その2
ダニーが仮眠を取るためにベッドのある部屋に戻るとナターシャがベッドに座って自身の日本刀を握っていた。
「ナターシャ、起きていたのか?」
ダニーが驚いて声を掛ける。ナターシャもダニーに気づいて日本刀をベッドに立て掛けた。その表情はどことなく暗い。先のトレーニングのことが気になっているのだろう。
「まだサザンカに勝てる自信がなくてね…どうしてもあの戦いのことがトラウマになっているようだ」
「確か攻撃が通用しないとかいっていたな」
「ああ。当てた感触は間違いなくあったんだ。でも気づくと既に死角に回り込まれている。何度やってもダメージを受けた様子もないし、こちらが疲弊するのに向こうは平然としている。どうにもお手上げだ」
「…もしかしたらだが、何かしらトリックがあるんじゃないか?」
「トリックか……あのときの感覚を考えると、あながちあり得なくはないかもな…とにかく何とか突破口がないと、どうにもできないな」
ダニーとナターシャは揃って頭を抱えた。確かにトレーニングを続ける中で二人ともレベルアップはしているだろうが、どういうトリックがあろうが、肝心の攻撃を当てられなければ意味はない。加えてサザンカ以外にも配下の忍者部隊も控えている。全員を相手にするには、なるべく体力は温存しておかなくてはいけない。
「どうしても…頭数はこちらが不利だな…」
「ナターシャはサザンカのみを狙って行け。後は俺が引き受ける」
「任せて大丈夫か、ダニー?幾らサザンカよりも格下とはいえ、忍者部隊はかなりの手練れだぞ?」
「一応あんたと一緒にトレーニングしてきて、少しは出来るようになったと思うんだ。自惚れかもしれないけどね」
ダニーは苦笑しながら自身の体を眺めた。四肢は機械の義体となり、あちこちに武器を内蔵している。更に両目も義眼にしてからレーダーやサーモグラフィが使えるようになっている。
「お互いに先ずは体力温存だ。もしものときは俺がナターシャを援護する」
ダニーはナターシャを見てニッコリと微笑んだ。ナターシャはハッとして顔を紅潮させると、そっぽを向いてベッドに転がった。そしてタオルケットを頭まで覆って丸くなった。
「……ありがとよ、ダニー……」
ナターシャが照れ臭そうに礼をいうと、ダニーも安心して隣のベッドに横になった。しかし…
「あっ!!」
ダニーは思わず声を上げた。ダニーの声に驚いてナターシャが飛び起きる。
「何だ、何だ?敵襲か?!」
「い、いや大事なことを忘れていて……ミス・ジェーンからそろそろ拠点を移動するから準備を進めてほしい、といわれていたんだった。ま、休んでからでも大丈夫だよ」
「脅かすなよ。心臓に悪い」
「ごめん…」
ダニーが素直に謝るとナターシャはイタズラっぽくクスクス笑った。ダニーはばつ悪そうに頭を掻いた。
「確かに連中が此方の居場所を掴んでいてもおかしくないから、この拠点を棄てるのは賢明な判断だな」
「ある程度の設備は他の拠点にもあるそうだから最小限の荷物でいいと思う。とりあえずは一旦休もう」
「だな。おやすみ、ダニー」
「おやすみ」
そういうとナターシャとダニーはしばしの眠りについた。が、それから数時間余りかダニーは不意に目が覚めて、ベッドから立ち上がった。ナターシャはまだ疲れているのか、スースーと寝息を立てている。
ダニーは何かの気配を感じて、部屋の中を見回した。すると扉の先に怪しく光る目が見えた。
「誰だ!!?」
ダニーはナターシャを起こさないよう、小声で光る目に向かって叫んだ。光る目は数回瞬きするとダニーに近づいてきた。身構えるダニーだが、光る目が自身の間合いに入ったとき、即座に警戒を解いた。
「私だよ、サイクロップス君」
「……何だ、Mr.ウルヴァリンか」
「そんなにガックリしなくてもいいだろう」
「休んでいるときに脅かさないでくれよ。敵襲かと思ったぞ」
「いや……そのまさかなんだよ。このアジトの回りに複数名の気配を感じたんだ。暗視ゴーグルモードとサーモグラフィモードで確認したが、どうやら間違いない。サラのいっていた忍者たちのようだ」
「……となると……、既に侵入している…!?」
ダニーは両腕に仕込んだ武器を射出してミス・ジェーンのいる隣の部屋へ向かった。隣の部屋ではミス・ジェーンがパソコンを閉じて移動の準備をしている。傍らにピストルのようなものがあるのは侵入者の存在に気づいているからだろう。
「ダニー、ナターシャは?」
「まだ寝ている。やはり侵入者か?」
「急いで起こして!彼方の動きの方が早かったようね」
ミス・ジェーンがダニーに話し掛けていると、天井から物音が聞こえてきた。ネズミとは言い難い激しい移動音である。おおよそ大人四、五人といったところか。もっと居るのかもしれない。
「来るぞ……!二人とも!」
Mr.ウルヴァリンが天井の換気孔の蓋の動きを睨み付けて叫んだ。




