その7
ナターシャからの呼び掛けに応じるようにサザンカは戦車の残骸から地上に降り立った。深紅に塗られた頭部のプロテクター越しからもサザンカの怒りに満ち溢れた感情が読み取れる。
「随分と遅かったじゃないか。あんたの部下たちは先に地獄に送ってやったよ。連中が向こうで寂しくならないようにあんたも直ぐに後を追わせてやるさ!」
「この女……これ以上調子に乗るなよ……!!」
「フン、この状況を招いたのはあんたの自業自得だろうが。あの時あたしにトドメを刺していれば良かったものを」
「抜かせエエ!!もう次はない、この手で貴様を叩き斬る!ブラッディ・レイン!!」
サザンカが背中に差した黄金色の鞘から日本刀を抜いて構えた。ナターシャの方も応戦の構えを取る。両者がジリジリと間合いを詰め、一定の距離まで来たときにピタリと止まった。
次に動いた瞬間に決着が付く。そんな張り詰めた緊張感が辺り一面に漂う。遥か向こうではダニーとMr.ウルヴァリンがキングスカンパニーの私設軍相手に大暴れしているが、それと対比するように二人の周りには不気味な静寂が訪れた。
しばしの沈黙の後、両者は一斉に動いた。双方の一太刀目がほぼ同時にぶつかる。衝撃で刀身には火花が散り、金属の擦れる耳障りな音が響く。
前回の戦いの際は終始サザンカに圧されていたナターシャだが、今回は鍔ぜり合いもほぼ互角の状況である。ナターシャの善戦を意外に感じたサザンカは一旦刀を引き、距離を取った。
「貴様……随分と腕を上げてきたようだな」
「あたしがあれから泣き寝入りしたままだと思っていたのか?そんな驕りがあるから部下も信用も失うんだよ」
「フッ、あんな連中のこと等どうでもよい。元々無能な奴等だ。生きていようが、死んでいようが興味はない」
「とんでもないパワハラ上司に当たったみたいだな。本当、奴等に同情するわ」
「うるさい!!その減らず口を黙らせてやる!」
サザンカはナターシャに先の戦闘のような連撃を繰り出した。スピードは確かに変わらず速いが、以前のように追い付いていけないほどではない。ナターシャは冷静に動きを見極めて一太刀一太刀を捌き、サザンカの隙を突いて真一文字にカウンター攻撃を加えた。
「なにぃぃ!!!?」
サザンカが瞬時に体を退いた為、決定打は与えられなかったものの腹部から血が滴り落ちたのが分かった。サザンカは自分がダメージを受けた事実に驚愕している。
「…どうした、サザンカ?自分の血が流れたことが信じられないのか」
「ぬっ……おのれえええええ!」
「次はこっちから行かせてもらうぜ!」
ナターシャが刀を振り上げ、サザンカに斬り掛かった。が、サザンカに刀が当たる瞬間にナターシャは突如向き直り、真逆の方向に刀を振った。
手応えあり。ナターシャの眼前には先ほどまで背後に居たはずのサザンカが立っていた。ナターシャの一撃で頭部のプロテクターが割れて落ち、額からは鮮血が吹き出していた。サザンカはまだ自分の身に起きたことが信じられない様子である。
「あの時は頭に血が昇っていたから分からなかったけど、タネを明かせば随分と陳腐なトリックだったんだな」
ナターシャの足元には先の攻撃で割れたプロテクターが落ちており、断面からは火花が上がっていた。断面を良く見ると催眠作用の電波を発する装置が確認できる。ナターシャはプロテクターを踏み潰してサザンカを睨み付けた。
「なるほど、このプロテクターの装置で相手に幻覚を見せた隙に死角に回り込んでいたって、訳か」
「チッ、トリックがバレちまったようだな……さすが、ブラッディ・レインと言われるだけはあるな」
「もうあたしに小細工は通用しないぜ。立ちな、今度こそ終わりにしてやるよ!!」
ナターシャが刀の切っ先をサザンカに再び向けた。サザンカは乱れた黒髪をかき上げ、額の血を拭うと不気味に笑い、刀を構えた。
「そうだな、ブラッディ・レイン……次の一太刀で決めよう……」




