その7
「フランク、実に見事なドローンたちの出来映えだ。ところで例のパワードスーツについてはその後どうなっているのだね?」
キングスカンパニーのドローン製造ラインを一通り視察した軍服のお偉方がCEOのフランクに向けて言葉を投げ掛けた。
「ご心配なく司令官。「3DS-2020」の実戦データは得られましたので現在改良中です。思いの外戦果を挙げることができましたので、承認いただければ直ぐにでも生産開始できます。ただ…全て闇に葬る予定だったのですが、問題が一点ありまして…」
「問題だと?」
司令官と呼ばれた軍服のお偉方の表情が一瞬にして曇り出した。声のトーンから司令官の感情を察したフランクは司令官の顔を見ることなく、言葉を続けた。
「ええ、あのパワードスーツ自体はあくまでも試作品。しかも元々使い捨てる予定でした。人体実験という形で司令官にご協力いただき、海兵隊の精鋭と傭兵プラスドローンたちの戦闘をお膳立てしてもらいました。
万が一にも生き残る者がいないよう現場指揮官には裏切り者がいる旨と情報保持の為、残ったパワードスーツは全て破壊することをお伝えしたのですが、どうやら取りこぼしがあったようです」
「何!?少佐の奴め、しくじったのか!?」
司令官は思わず声を荒げて、苦虫を噛み潰すように顔をしかめた。見るからに不機嫌な様子である。一方のフランクは少々笑みを浮かべながら事務的な口調で報告を続ける。
「誰が生き残ったかはパワードスーツに搭載したAIで分かっておりました。その生き残った者を裏切り者に仕立て上げて同士討ちを狙ったのですが、思いの外しぶとい奴だったようです」
「……その裏切り者がまだ生きているのか分かるのか?」
「はい。とは言うものの途中で信号は途絶えました。楽観的に考えれば既に死んでいるでしょう。しかし、肝心のパワードスーツが回収できていない以上はまだ安心できません」
「…分かった、ルーズベルト少佐に引き続き捜索させよう。このような事態を招いたのは奴の責任でもあるからな。もし進捗がない場合は奴の更迭も辞さん」
「全くもって司令官は恐ろしい」
その言葉とは裏腹にフランクの表情は嬉々としており、寧ろこの事態を楽しんでいるようである。
「失礼」
そういうと司令官は携帯電話を取り出し、製造ラインから少し離れて通話を始めた。恐らく本部に連絡して、ルーズベルト少佐にパワードスーツと裏切り者とされたダニーの捜索の続行を指示しているのであろう。司令官が離れたのと入れ替わるようにサザンカがフランクの元に戻ってきた。
「ご苦労。首尾はどうかね?」
「口ほどにもありません。あの程度で私に挑むこと自体無謀であると分からせてやりました」
「仕留めたのか?」
「いいえ、後は部下に任せました。私の出る幕ではありません」
余裕を見せるサザンカとは対照的にフランクは少々困惑した表情を見せた。
「サザンカ……お前たちの実力はよく知っているし、認めている。だが、あまりにも自分や部下たちを過信しているとその内足元を掬われるぞ…」
「おや、社長。この私に諫言でも?」
「いやぁ、そういう訳ではないんだが…」
サザンカの有無を言わさぬ気迫に思わずフランクは後退りする。するとサザンカ配下の忍者がサザンカの横に現れた。覆面のせいで表情までは読み取れないものの深刻な状況にあることは容易に分かった。耳打ちされたサザンカの様子が急に変わったからである。
「……社長、先程は大変失礼しました。やはり私自身、少々調子に乗ってしまいました」
「?ああ、別にそこまで気にすることはない。次から気をつけてもらえれば…」
フランクがサザンカを宥めようとしたとき、サザンカが刀を抜いて横で耳打ちしていた忍者の片腕を突然斬り飛ばした。けたたましい悲鳴が上がり、忍者が片腕を押さえて悶絶する。
その悲鳴に驚いたのか、携帯電話で話していた司令官もサザンカの方を振り返っている。返り血を浴びたサザンカが不気味に笑い、フランクに向けて静かに頭を下げた。
「この度は私の不徳致すところです。この命に変えても「ブラッディ・レイン」のトドメは刺します」
余りの出来事に流石のフランクも呆然としてしまい、ただ頷いた。サザンカは腕を斬り飛ばした忍者を無理矢理立たせると首もとに刀を突きつけた。
「今回はこれくらいで許してやる。次はないと思え。お前たち全員を粛清しても私は痛くも痒くもない」
「………わ、わかり、わかりました、「主」…我々の命は……あなた様のもとに……」
小声で、しかし凍りつくような鋭い声でサザンカは忍者に警告した。サザンカは忍者の忠誠を確認すると再びフランクに頭を下げて製造ラインの出入口へ向かった。
後を追うように忍者もよろけながら、出入口の向こうへと消えていく。残されたフランクと司令官は言葉を失ったまま、思わず見つめ合った。
「社長、お帰りになられたと思っていたのですが、まだいらしたのですね」
不意に掛けられた言葉にフランクは我に返ると、言葉の主の方に視線を投げた。そこには管理室から出てきたアレックス・ローがいた。




