その13
「「キングブレイカー」ね……にわかには信じられない話だけど、確かに「ウロボロスの終末」に関わる一連の出来事との繋がりを考えると腑に落ちるところはあるわね」
「そもそも「キングブレイカー」自体は偶発的な産物だったらしい。とはいえ、起きてしまった不祥事隠蔽の為に軍や組織ぐるみで「ウロボロスの終末」をでっち上げたといえる」
Mr.ウルヴァリンとミス・ジェーンがパソコンの置かれた薄暗い小部屋で机を挟んで話し合っている。Mr.ウルヴァリンが得た幾つかの情報を整理しているのだが、相手は思いの外、巨大な存在であることを改めて認識せざるを得なかった。
「Mr.ウルヴァリン。貴方に「キングブレイカー」の完成を託したのはキングスカンパニーの人間だったわね。何故侵入者である貴方にキングスカンパニーを揺るがすような代物を渡したのかしら?」
「ドクターストレンジによると社長であるフランクへの私怨から秘密裏に開発していたらしい。何でも社長主導で進めている研究を阻止したかったんだそうだ。
ただドクターストレンジは余命僅かの為、寿命が尽きる前に会社外の者に「キングブレイカー」の完成を託したかったそうだ」
「ドクターストレンジって…貴方が勝手にいっている名前よね?」
「名前は…確か…忘れた」
「…そんなことだろうと思った。貴方、本当にAIなのかしら?」
「まあまあ、その内思い出すから。気を取り直して、その社長主導で進めていた研究なんだが、どうも人間の意識をAIに移植するものらしい。実現できれば擬似的な不老不死になれる代物だ」
「まさか……?その研究はとっくに封印されたはず…なぜ今頃キングスカンパニーが手を出したのかしら?」
「ストーム、心当たりがあるのか?」
「昔の話よ。知り合いが主導で進めていた研究だったんだけど、危険極まりないことや非人道的な観点から人権団体や同じ研究者たちから猛反発を受けて結局研究自体が永久に凍結されたのよ」
「そうか……先の「ウロボロスの終末」事件といい、サイクロップス君が絡んだ掃討作戦の一件といい、どうもこれまでのキングスカンパニーの動きが怪しいな…」
Mr.ウルヴァリンはフゥッと深呼吸して、パソコンのモニタに映る自身の姿をじっと眺めた。仮に有機生命体がAIとなって生まれ変わった場合、それは果たして命と呼べるのか。
自身もまた意識や記憶はあったとしても、所詮はAIのメモリに過ぎず、ミス・ジェーンやダニーら有機生命体とは決定的に違う。では自身の存在意義とは何か。Mr.ウルヴァリンの頭の中でそんな疑問が反芻していた。
「どうしたの?Mr.ウルヴァリン」
ミス・ジェーンが心配そうに話し掛けた。ハッと我に返ったMr.ウルヴァリンは照れ臭そうに右の前足で器用に頭を掻いた。
「すまない、ストーム。私としたことが少々感傷に浸ってしまったようだ」
「そう?ならいいけど」
「話を戻そう。ドクターストレンジは私怨以外に社長の陰謀に気づいていたのかもしれない。私に出会って「キングブレイカー」を託したのは偶然だが、もっと深い闇がひそんでいるような気がする」
「AIの件、あの大量のドローン製造ラインを見る限り、何か大規模な戦争を起こそうとしているのかもしれないわね。もしかしたらこの国そのものを乗っ取ること…クーデター…?」
Mr.ウルヴァリンの仮説を聞いたミス・ジェーンが眉をひそめる。
「とにかく善は急げだ。私の中にあるという「キングブレイカー」を取り出して解析してくれないか、ストーム。何かしら手掛かりがあるかもしれない」
「分かったわ、やれるだけのことはやってみる」
「あとドクターストレンジのことだが、何とか名前が思い出せそうなんだ。確か、アレックス……下の名前が何だったかな?アジア系っぽい感じだったんだが」
「まさか、アレックス・ロー………!?彼が、「キングブレイカー」を………?!」
平静を保っていたミス・ジェーンの表情が一気に強張った。信じがたい名を耳にしたようだった。
「そうそう、確かそんな名前だった。ってストーム、彼に心当たりがあるのか?」
「ええ………元同僚よ…。恋人だったペニーが亡くなった件で消息を絶ったと思っていたけど、まだキングスカンパニーに在籍していたなんて……しかも余命僅かだったなんて……」
ミス・ジェーンは完全に言葉を失い、呆然としていた。




