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キングブレイカー  作者: 43番
第三章 彼女と彼女の仇と彼女の仇の影
35/97

その3

 ドローンの搬入口に向かってバイクを飛ばしたナターシャは薄暗く長い通路もといトンネルの中をひたすら進み続けていた。時折ゆっくり弧を描くカーブが出てくるが、構造上、螺旋状のように地下へと通したのであろう。


 しばらく進むと黄色と黒の斜線が入った低いバリケードが現れた。よく見ると「keep out」の文字が見える。しかしナターシャはアクセルを緩めることなく、ウイリーのように前輪を上げるとその勢いでバリケードをジャンプで飛び越した。あっという間にサイドミラーの向こうにバリケードが消えて行く。



「随分と深いな。よほど金を掛けて作っているとしか…」



 ナターシャが独り言を呟いたとき、突然トンネル内の照明が一斉に消えた。ナターシャは一瞬動揺したものの構わずバイクを飛ばし続けた。


 すると、暗闇の先に大型のサーチライトが三基ほど煌々と照っているのが見えた。その中をよく見ると幾つもの黒い影が浮かび上がっている。影の数はおおよそ20~30ほど。人のようだが、逆光の影響で顔まではよく見えない。


 ナターシャはバイクの速度を少しずつ落としながら光の先を慎重に見据えた。光の眩しさに目を細めていると影たちが段々とこちらに近づいているのがわかった。何やら棒状の細長い武器を手にしているようである。


 ナターシャはサーチライトから数十メートルの距離でバイクを停止した。そしてバイクを降りると、光の先に歩を進めた。影たちをジックリと観察すると地上のトラックヤードで一蹴した忍者と同じ格好をしていた。どうやら連中の仲間のようである。



「あんたら、まだこんなに居たんだ。わざわざお出迎えしてくるとは気が利くじゃない」



 ナターシャはわざと挑発するように影たちに言葉を投げた。しかし影たちはナターシャの言葉を無視するように一斉に真ん中のサーチライトの方向に体を向けた。ナターシャは何事だ?という表情を見せ、影たちの視線の先を追った。


 真ん中のサーチライトの前に三人の影が朧気に浮かび上がった。三人の内、両脇の二人は一歩引いて真ん中の影に立てているように見える。どうやら他の影たちの視線は真ん中の影に向けられているようだ。


 真ん中の影は魅惑的なボディラインが強調された深紅のタイツスーツとプロテクターに身を包んており、背中に黄金色の鞘に入った日本刀を挿しているのがわかった。明らかに他の影たちと雰囲気が異なる。容姿だけではない、もっと鋭い殺気のような何か…



「主!!」



 真ん中の影に視線を送っていた影たちが一斉に恭しく敬礼した。そして影たちは「主」と呼ばれた真ん中の影の前を避けてナターシャまでの通り道を開く。これに対し真ん中の影は悠然と他の影たちの横をすり抜けてゆく。


 ナターシャまでの距離数メートルのところで真ん中の影は歩を止めた。ライトの逆光のせいで詳しい表情までは読み取れないが、恐ろしく不気味な微笑みを見せていることは理解できた。



「ブラッディ・レイン……久しぶりだな」


「…貴様、サザンカ!!」



 先程まで余裕を見せていたナターシャの表情が一気に強ばる。今目の前にいるのはナターシャが追い求めていた因縁の相手だからである。そんなナターシャを見てサザンカは嘲笑して背中の日本刀を抜いた。



「何を震えている?私に会いたいんじゃなかったのかな?」


「ああ、会いたかったさ。ずっと前からな!!此処で会ったが百年目、貴様の命頂戴する!」



 ナターシャも背中に挿した日本刀を抜いてサザンカに突進した。影たちがサザンカを守ろうとナターシャの前に立ちはだかろうとしたが、サザンカは鋭い視線を向けて影たちを制した。サザンカの目力に影たちは思わず尻込みする。


 ナターシャの一太刀目はサザンカの頭部のプロテクターを捉えた。そして迷うことなくナターシャは真っ二つにするように一気に刀を振り下ろした。



「手応えあった!」



 ナターシャはそう叫ぶと顔を上げてサザンカの方を向いた。が、しかしナターシャの視線の先にサザンカの遺体はおろか血飛沫すらなかった。



「?!?バカな!確かに斬ったはず…」



 ナターシャが事態を把握できず、辺りを見回すと、不意に背後から衝撃と鈍い痛みが襲いかかり、前のめりに吹っ飛んだ。



「なにぃ!?」



 ナターシャが衝撃のあった先に目を向けるとサザンカが悠然と立っていた。その姿は先程のナターシャの攻撃に動じていないどころか、傷ひとつ付いていないように見える。衝撃の正体はサザンカが日本刀の柄の部分でナターシャを打ち据えたものだった。



「どうした?ブラッディ・レイン?何を驚いている?引き返すのなら今の内だぞ?ま、どのみちもう遅いがな」



 サザンカはニヤリと口角を上げて冷ややかに笑いを浮かべた。

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