その1
この回から第四章です
ダニーらがキングスカンパニーの地下研究施設から脱出してから一月程経とうとしていた。その間、ダニーとナターシャはリハビリとトレーニング。ミス・ジェーンはキングブレイカーの生成とダニーらのメンテ。そしてMr.ウルヴァリンは情報収集とそれぞれに役割を見いだし、来るべき戦いの時に備えて着々と準備を進めている。
「今日はこのくらいにしようか?ナターシャ」
「はあ…はあ……いや、まだやれる……」
「ある程度動けるようになったとはいえ、流石に息も上がっているし、一旦休んだ方が…」
「もう少し付き合ってくれ、ダニー」
ナターシャとダニーが手合わせしながら会話を続ける。ナターシャは大振りの日本刀、ダニーは右腕の前腕に仕込んだレーザーブレードをそれぞれ手にしている。二人は間合いを取った後、再び手合わせを始めた。とはいうものの、攻撃を仕掛けるのはナターシャ、ダニーは基本的に防御に徹し、対サザンカ用の策を練っているところである。
しかし、何度攻撃を仕掛けるシミュレーションをしてもサザンカに通用する自信がなかった。
攻撃を当てても寸前でかわされる以上、やはり何かしらの策を弄しているとしか思えない。
そうこうしている内にナターシャの動きが止まり、その場にへたりこんだ。体力の限界が来たらしい。ダニーはレーザーブレードを前腕に納めるとナターシャに駆け寄る。
「大丈夫か?やはり今日はこのくらいにしよう。思っているよりも疲労している」
「うっ……すまない。忠告通り少し休むよ」
「立てるか?きついなら肩を貸そう」
「もう少ししたら歩けるから大丈夫…」
「いや、隣の部屋まで連れていこう」
ダニーはナターシャの右腕を自分の肩に回してゆっくりと立たせた。そして励ましながら隣の部屋への扉を開いて入っていった。
そんなダニーとナターシャの様子をミス・ジェーンが心配そうに眺めている。ミス・ジェーンもキングブレイカーの生成を進めているが、煮詰まっている状態が続いている。
開発者のアレックス・ローが苦戦していた以上、「キングブレイカー」の早急の完成はかなり厳しいものになりそうである。ミス・ジェーンの眉間にシワがよる。
「皆、荒れてるね。ま、この状況じゃ仕方ないか」
ミス・ジェーンの足元からMr.ウルヴァリンが声を掛ける。どうやら散歩…もとい偵察から戻ったようである。
「見ての通り中々儘ならない状況よ。コードの配列が特殊すぎて、私一人で解析するには膨大な時間が必要になりそう。もう少し情報解析に精通したエキスパートが何人かいるわね」
「ガンビット辺りに誰かいないか当たろうか?」
「当てがあればね。でもキングスカンパニーや軍部に目を付けられている以上、下手に行動できないわ。とっくに指名手配されているかもしれない」
「またまた、私はそんな間抜けじゃないよ」
「そうかしら?」
ミス・ジェーンがMr.ウルヴァリンに冷ややかな目線を送った。Mr.ウルヴァリンは敢えて無視して話題を変えることにした。
「ところでストーム、此処にいるのもそろそろ潮時じゃないかね」
「……そうね。今動くのは危険だけど、長居も禁物ね。向こうからしたら此方の座標を掴んでいても不思議でないし」
「そうと決まれば、明日か明後日にも次のアジトに移ろう」
「簡単に言わないで。あなたと違ってやることが多いんだから」
隣の部屋からMr.ウルヴァリンとミス・ジェーンの会話に気づいたダニーが二人の元に寄ってきた。拠点の移動のことが気になるようだ。
「話の途中すまない、二人とも。もうこの拠点を棄てるのか?」
「ま、そういうことになるね。我々はお尋ね者だし、いつ何時襲撃されてもおかしくない状況だからね。幾つかアジトは確保しているから、其処に一旦移ろうと思うんだ」
「…Mr.ウルヴァリンは今思いつきでいってるんだけどね。でも遅かれ早かれ拠点の移動は考えていたのよ。ダニーやナターシャが回復して時期を見たらってね」
「そうか……確かにその方が良さそうだ。とはいえ、移動するにも何かと準備がいるだろ?」
「そうね。ただ何処に敵が潜んでいるか分からないから慎重に行動しないといけないわよ。極力荷物は減らして動きやすくした方がいいわね。別の拠点にも此処とほぼ同等の設備が整っているから、そんなに不自由はないと思うわ」
「了解、ミス・ジェーン。ナターシャが起きたらこの話をして移動の準備をする」
「ありがとう、ダニー」
ダニーは二人と話終えるとナターシャの眠っている隣の部屋へと向かった。
「Mr.ウルヴァリン。この近辺で使えそうな拠点は幾つあるかしら?」
「最短距離でも30キロ圏内だね。あとは大事を取ってもう少し足を伸ばすか、だね」
「拠点が先に落とされていないといいけど……」
ミス・ジェーンはこの先の不安を抱いたのか、少し顔色が悪くなった。そんなミス・ジェーンの肩にMr.ウルヴァリンは飛び乗った。
「君らしくないな、ストーム」
「私だって不安は抱くわ。脳天気なあなたとは違うのよ」
「ハハッ、つれないね」
Mr.ウルヴァリンが舌を出して頭を掻いた。その様子を見てミス・ジェーンは溜め息をついた。




