツのジェットパックを起動させ、飛び上がった。
「逃がさん!!」
少佐のヘリから間髪いれずミサイルが発射される。ダニーは振り返ることなく、跡地の先にある森へと全速力でジェットパックを飛ばした。
『警告します。パワードスーツのエネルギーが不足しております。この状態のままジェットパックの使用を続けますと10分後には墜落します。至急エネルギーを補給してください。繰り返し警告します。…』
「黙れ黙れ黙れ!いいから翔べ!バラバラになろうが構うか!つべこべ言わず翔ぶんだ!」
ダニーはパワードスーツのAIに向かって絶叫し続けたが、無惨にもパワードスーツにミサイルが着弾し大爆発を起こした。
「ぐああああああ…!」
ダニーはパワードスーツごと森の奥深くへと落下していった。